真実と決着

第37話

 突然響いたその声に、由希は思わず振り向く。

 そこにいたのは、

「瑠夏」

 由希の呼びかけは、ルカには届いていなかったり。

 彼女の視線はその先にいるもう一つの人影に向けられていた。

 人影は、黒いローブを全身に纏っていた。

由希はその姿に見覚えがった。

そして、ローブの人物は以前と同じように能力で生成した拳銃をまひろに向けた。

「まひろ!」

由希がまひろを庇おうと動くよりも先に、銃声が響く。

しかし、凶弾はまひろに届くことはなかった。

「ミントさん!」

ミントがまひろのの前に立ちふさがり、銃弾をその小さな体で受け止めていた。

 彼女の服が赤く染まっていき、

「く……油断したにゃ」

ぼやきながら、ミントはその場に倒れこんだ。

唖然とする一同に構わず、ローブの人物は新たに生成した銃を、再びまひろに向けて構えた。

引き金が引かれる瞬間――

「!」

足元の影が歪み、食虫植物のようにローブの人物を飲み込もうとした。

 瑠香が能力の影で攻撃したのだ。

「もうやめてください、リーダー」

 毅然と、瑠夏は行った。

「これ以上、あなたが人を殺めるのなら、私はあなたを止めます」

 いつもの快活な瑠香からは想像も出つかないほどの硬い声音だった。

 瑠夏の言葉にローブの人物は一瞬ためらったようだったが、やがて狙いを瑠夏に変えたようだった。

 複数の銃声が鳴り響く。

 瑠夏の影が蠢き、彼女の前に壁となって現れ銃弾を受け止めた。

 再びローブの人物が宙に手をかざす。

 光と共に持ち主の身の丈以上もある巨大な物体が現れた。

 それは対戦車用に設計されたライフルだった。

 本来なら地面に設置して使用するはずのそれを、ローブの人物は両手で抱えて、瑠夏に狙いをつけた。

 まるでダイナマイトが爆発したかのような音と共に銃弾が発射される。

 しかし、その弾丸を瑠夏は身を捻って交わす。瑠夏は弾丸の衝撃波で髪とスカートを揺らしながら、ローブの人物に肉薄し、針のように具現化させた影を撃ち込んだ。

 ローブの人物は紙一重でかわしながら、いつのまにか手にした銃で反撃する。

 ゼロ距離の展開が繰り広げられる。

 今更ながら、瑠夏がオーナーとして高い戦闘力を持っていることをユキは理解した。

 影を使った攻撃と体術のバランスは、オーナーとして生きてきた年月の長さを物語っていた。

 しかし、ユキは同時に瑠夏の動きに迷いがあることを感じた。

 後一歩の所で攻撃を止めているような気がしてならないのだ。

 やがてそれは二人の間の攻防戦に、形となって現れる。

 徐々にローブの人物の反撃が瑠夏の体に届き始めた。

 瑠夏の表情にも余裕がなくなって行った。

 そして、遂に均衡が崩れた。

 ローブの人物の銃弾が、瑠香のふくらはぎを貫き、追い打ちに数発、彼女の体に穴をあけた。

「かはっ!」

 瑠香が力をふり絞って、影の刃を飛ばす。

 ローブの人物はその反撃をかわした。

 最後の一撃を躱された瑠夏は力尽きたように崩れ落ちた。

 しかし、最後の瑠夏の一撃は、ローブの人物の被っていたフードを切り裂いた。

 慌てたようにしてローブの人物が距離を取るが、遂にローブの人物の願望が顕になった。

 そして、その場にいた全員が驚愕した。

「まさか……そんな」

 ローブの人物の素顔は、まひろとまったく同じ顔だった。

 驚きは由希とまひろだけのものではなく、瑠香も同様のようだった。

「一体、どういうこと……」

 瑠夏は血溜まりの中でつぶやいた。その問いかけに応えるように、その人物は口を開いた。

「許せないの」

 初めて聞くその声は、まひろそのものだった。

 そして、その言葉は他でもないまひろに向けられていた。

「偽物のお前が由希と仲良くなっていくのが」

「......え?」

 由希は思わず聞き返した。

 まひは驚愕のあまり言葉を失っているようだった。

 そんな二人に対して、まるで突きつけるようにその人物は言った。

「そいつはね、私が能力によって生み出した、私の複製品なのよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る