第13話
ミントとの初訓練の翌日、由希は数日ぶりに登校した。
そこまで久しぶりというわけではないのに、なんだか何年も不登校になっていたような気持ちになった。
特に親しい友人がいない由希だったから、同級生たちの反応も淡白なものだった。数人が、声をかけてくれるくらいで、後はすぐにいつもの日常に戻った。
相変わらず無邪気で、悩みのなさそうなその笑顔。
由希はそんな彼らを見つめながら、おやと思った。
今まではどこかで忌避していた喧噪を、どこか心地よいと感じている自分に気付いたのだ。
日常の安心感。変化がないということの頼もしさ。
激動の数日を経て、由希の心境は確実に変化していた。
それを自覚すると同時に、由希は今までの自分が恥ずかしくなった。いかに勝手で、独りよがりだっただろうか。
よし。
今日は、久しぶりに誰かに話しかけてみよう。
由希はそう意気込むが、いざ声を掛けようとした途端、背筋がすっと冷たくなるのを感じた。
どうやって声を掛ければいいのだ?
今のクラスは進級して3か月前後経っている。そこにはグループというものが既に確立されている。
その輪の中にいきなり入るということは簡単なことではない。
人と話すこと自体は苦手ではない。初対面の人間でも割と喋れるし、一対一の会話になれば、特に苦手意識はない。
本当だ。
しかし、出来ているコミュニティに入るということは格段に難易度が上がるのだ。
もしかしたら、先日少女を助けようと不良の中に割って入った時より、しんどいかもしれない。
だが、いつまでも臆病風に吹かれているわけにはいかない。
気合を入れるために、由希は自分の頬を両手で叩いた。
ぱちんと、由希の予想以上に勢いよく音が鳴り、そのせいで隣で談笑していた生徒たちが一斉に振り向いた。
怪訝な視線に、由希は心臓がきゅっと、引き絞られるような感覚を覚えた。思わず、視線を逸らす。
気づけば、由希は手にじっとりと汗をかいていた。心臓も未だに不規則に脈打っている。
しかし、由希の心はまだ折れてはいなかった。
せめて、なにかきっかけがあれば……。
そんな由希に神が微笑んだのだろうか。
「世良くーん」
「は、はい!?」
教室の扉の方から、クラスの男子が由希の事を呼びかけていた。
このチャンスを逃すまいと由希は勢い良く立ち上がり、その男子の場所へ駆け寄る。
「どうしたの、俺になんか用かい?」
「お、おう」
やたらと意気込む由希に、その男子生徒は明らかにたじろいでいた。
「その、世良君の事を呼んでくれって言われてさ」
「え?」
予想とは違った男子生徒の返答に由希は面喰った。そして男子生徒が指さす方に視線をやると、
「や、元気?世良由希君」
そこには、不良に絡まれてるところを由希が助け、そして後日、あろうことか由希に突然襲い掛かった、あの少女がいた。
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