家族への第一歩
久美自身もだが、両親もあまり家族と縁がなかった。親の親、つまりは祖父母も亡く、またどちらも兄弟姉妹がいなかったので、ふたりが事故で亡くなった時、自分は一人ぼっちになった。
幸い、保険金のおかげで高校には通い続けられたが――両親と同じ世代はともかく、それより上、祖父母世代や逆に小さな子供はまるで接したことが無いので、緊張したし可能な限り距離を置いてしまっていた。おそらくだが、エレーヌも久美と同じような気持ちがあり、仕事を理由にして逃げていたのではと思われる。
(早くに母親を亡くしているからか父親は黙認していたし、新しい侍医の先生は助手が出来て喜んでいたけど……仮にも貴族の妻になったのなら、このままじゃいけないよね)
そう心の中で結論付けて、エレーヌは顔を上げて話の先を続けた。
「ですが、こうしてアーロン様の妻となったからには……伯爵夫人や皆さまに教わって、アーロン様の衣装を仕立てて差し上げたいのです。今まで、本当に申し訳ございませんでした。どうか、お力を貸して頂けませんでしょうか?」
再び頭を下げたエレーヌの上で、見えないが目配せをしている気配がする。
そして、しばしの沈黙の後――伯爵夫人が話し出したのに、そしてその内容にエレーヌは驚いて顔を上げた。
「それなら良いわ! アーロンの為でもあり、自分の為ですもの。ただ貴族の妻になったからって、義務感だけで動いては駄目。やりたい気持ちがないと、続けられなくなるものよ?」
「伯爵夫人……」
「あと、自分から型にはまるのも駄目よ? ただでさえ、周りからは『貴族だから』『妻だから』と色々押し付けられてしまうから……あなたを息子の嫁にと思ったのは、あなたのお父さまへの恩もあるけれど万が一、怪我をしてもあなたなら怖がらず、息子に寄り添ってくれると思ったからだもの。のめり込むのは良くないけれど、やりたい範囲でどちらも頑張りなさい? あ、せっかく家族になったのだから、私のことは『お義母さま』と呼んでちょうだいね」
エレーヌの視線の先で、伯爵夫人が――義母が、楽しげに笑いながら言う。気づけばそんな義母と同様に、他の侍女たちも微笑ましげにエレーヌのことを見ていた。
(受け入れられた……? そして、家族……私に……)
咄嗟にシルリーを見ると、笑って頷いてくれた。
そうしてくれたことで、ジワジワと実感が湧いてきた。前世でも現世でも、一人きりだと思っていた自分に、まさか異世界でこうして『家族』が出来るなんて。
「かしこまりました、お義母さま……皆さまも、これからよろしくお願いします」
そう答えて、エレーヌは感謝の気持ちを込めて三度、頭を下げるのだった。
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