第32話 別れた女の幸せは素直に喜べないという世界を知った煌ちゃん
「とっ、ととっとぉーぅ!とにぃかくぅ!!座ってっ!レレレの冷静にっ!話しましょう!!ねっ!ねっ!」
「煌ちゃん、すっごい動揺してるじゃん…。ねぇ、郁美。もしかして…私と別れた理由は2人が付き合うためだった?」
「違う!別れたときは煌ちゃんとは会ってなかった!それは本当だよ!だから煌ちゃんを責めるのは絶対にやめて!」
「そんな、、ムキになって…。知らなかったな。まさか2人が付き合ってるなんて。でもそっか。そうだよね。私に言う必要はないってことだよね。郁美にとっては。でも、煌ちゃんには言ってほしかったな…。」
「あ…あ…、違うの…。いや、違くはな、いえ、でもあの、私は郁美ちゃんに、お二人は別れたのだと前から聞いていて、その…」
どどどどど…、心臓の音が…。煌冷香の心臓の音が2人にも聞こえそうなほど響いていた。悪いことはしていないはず。でもなにか、恭子にとって不快なことをしてしまったという感覚はある。しかし、ならどうしたら良かったのか、それはわからない。煌冷香はまるで、初めてスキーのゲレンデに来たのに上級者コースをステッキなしで走り出してしまったような危機を感じていた。ちょっと待ってこれどうしたら良いの!!
「悪いけど、3人でお茶は遠慮するね。じゃ、2人はお幸せに。」
「待って!きょんちゃ、はうっ!!」
「煌ちゃんっ!!!!」
「え、煌ちゃん!?なに!?」
あまりの緊迫した空気に、煌冷香の心臓は耐えきれなかった。なぜなら、モイラとの約束を守らずに、血中コレステロール値は高く、血糖値の上昇にも耐えられなくなっていたから…。脈拍でサンバのリズムを刻んだ煌冷香は、、酸素を吸うことを忘れてしまい、その場で倒れてしまったんだ、、ドスン
「きゃあ!どうしよう!!郁美!!」
「煌ちゃん!煌ちゃん!!」
倒れた煌冷香を運ぼうにも、郁美も恭子も煌冷香の自宅を知らなかった。やむを得ず救急車を呼ぶと、郁美だけが付き添い病院へと運ばれた。郁美は煌冷香の学校に連絡を入れると、学校から連絡を受けた母親が迎えに来ることになったと聞かされた。
(はぁ、、今から煌ちゃんのお母さんが来る。なんて言おう…。まさか、お付き合いしてますと言うわけにはいかないよね。煌ちゃんは恐らく、イタリア行きを阻止するためには私との仲を家族に知られたくないはず…。ああ、話があると言ってたのにまだ聞けていないから判断ができない!)
しばらくして、待合室にいた郁美に看護師が声をかけてくれた。おそらくただの失神だろうと。しかし念の為に検査は必要だとも聞かされた。まだ目を覚まさない煌冷香は処置室にいたが、郁美が会おうとする前に煌冷香の母親が到着してしまった。
「すみません、西園寺煌冷香の母です!娘が倒れたと聞いて、」
「西園寺さんですね。今はまだ処置室で眠っています。ご案内しますので…」
看護師と母親のやりとりを少し離れたところから聞いて、郁美は勇気を出して母親に話しかけた。
「あの、煌冷香さんのお母さんですか?」
「はい?そうですけど、貴女が助けてくださったの?」
「一緒にいました。倒れてしまったので救急車を呼んで…お母さんに連絡できなかったので学校に知らせたんです。」
「まぁ!本当にありがとう!お名前を伺っても良いかしら?煌冷香のお友達ですのね?」
「はい。仲良くさせていただいてます。笹島郁美と言います。失神しただけだろうとさっき聞きましたが、検査は必要らしいです。」
「あの子、とても健康な子なのに…。まさか、太りすぎたのが原因じゃ…」
「違います。ちょっと、、いや、」
友達と揉めたから…とは言うべきではないかもしれないと、郁美は言い淀んだ。なんにしても、煌冷香に都合が悪くなるようなことは言えない。余計なことは言わずに黙っていようと決めた。
「まぁ、詳しくは医師に聞きますね。貴女もご予定があるでしょうから、あとは私に任せてお帰りくださいね。後ほど、お礼をさせて下さい。」
「わかりました。えっと、いや、……ではお願いします。帰ります。」
一目でも会いたい。そう言おうとしたが郁美は我慢した。幸い、大した病気では無さそうだ。夜には煌冷香も自宅に戻り、連絡をしてくれるだろうと考えた。そして後ろ髪を引かれる想いでその場を後にしたのだった。
その頃、煌冷香は夢を見ていた。
「煌冷香!煌冷香ったら!」
「ん、タンドリーチキン?」
「ねぇそう見えるの?嘘でしょ?こんなにかわいい私が!?」
「ん~?え?モイラ様!モイラ様なのね!?」
「チキンじゃないことは確かよ。クロートーよ。ていうか、煌冷香!貴女ねぇ!3回しか会えないって言ってあるわよね?全然言う事聞かないから来ちゃったじゃない!」
「来てくれて良かった!もうわからなかったの!どうして良いやら…」
「わかるけど!貴女、58歳までに人生軌道修正しなきゃなのよ?躓きっぱなしじゃない!この先私達が貴女に助言できなくなったら困るのは貴女なのよ?」
「そ、そうか!じゃぁ……帰ってください!今日会ったことはなかったことに!」
「そう言うと思ったわよ。あのね、私内緒で来たの。だからすぐに戻るわ。バレたら悪魔みたいな課題を出されるの、天使なのに。今日はサービス!だから誰にも言っちゃダメよ!?30秒で済ませるわ。」
「気前が良いのね!わかりました!あの、どうすれば!?」
「良いこと?郁美はぽっちゃりした貴女が好きなの。痩せるとなれば妨害してくるわ。でも貴女は一度恋を経験するべきなの。己の恋愛下手な性格に気づくためにもね。相当ひどいからね貴女。で、恭子のことは郁美に任せて放っておきなさい。貴女が何か言えば言うだけ悪化するから。」
「わかったわ!でもイタリア行きは?どう回避すれば、」
「貴女の母は決して許してはくれないわ。だからこうするのよ。いい?あっ!やばい!時間がない!行かないと!ごめんね、煌冷香!あとは自分でなんとかするのよー!次は少なくとも10年後くらいに来るわ!」
「待って!クロートー様!クロートー様ぁぁぁぁ!見捨てないでぇぇぇぇ!!」
天界から黙って地上に降りてきたクロートーは、天界にいないことに気づかれそうになっていた。慌てて飛び去るクロートー。必死に呼び止めようとしたところで、煌冷香は目を覚ましたのだった。
続く。
【GL】きらびやかの煌びやかな人生が約束されてないみたいなので必死に抵抗する話 葉っぱ @gibeon
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