短編集:やいばのハンドスピナー
蔵薄璃一
第1話 みさいる
A氏が国に命じられ、「みさいる」を作った。
「すごい!すごいぞ!我ながらとんでもないものを作ってしまった!」
1人興奮するA氏、それもそのはず今までにない工程を踏んだためか、高い破壊力を持ち、かつてない大きさのものであった。
そう、偶然にも彼は今までにない新しいみさいるを完成させてしまった。
まさに偶然の産物であった。
これは他国に対する強い抑止力になるだろう。
国の上層部はそう考えて、これを抑止力としてどう利用したものかと考えていた。
しかし、作った本人であるA氏にはある欲望が心の中で渦巻いていた。
「このみさいるを撃ってみたい!一体どれだけのものを破壊し、影響を与えるのだろう!?」
子供のような純粋な、後先ないこの思考は、研究者ゆえか…あるいは作ったからには使ってみたいという職人魂にも似たものか。
♢♢♢
B氏の住む国では、A氏が新型のみさいるを開発したという情報を得た。
そこで、国が「こちらもみさいるを開発しよう」という話となり、開発チームのリーダーとして、A氏と昔の同僚であったB氏が選ばれた。
A氏が天才と呼ばれるなら、B氏は秀才と呼ばれる人間であった。
B氏にとってA氏は追いかける存在であったが、上のみを目指すA氏にとってB氏は認識もしないどうでも良い存在であった。
しかし、B氏は今回の開発計画には乗り気ではなかった。
一応B氏にも開発案はあったのだが、チームのメンバーや関係者から「みさいるの威力が強すぎるのはよくない」と言われ続けた結果、彼のモチベーションは地に落ちた。
最終的に、彼はみさいる開発に手をつけず、周囲の意見を同意するだけに留まり、結果としてみさいる開発は停滞し始めていた。
♢♢♢
そんな時である。
A氏の我慢と興奮の限界を迎えた。
A氏はみさいる発射を決行した。
標的は、B国。
理由もない、証拠もない。
ただ確信した。
この国なら、大丈夫だと。
この国なら、攻撃を加えても何も無いと。
武力行使ではなく、話し合いのみで終わるはずだと、理由ない確信があった。
だから、A氏はみさいるを発射した。
発射を見届けたA氏は、その身をワクワクと震わせ、少年のような純粋な瞳を夏の雑木林でカブトムシを見つけた時のように輝かせていた。
♢♢♢
A国のみさいるは当初国の端、住民のいない山地を狙っていたが、予測した軌道とは異なる国の中心部に着弾し、広範囲に爆発が起きた。
爆発だけに留まらず、爆破と同時に中から菌や化学ガス、菌やガスが体の中に入りやすくするために肌を傷つけるミクロ単位の破片。
爆発だけで死なない人間のために施された第二の攻撃。
結果としてB国は甚大な被害を受け、さらには大統領が亡くなってしまいました。
結果、緊急事態により、すぐさま副大統領が新たなる大統領として就任した。
副大統領は前大統領と異なるタイプであった。
一政治家として、大統領のことは尊敬していたが、考え方などは全く異なっていた。
彼は戦争の口実を得たと内心ほくそ笑み、A国へ報復と言わんばかりに大量の兵士を送り込み、A国へ攻め入りました。
結果、A氏の家族は死んでしまいました。
それを一報で知ったA氏。
絶望した彼の欲望は復讐心へと変貌し始める。
復讐に燃えるA氏は、B国を滅ぼすことだけを考えました。
そして、初めてB氏の存在を認識したのです。
対するB氏は、A氏のことなど考えず、また発射されるであろうみさいる対策を考案。
ダメだと言われても引き下がらず、根拠やデータでのシミュレーションなどを元に説明していき、頭の硬い上層部に理解はされずとも彼を支持する人達は増えていった。
開発チームのメンバーを始め、国の関係者、そこから最終的には大統領と繋がりができるまでに至った。
A国の攻撃はB国に守りに阻まれ、国の守りが疎かになる以上に、軍事費用として税金を徴収する額が増え、国民からの反発や国を出て行く人が増えた。
B国の守りはA国の攻撃を凌ぐことでいっぱいいっぱいだった。
しかしある時、A国の攻撃がパタンと止んだ。
これ好機とB国は限られた戦力でA国へと攻め込んだ。
国民からの反発や、国外へと脱出した国民が多すぎたゆえに疲弊しきった国を落とすのに、そう時間はかからなかった。
結果として、B国がA国を併合し、領土を広げた形となり、この戦争は集結した。
時は流れ、大統領はもちろん、政治や国の方針が変わり、戦争の話がタブーになった。
復讐に燃え、さらに兵器を開発していったA氏、人々を守るために兵器を開発していったB氏。
どちらにせよ、当時はともかく、後世に語り継がれたのは、人を多く殺した兵器の開発者、悪魔の科学者として名が知られるようになっていましたとさ。
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