男喰島──オトクイジマ──

バイオヌートリア

第1話 或る人からの依頼

「リゾートバイトに行った彼氏が返ってこない……ですか」


 私は私立探偵。

 関東某所に位置するとある町で探偵業を営んでいる。


 と言っても、探偵なんてほとんど浮気調査と失せ人探し。

 こういう依頼は少ないがよくあることなのだ。


「しかし、バカンス先を気に入って帰ってこないみたいなケースだと連れ戻すのは難しいかもですよ」

「それはないと思うんです。

 彼は元々新しいもの好きで、東京以外で長期間生活するのが苦痛みたいで……

 だから、田舎の島で一か月以上滞在してるなんておかしいですよ。

 私が迎えに行ってもしばらくしたら帰るよって言って、そのまま仕事を辞めて、向こうにあるカフェで店員を継続してて……」

「それは不審ですけど、東京の暮らしにも飽きて久々に羽を伸ばしているのかもですし」

「とにかく、彼がなんで向こうに居続ける気になったのか身辺調査をお願いします」


 そう言って彼女は前金で一〇〇万円を置いて行った。

 浮気調査の料金としては、近辺である場合一日平均二万円くらい、大体一週間くらい調査する事になる。

 諸経費含めて二〇万円くらいがうちの相場だ。

 長期間になると成果報酬が一〇〇万円を超えることが無いわけではない。

 が、前金で一〇〇万は破格すぎるのだ。


 今回は遠距離のリゾート島の調査だから滞在費を含めて、前金で一〇〇万円を提示したのだ。

 ぶっちゃけ、やりたくないから断るつもりで、だ。

 少人数の事務所でそんな長期間の調査なんかしたくないもんね。

 そしたらさ、即金で持ってるとは思わないじゃん……。


「仕方ない、取り敢えず二週間、島でバカンスがてら仕事しますかー」


 こうして、バカンスシーズンも外れた秋口に瀬戸内海にあるリゾート島に赴くことになるのだった。


 事務所の予定を確認するが、半月くらいは大した用事は入っていないので、メールで全員に大きな仕事は受けないようにと連絡しておく。

 受付の電話を転送モードに切り替えると、インターネット経由で当該の島までの安い交通機関を調べる。


「LCCで空港まで飛んで……そこからはバスかな」


 そして島にある旅館に電話して、空き状況を調べ、若い男性が主人をしているカフェ兼ペンションを借りることができた。

 このカフェ、実は調査対象の働いているお店なのだ。


 旅行に行くのではないから、着替えなどは最低限に、しかし調査に必要なものは忘れないようにしていく。

 服に関しては、あえて向こうに行ってから買うのが俺の流儀なのだ。

 何故なら地域によって、流行りの服装や売っている服装と言うものに差異があるからである。


「普通に売ってるだろってCAPやソロクロの服を着て行ったときにアホみたいに浮いたんだよな……」


 かくして、旅の準備を終えた俺は、事務所の戸締りを警備システムをオンにしてから空港へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る