第36話、
由希とまひろは夜の街を駆け抜けていた。
「ははは、逃げんなよお二人さん」
不快な声を背中に聞きながら、由希は必死に足を動かす。
ミントに作戦を伝えられてから数日。
早くも戒が接触してきた。
由希は予めミントから指示された場所を目指す。
目的地に近づくにつれて人気がどんどん少なくなっていく。
人を巻き込むことないという安堵を抱くと同時に、目撃される可能性が減ったことからか戒の攻撃が激しくなった。
由希は猛攻をなんとか躱しながら走り続けた。
時折、まひろがけん制するように、戒に生成した武器で発砲する。
「ははは、無駄無駄あ。この前やって分かっただろう!?お前たちの攻撃は俺に通用しないんだって!」
「いちいちおしゃべりなやつね」
「まったくだな」
やがて目的の場所が近づいてきたところで、 由希はミントに連絡を入れた。
「了解にゃ」とミントから返事が返ってくると同時に、一軒の寂れた建物が見えてきた。
「あそこか」
「そのはず!とにかく、入りましょう。ミントさんが待ってるはず」
由希はまひろに頷いて中に入った。
「へえ、こんな汚ねえ場所で殺されたいってのか」
戒も同じく侵入したようだった。
「思えば、5年前もこんな感じの場所だったなあ……あの時はイチャコラしてるとこを邪魔しちゃって悪かったなあ。今回は冥土のみ上げに、終わるまで待っててやろうか?」
下卑た挑発を聞き流しながら、由希とまひろは奥に進む。
意外にも中は広く、入り組んだ作りをしていた。
「ミントさんはどこにいるんだ」
「わからない、ただ中にはいるはずよ」
懸命に足を動かすが、由希の中で焦りが大きくなっていく。
「くそ、一体何だってんだ……うわっ」
由希の近くのがれきが吹き飛ぶのが見えた。
戒の能力によるものだと由希はすぐに気づいた。
そのがれきの向こう側から、戒が現われた。
「さて、追いかけっこはもう終わりにしようか」
「くそっ」
由希も近くの壁に手をついた。
がれきの破片が戒に向かって飛ぶように壁を破壊する。
しかし、まだ力の扱いが不安定で、がれきはあらぬ方向に飛んで行った。
「はは、無駄なあがきだな」
まひろが銃を生成して、戒にうち放つ。
しかし、銃弾は戒の目の前に生まれた空間のゆらめきに飲み込まれてしまった。
「終わりだな」
戒がこめかみまで裂けた口角をあげた。そして口を開くと、由希は自分が立っている場所がゆらめきのが見えた。
ここまでか。
せめてまひろだけでも助けなければ。
そう思うが、体が動かなかった。
やがて、戒が咢を閉じようとした瞬間――
「お前たち、待たせたにゃ」
由希の耳に待ちのぞんでいた声が届いた。
「ミント……さん」
「もう安心するにゃ」
「なんだ、このちんまいの」
「ちんまいとは何にゃ!私はこいつらのリーダーにゃ!」
「へえ?」
戒は僅かに興味を示したようだった。
「おもしれえ。お前の能力を見せてみろよ」
「能力?そんなものはないにゃ」
「はあ?ないだと」
「そうにゃ、私はオーナーで無いにゃ」
ミントの答えに、戒裂けた口をだらし無く開け放った後、
「は、ははははははははははは!」
大声で笑い始めた。
「ははは、お前、オーナーについてわかってんのか?能力を使えなければオーナーと闘えるはずがねえって、こと」
「確かに、そういう風に言われてるにゃあ」
「まあいいや。それじゃあ望み通り、ぶっ殺してやるよ!」
戒がミントに襲い掛かった。
凶暴さを具現化した咢が広げられた。
遠隔で発動するだけでなく直接のその顎で攻撃する事も可能なんだろう。
そして、仁王立ちしているミントの小さな体が飲み込まれようとした瞬間――
「がは!」
まるで小さな爆弾が爆発したかのような衝撃音が聞こえたと同時に、戒の体が吹き飛ばされた。
「まったく、これだから能力を好き放題使うやつは嫌なのにゃ」
ミントは服の埃を払いながら、
「実際、こういう風に侮られることはすくなくないがにゃ、あそこまで露骨にされたのははじめてにゃ」
そして、拳握り締め、戒の方向に向き直った。
「て、てめえ、一体何しやがった」
がれきに埋もれていた戒が肺出てきて、恨みを込めた視線をミントに向ける。
「能力がねえってのは嘘だったってことか」
「嘘じゃないにゃ。本当に能力はないにゃ」
「ふざけんじゃねえ」
「その代わり、私は匂坂家に代々伝わる古武術を極めているにゃ」
ミントはおもむろに、呆然としていた由希とまひろに振りかえり、安心させるように笑顔を向けた。
「なめんじゃねえええええええ」
戒が再びミントに突っ込んでいった。
ミントは戒の突進をひらりと交わすと、戒の横っ腹に強烈な膝蹴り入れた。
「ぐは!」
能力を使わない純粋な練度のみの一撃は、オーナーである戒に確実に効いているようだった。
さらに顎に一撃、
「ぐげえ!」
最後にみぞおちに向けて正拳突きを放った。
戒は吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる。
砂埃が舞い上がり、それが収まると、そこには白目をむいて、完全に意識を失った戒がいた。
「まったく、他愛のないやつにゃ」
「ミントさん」
由希とまひろが駆け寄ると、ミントは不敵に笑った。
「由希、いったろにゃ。支部長は最強だと」
「は、はい」
その笑顔はとても頼りがいのあるもので、ミントが支部長であることの証だった。
「こいつはどうするんですか」
「オーナーを収容している施設があるにゃ。そこに連絡して確保してもらうにゃ」
「わかりました」
「じゃあ、帰るとするかにゃ」
ミントの言葉に、由希とまひろは頷いて3人で歩き出した。
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