#4 ダンジョン配信するにあたって
とにもかくにも、こうして花子さんが来ているのだから、作戦会議をするしかない。まずは花子さんのダンジョンに対する知識を確認しておくべきだろう。
「花子さんはダンジョンについて、どれくらい知ってる?」
「どれくらいって、あれでしょ? ゲームによく出てくるじゃない。洞窟とか迷路とか」
どうやらダンジョンという概念は理解しているようだ。と言うか、花子さんもゲームしてたんだな。ちょっと意外である。
「それじゃあ、ゲームのダンジョンと現実のダンジョンの違いは?」
「……何か違うの?」
俺の質問に首をかしげている花子さん。やはり怪異伝手で収集可能な情報だけでは、実際のダンジョン事情まではカバー出来なかったらしい。俺も詳しいとまでは行かないものの、調べた限りのことを共有しておくのがいいだろう。
「まず大前提として、ゲームと違って死んだら生き返らない。まぁ、これはダンジョン内に限ったことじゃないけど」
当たり前のことだが、重要なことなので伝えておくしかない。過去、ダンジョンが現れた初期の頃は、ゲーム感覚でダンジョンに入って命を落とす若者が多発した。これをきっかけに、当時は個人でのダンジョン侵入を規制する動きもあったが、増え続けるダンジョンの全てを行政で管理し切れなくなるのに、そう時間はかからず。その中で構築されたのが、ダンジョン探索免許制だった。
つまり、未攻略のダンジョンに侵入するには、国家資格を取る必要がある。攻略済みダンジョンに関してはこの限りではないものの、危険度に応じて区分があり、最も危険度が高いダンジョンに関しては、進入禁止。それ以下のダンジョンも危険度によっては、探索許可証を行政に発行してもらう必要があるのだ。
「ゲームで言うところの、推奨レベルみたいなものかしら。意外と面倒なのね?」
俺の説明を受けて、花子さんは顔をしかめている。それにしても、この非常につまらない説明をゲームに置き換えて理解出来るのだから、花子さんはなかなか頭の回るタイプらしい。
「そりゃ、人の命が懸かってるからね。誰でもどうぞって訳には行かないよ」
「それじゃあ、ダンジョン配信ってのをしてる連中はどうなってるの?」
「攻略最前線にいるような配信者の人達は、全員免許を持ってるよ」
もちろん、俺はダンジョン探索免許など持っていないので、最初は探索許可も要らないような、危険度の低いダンジョンからのスタートになるだろうが。
「あ、それと。ダンジョンに生息している固有生物――まぁモンスターだね。こいつ等は通常ダンジョンから外には出て来ない。結界って言うのかな。過去に、調査のためにモンスターを生きたままダンジョンから連れ帰ろうとしたことがあるらしいけど、何か見えない壁みたいなもので遮られて、結局失敗したんだってさ」
一方、死んだモンスターから剥ぎ取った身体の部位や、モンスターの遺体そのものは、結界に阻まれなかったとのこと。これにより、新たな研究テーマが増えたと、その手の界隈では大騒ぎをしている。ダンジョンの出現は、生物学の分野はもちろん、畜産や、エネルギー問題など、幅広い用途で役に立っているのだ。
「モンスターってアイテムドロップとかしないの?」
これぞゲーム脳と言うか。確かにダンジョン出現初期の頃は、この話題でも盛り上がっていたものだ。今となっては懐かしい話でしかない。
「結論から言えば、そんなゲームみたいなことは起こらないよ」
ダンジョン由来の謎生物とは言え、生態としては割りと在来の生物に近しいものが多かった。一部に不可解な、生物と呼んでいいものか迷う種類のモンスターもいるが、それはそれ。倒しただけで、アイテムやら金銀財宝が湧くことはなく。あくまで、その生物のパーツに値がついたりするだけだ。
「夢がないわね~。これだから現実ってつまんない」
こうして実在している都市伝説の類にすら、夢がないと貶される現実とはいったい。心の中でそう思ったのは置いておいて、俺は話を先に進める。
「後はダンジョンボスの説明くらいかな」
「あ、ボス! いい響きよね! テンション上がるわ~!」
生前の花子さんは、どうやら相当のゲーマーだったらしい。現代でもばっちり通用する容姿の持ち主で、かつゲーマーとか。出来れば生前に出会いたかったものだ。
「ざっくり言うと、ダンジョンボスが討伐されてるのが攻略済みダンジョン。ダンジョンボスが未発見だったり、討伐されていない場合は未攻略ダンジョンって感じかな」
攻略済みダンジョンの数は、世界全体で1万ほどと言われている。日本に限って言えば、200くらいだったか。日本は島国で土地が狭いから、どうしても大陸の国と比べるとダンジョン数が少ない。それだけダンジョン資源に乏しいとも言える。
「つまり、これからあたし達は、未攻略ダンジョンに乗り込んでボスをばったばったと――」
「そんな訳ないでしょ。まずは手近な攻略済みダンジョンからだよ」
「何でよ!」
「さっきも言ったけど、俺はダンジョン攻略免許持ってないし、花子さんと違って俺は普通に死ぬから、いきなり危険なダンジョンになんか行ける訳ないじゃない」
そう。花子さんは幽霊なので、これ以上死にようがない。対する俺は普通の人間。もちろんモンスターと戦うどころか、人間相手の殴り合いだってろくにしていない人生を送って来た身だ。当然、まともな戦力として数えることは出来ない。
「ちなみにだけどさ。花子さんって、何か特別な力とかは使えるの?」
「何? それ聞いちゃう?」
いきなり意地の悪い笑みを浮かべだす花子さん。流石は本物の怪異と言うべきか。その様は、いかにも歴戦の覇者と言った風格を醸し出している。
しかし、この時の俺は失念していた。現代に存在するトイレの花子さんという怪異は、やはり現代式のトイレでこそ輝くのだと言うことを。
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