邪悪の王

筆開紙閉

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 長く続いた魔王陣営と勇者陣営の戦いは終わり、世の中は平和を取り戻すはずだった。しかし新しい秩序を築くはずの天の聖女とその契約者である勇者は消え、世界は戦国乱世に陥った。

 そして勇者陣営側のある国では王が殺され、その娘が王位を継承した。

「王位に就くのは俺だろうが!?」

 王の長男がそう言って、玉座に平然と座る女に迫った。

 女の名前はグラファイト・ギラファ・エヴェレットという。

 長い黒髪に隻眼、整った顔をしている。左手には鉄の籠手を付けている。右手は素肌を晒しているというのに。そして黒い軍服を着用している。彼女の権力の源泉が兵からの信頼と彼女自身の圧倒的な武力に由来する故にそのような服装を続けている、と周囲は考えている。ただ単に長年の従軍経験で同じ服装を続けているだけであるが。

 グラファイトは聖女である。超常の能力を持ち、人中にあって人ではないとされる聖女の一人だ。魔王陣営との三年間の戦争を戦い抜いた歴戦の戦士でもある。

「兄様はそのように考えておられるのですね」

 グラファイトは腰に差した剣を抜くかどうか考えた。またあるいは鉄の籠手を脱ぐか考えた。

 目の前の兄の末路は決まっている。今殺すか。数秒後に殺すかの違いしかない。

「もう敬語使う必要なくない?お前が王なんだしさ」

 男が突如としてグラファイトの兄の背後に現れ、回転式拳銃を発射した。兄の頭は柘榴のように弾けた。この暗殺者の男の名前はオズワルドという。

 オズワルドは黒いスーツに道化の仮面を被っている。つまりは王の認めた道化師だ。またそれだけでなく王の契約者でもある。契約者は聖女が人中にあるために必要な枷だ。社会的な身分を保証する者でもある。今ではもはや慣習化し無意味化しているとはいえ。

 グラファイトとオズワルドにおける関係はむしろ、グラファイトという聖女がその能力を十全に発揮するための従者という側面が強かった。グラファイトが主であり、オズワルドが従である。

「それもそうか」

 グラファイトは無感動な目線を兄の死体に向けた。

「これも必要な儀式だ。グラファイト、お前の兄を二回撃て」

 オズワルドがグラファイトの影であり、主はグラファイトである。

 例え実行犯がオズワルドとはいえ、一人で責任を負う気などない。

 二人で全ての罪と業を背負わなければならない。

「了解した。頭を二回弾けばいいんだな」

 グラファイトはオズワルドから拳銃を受け取り、二発銃弾を撃った。

 こうしてこの国にグラファイトの王位を認めない者は居なくなった。

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