死にたい僕の前に現れた彼女は僕を飼う
狂歌
第1話プロローグ
生暖かい風が勢いよく吹き抜けるビルの屋上の端に男がいた。
ビルの下を見てみると車の音や人々が米粒のように見え、ここからでも下の声が聞こえるか耳を澄ます。
「……聞こえない……そりゃそうか」
視線を空に向けると、眩い光が目を刺激し、片目を瞑り、片手で光を遮断する。
光の根源を探ろうと、光の元をみると、オレンジ色になった太陽があった
。
太陽の光が周りの反射物に映り、幻想的な景色となっていた。
「……なんも感じない……」
男はゆっくりと立ち上がると、懐から市販のカッターを取り出す。
ゆっくりと、カッターの刀身を出すカチッカチッと音が鳴る。
そのカッターをゆっくりと己の手首に近づけていく。
手首には縦横に一線の傷ができていた。
カッターの持つ手は震えており、うまく狙いが定まらず、手元を狂わないようにゆっくりと刃が入らないようにそっと、まるで皮膚の上に軽い羽を置くようにすでに出来ている傷にあわせる。
そしてゆっくりと力を込めていくが、なかなかうまく力が入らず、震えが一向に止まらなかった。
「今更、ビビってるのかよ……」
どうせこんなカッターなんかじゃ死ねない体だ……っと自分に言い聞かせ、勢いよく手首を切る。
一瞬鋭い痛みが走ると、スッと痛みがやむ、
切った場所を見てみると、動脈がうまく切れなかったのか少し血が出ていた。
今回もこれじゅ死ねなかったと自分の不幸を恨むと手首から出ていた血を、自分の口に持っていき、ぺろっと舐めとる。
血であろうと大切な養分……勿体ない。
「君、ばっちい事してるね」
突然後ろから誰かの声が聞こえ後ろを見てみると、ハンティング帽子を被り、まるで透き通るような白髪の髪色の長い髪をまとめて三つ編みにしており、前に持っていっている。
顔は糸目に、口元に一つのホクロがあり、優しそうな雰囲気を醸し出していた。
突如として声をかけられた男は少しフリーズしてしまい、ずっと見つめていた。
「? おーい?」
「……」
フリーズした男の顔元で手を振ってみると、我に帰ったのと同時に下を向く。
「?……えっと君が
下を向きながら男ーー屍禍羽はゆっくり頷いた。
「そっか、僕は
そこから少し間が空く。
何を言いたいのか、屍禍羽は少しわかっていた。
分かった上で、聞くふりをした。
コイツも
今に始まった事じゃない。
どうせ、この人も……あいつらと同じだ、人の心に漬け込み最後はボロ雑巾のように使う……。
そう思っていると、突然両方の頬に暖かい何かが当たると思いっきり上に引っ張られる。
何事かと少し目を見開くと先ほどの神室がいた。
「人の話聞く時は目を見なさい」
優しかった顔からいっぺん怒った顔になり、「分かった?」と問いかけられ、渋々と頷くと、怒った顔から優しい顔つきに戻ると、ゆっくり手を離し、屍禍羽の頭を撫でる。
その時不思議な感覚に襲われる。
何か頭がゾワゾワとし、ぞくっと謎の感覚が背中を襲った。
「よろしい……じゃ本題に……君の残りの人生僕に飼われない?」
「……え?」
想像外の頼み事をされ、屍禍羽は少し声が漏れ、思考が止まった。
この出会いが屍禍羽の人生を大きく変えることをまだ知るよしもない。
そして時は今から数日前の朝へと時が戻る……いわゆる過去話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます