第2話 歯が入れ替わるときなの。5才の煌冷香。

 なんだったんだろう、、あのリアルな夢は。

 煌冷香、5才はベッドで寝ながら考えていた。


「いいえ。煌冷香。考えないのよ、、感じなさい。」


 西園寺家の一人娘として、恥ずかしくない人生を歩みなさいと、2才の頃から言われ続けてきた。おまるも使わなかった。離乳食は中国から取り寄せた最高級の食材で作ったお粥、そしてアメーリカから取り寄せたオーガニックのオートミールだった。未だにこの2つの離乳食は食べているわ。5才にもなって離乳食を食べているのはマミーとダディーしか知らないけれど。。


「マミーが私をバイリンガルにするために雇ってくれた、ベビーシッターのイザベラ・・・元気かしら。ビルボードを目指すと言って自国に帰ったらしいけれど。。イザベラのガラガラはソウルだった。。」


 煌冷香は考え事が脱線しすぎて、58歳の自分について考えることを忘れた。


「ただいま~。煌冷香。ダディーだよ。今、仕事から帰ったよ。具合はどうだい?」

「ダディー!すごく苦しかったの。ダディー!!」

「おお、かわいそうに。さぁ、おいで。抱っこしてちょっとお散歩しよう。気分転換をしないとね。」

「うん。ダディーの秘蔵庫に連れて行って?絵画が見たいの。」

「わかったよ。煌冷香はダディーに似て、芸術が大好きだからね。」


 煌冷香はダディーが大好きだ。大きな腕に抱っこされて、古美術商の父が趣味で集めた美術品を保管している部屋に連れて行ってもらう。


「さぁ。煌冷香。どの辺から観るんだい?」

「そうね。まずは一番のお気に入りのあの絵を見せて?」


 煌冷香には、ずっとお気に入りの絵があった。それは、ギリシャ神話に出てくるモイラの絵だった。


「運命の三女神だね。煌冷香はあの絵が好きだね。」


「うん、ダディー。なぜかわからないけれど、あの絵の女神は生きている気がするのよ。ああ、いつ見ても素敵。あのね、ダディー。マミーがね、小学校に入るまでに九九を言えるようになったらモイラに会えるって言ったの。だから、私懸命に覚えたわ?だけどね?歯が抜けてしまって言えなくなってしまったの。。すちすちすじゅうくになってしまうの。」*7の段がどうしても言えない。


「それは残念だったね。じゃあ、ダディーがこの絵をしばらく、煌冷香に貸してあげよう。病気が治るまで、部屋に飾ると良い。」


「え、本当!?ダ、ダディー!!うれしいっ!」

「ははは。でも大事にしてくれよ?傷をつけてしまったら価値が下がってしまうからね。」

「わかったわ、ダディー。ああ、大好きよ。私、きっとダディーみたいな素敵な人と結婚するわ!」



 そうして、煌冷香は一番のお気に入りの絵を大事に抱え、自分の部屋へと戻った。


「さぁ、まだ少しだけ熱があるようだから、静かに休むんだよ。」

「わかったわ。おやすみなさい。お願い、今日は電気をつけておいて?絵をしばらく見ていたいから。」

「わかったよ。またあとで電気を消しに来てあげよう。お休み、煌冷香。」



 こうして、まだ微熱のある煌冷香は、大好きな運命の三女神をウットリと見つめると、やがて眠りについたのだった。


 そしてまた、、夢の世界へ入っていく。



 続く。


 

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