一輪の鈴蘭

干月

プロローグ

 エジンドーラの城下町。そのすぐ隣に位置する森には、とある精霊が住んでいました。

 その精霊はもう何百年と生きているご長寿様でしたが、喜怒哀楽、あらゆる感情をろくに知りませんでした。その森には魔物が多くおり、人間が精霊に会いに来ることが滅多になかったからです。精霊は魔物とはコミュニケーションを度々取っていましたが、しかし話せる魔物などごく少数です。結局精霊は、何百年の時を、ほとんど一人で生きていたのでした。

 そのため、精霊には名前もありませんでした。いえ、あったのですが、呼んでくれる人がいないため、本人もすっかり忘れてしまったのです。

 精霊はそのことを寂しいとは思いませんでした。寂しいと感じるほど、温もりを知らなかったのです。

 

 これは、寂しさを知らない精霊の最期のお話です。

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