第40話
5年の歳月を経て訪れたその場所は、何も変わっていなかった。
無機質で、何の面白みのかけらもない。
どうして、こんなところに、自分たちは足を踏み入れたのだろうか。
あの時は楽しかった。
まひろと一緒に何かできれば、どこだろうが楽しかった。
それが、なぜかあんな事件を引き起こした。
きっかけは、不幸な事件だったのだ。
戒の仕掛けた罠にまんまと引っかかった、哀れな子供。
それが自分たちだった。
やがて、由希は廃墟の最奥にたどり着いた。
そこに、まひろは一人佇んでいた。
「まひろ」
由希の言葉に、まひろはゆっくりと振り返った。
彼女の表情は、諦めと、悲しみと、ほんの少しだけ、見つけてくれた嬉しさを含んでいるように見えた。
「由希、どうしてここに?」
「お前が、ここにいると思ったからだ」
「そっか」
自嘲するように笑って、まひろは視線を虚空に向けた。
「私たち、小さい頃から色んな所に言ったよね」
唐突な話題に由希は何も答えることが出来なかったが、まひろは気にしていないようだった。
「初めて、私が由希と話した時。砂場で遊んでいた由希に声をかけて、ぶすっとしながら、そのまま砂遊びを二人でしたよね」
「そんなこともあったな」
「一緒の小学校に入ったのに違うクラスになって落ち込んでる私に、由希がすっごく慰めてくれて、すっごく嬉しかった」
次々と言葉がまひろの口からあふれてくる。
「わたしが由希のクラスに遊びに行ってばかりで、クラスの人に私がからかわれてるのを怒ってくれた。それでもその後、私がゆきのクラスに行かなかったら、由希が急にプレゼントをくれた」
「それって……」
「指輪をくれて、言ってくれた。悪いやつは俺がみんなやっつけたから。俺が、まひろを守るからって言ってくれた」
由希は頬が熱くなった。そんなことがあったのは覚えているが、まさか自分がそこまで恥ずかしいセリフを言っていたことは忘れていた。
そんな由希を他所に、まひろの声は震えていた。
「でもさ」
「え?」
「この思い出も、本当は全部あのローブの人のモノダってことだよね」
まひろは笑っていた。
まるで全てを投げ打ってしまうような、寂しすぎる笑顔だった。
「私は、あの人から生まれた。だから、この記憶はすべて作られた者ってことだよね」
思い詰めるように、まひろは語った。
「あの人が、許せないって言ってきたこと。私は、わかるんだ」
「え?」
「だって、私も由希の事、大好きだもん。もし、私があの人だったら、私だって同じことを考えると思う」
「何ってるんだよ」
「だから、偽物の私は消えるの」
その言葉に、由希の理屈じゃない部分が爆発した。
「ふざけんな!」
由希の叫びに、まひろは何かを堪えるように、口を真一文字に結んだ。
「お前は偽物なんかじゃない、まひろは、まひろだ」
「でも、やっぱり私は……」
「言っただろ?俺はまひろを守るって」
「だから、それは」
「そんなことない。俺は、まひろに、言ったんだ」
屁理屈でも、お為ごかしでも、詭弁でもない。
それは、由希の、心の底からの、叫びだった。
「俺が守るのは、お前だ!今俺の目の前にいるまひろだ」
この思いは五感じゃ表現しきれない。
「足りないっていうんだったら何度だって言ってやる!だから、消えてたほうがいいなんて......偽物だなんていうな!」
想いという、感覚(アナザーセンス)を言葉に乗せて。
「俺は一生、まひろを守り続ける!」
由希の想いを聞き届けると、まひろの目から涙が溢れたり
「由希......由希ぃ!」
まひろにの元に由希は歩み寄り、優しく抱きしめた。
「私も、由希と一緒にいたい……」
「ああ......俺もだ
暖かな体温。
それは確かにここにある。
俺が一生、まひろを守るんだ――
「偽物がよくも抜け抜けと」
「っ!」
由希が振り返ると、そこには「まひろ」が立っていた。
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