終末世界のアルカディア〜荒廃世界を旅する二人〜

生駒 祐逸

第1話「まだ見ぬ世界へ」

 どこまでも続く灰色の台地。果ては見えない。

 果てが見えないのは濃い砂埃がもうもうと舞っているからで、視界は何十メートルと確保できない。


 その、濃い砂ぼこりの中で何かが動いていた。

 それは、旅の荷物を載せた大型のバイクだった。


「ほら、早くしないと追いつかれる」

 バイクの後ろの座席から声が発せられる。年端も行かぬ幼女のような声だ。


「解かってるって!」

 幼女の前方でバイクのハンドルを握っている者から声が返される。こちらは中性的な声をしていた。声の張りからして十代中頃の様な若さを感じさせる。そしてそれ以上の焦りを感じさせた。


 この二人組の後ろには、何とも形容しがたい巨大生物がいる。

 その生物は、触手と、巨大な目、クリオネのような口が付いている事が特徴だ。仮に〈稀なる触手テンター〉としておこう。

 このテンターという生き物は、軽く人の数十倍はある。地上に出ている、触手と口と目の半分だけで言えば人の数倍程度だが、地下に埋まっている身体を合わせれば途轍もなくでかい。

 そして、巨体に見合わぬ速さを持ち合わせている。


 速いと言っても所詮は生物。速度は精々40〜50km/h程度。二人が乗ってるバイクのエンジンを吹かせば余裕で逃げ切れる相手だ。

 ではなぜ逃げないのか。答えは単純。

「久しぶりの生き物だからね、こいつの肉を取っておきたい…」

 運転手が確認するように言うと後ろから声が帰ってきた。

「同意。動物性たんぱくは重要。特に旅では。」

 言葉ではこう言っているが、声のトーンは低く、言外に「稀なる触手テンターはマズいから食べたくない」という本音が漏れ出ている。

「君がテンターを苦手としていることはよくわかった。ボクも苦手だ。

 でもあれを食べられないとなると今夜は野戦食料レーションを食べることになる

 あと、追いつかれないギリギリのスピードを保持するのも大変なんだ。」

 だから頼むよ、と運転手は付け足した。

「分かった。稀なる触手テンターは嫌。でもレーションはもっと嫌。」

 そう言うと幼女は運転手の腿のホルスターから巨大な銃を取り出し後ろに構える。

 そして、〈稀なる触手テンター〉の口めがけて引き鉄を絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。

 全ての弾を使い切ると幼女は空になった弾倉を捨て、新たに取り出したそれを装填する。

 そしてまた、絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。


 運転手の携行していた弾倉が4つほど数を減らしたところで幼女は撃つのを辞めた。

 銃声が止んだことに気づいた運転手はバイクのエンジンを切る。

 惰性で少し進み、止まった。


「やったか?」

「それ、フラグ」

 運転手のうかつな発言を幼女が咎めた。

 しかし、後方にいる獣が動くことはなかった。

「.357マグナムを40発近くか…」

「私は正確に撃ち抜いた。」

「解ってるよ。」

 幼女が的確に急所を射撃していたのは分かっている。継ぎ矢のような芸当ができることも知っている。幼女の無駄弾は撃っていないという言外のアピールも要らない位に理解している。


 運転手はただ、急所を的確に撃ってマグナム40発分。その呆れるような頑丈さに呆れて、呆れ果てていた。


 ◇ ◇ ◇


稀なる触手テンター〉は夜までに捌いて今晩食べる分以外は干し肉にしようと二人で決めた。


稀なる触手テンター〉の身体の大半は地中にあるため、移動した後には塹壕の様な跡が残る。飛べない乗り物であるバイクでの移動時では〈稀なる触手テンター〉の移動跡は非常に厄介だ(言うほど数がいないためそこまで困る事はないが)。

 その厄介な移動跡にも活用法がある。それは野宿用地としてだ。

 日差しがきついこの世界では日陰で野宿しないと駄目なのだ。夜に日差しは関係ない、と思うかもしれないが、陽が沈んだ夜も結構眩しいのが今のこの世界だ。

 周りに屋根になりそうな岩が無ければこの移動跡に潜り、横穴を少し掘ってやればいい。それだけで陽の凌げる場所へ変わる。


「〈稀なる触手テンター〉に感謝しなくちゃだな」

 運転手は、今晩泊まる横穴が作れる事に対して《稀なる触手》に感謝を表した。

「確かに。〈稀なる触手テンター〉ありがとう。」

 幼女は、今晩野戦食料レーションを食べなくて済むことに対して感謝を表した。


「陽が沈むまでに仕事を終わらせようか…」

「私は横穴を掘る。そっちは〈稀なる触手テンター〉の方、やって。」

「ボクに大変なほうを押し付けたね…」

「これは合理的な判断。〈稀なる触手テンター〉を剥ぐ技術はそっちが上。」

 勿論本音は、「太陽の下で作業したくない」だろう。

「…」

(元々、〈稀なる触手テンター〉の解体っていう、太陽の下での過酷な作業なんてさせるつもりは無かったケドさ…押し付けられるとなぁ…)


 〈稀なる触手テンターを捌く時、地面に埋まっている部分を残すことが重要だ。理由は不味いから。

 埋まっている部分は、移動時にできた傷口に砂を巻き込みそのまま再生している為に体内に砂が多くあり、砂を噛むことも少なくないし、舌触りも悪い。

 地中に埋まっているので捌きづらい。というのも理由の一つだ。


 地上に出ている部分のみを骨と皮を残しながら運転手は捌いていく。

 腕の腱をナイフで断ち、骨から肉をはがす。内臓は苦いので食べないが、残しておくと別の稀なる生命ラファ達がよってくるので後で燃やす。眼球やミソは、好きな人は好きらしいが、正直言って運転手たちは苦手な質だったので、これも燃やす。

 そんなことをしていると、地上に出ている部分だけが骸骨のようになった。

 そして、骸骨の隣には溢れんばかりの肉、肉、肉。肉の山と内臓、眼球、その他の部位が転がっている。

 上半分のみでも巨大生物。二人では絶対に食べきれない、バイクに載るのかも怪しい量がそこにはあった。


「こっち、終わったぞー!」

 運転手が移動跡のほうへ叫ぶ。

 壁面から、にゅっ、とサムズアップした手が出てきた。勿論幼女の物である

(あっちも終わった、って事かな?)


 ◇ ◇ ◇


稀なる触手テンター〉に追われているうち、東に向かっていたのが南にそれてしまった。


「明日からどう進むの?」

 運転手が食事(触手の丸焼き)の準備をしていると、後ろから声がかかった。幼女だ。

「そうだね、コイツに追いかけられてる内にだいぶ南にそれたからね…

 ちょっと地図を取ってくれるかい?」

 運転手は触手の丸焼きコイツから目も話さずにかえす。

「ん。既にある。」

 幼女は右手に持っていた、丸めた紙を運転手に差し出す。


「まぁ、旧時代の地図がどこまで当てになるかわからないけどね」

「今どき紙の地図を使ってるの貴方だけ。」

 幼女が、資源と荷物容量の無駄、というニュアンスを含んだ事実を非難がましく告げてくる。

「まぁ、明日の天気に寄りけり……と言ったところかな」

 運転手は、幼女の非難を軽く無視して、明日の予定と経路を算出するのを後回しにした。


 ◇ ◇ ◇


 次の日、雲一つない快晴。昨日あんなに舞い上がっていた砂埃スモッグもなくなっていて、視界も良好だった。

「快晴…だね」

 運転手が顔を引きつらせて呟く。

「うん。快晴」

 幼女が、無表情のまま念押しをしてくる。

「だったらやることは一つ」

 運転手と幼女は顔を見合わせ、頷きあう。

「「今日は1日だらだらしよう。」」


 容赦なく太陽は照り付けるが移動跡内は陽の光に侵されてはいない。〈稀なる触手テンター〉の骨と皮が日陰を落としてくれていた。



 書き途中なり。

 つづきを書く気力もないので続きは出ないかも……

 友人に「『キノ旅』のパクリやん」と言われた。

 その通りです。何なら、終末感とか出したくて、『すかすか』の十七種の獣らしきものも出してる。ついでに、幼女のイメージは、『スコップ・スコッパー・スコッペスト』だよ!!


因みに、作中の銃は、デザート・イーグル。

他にも、ボディガード380とか、マテバオートリボルバーとか、グロック25とかが出る予定だったゼ!

作中の弾丸は未来の謎技術で作られた成形炸薬弾って設定だぜ!

 




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