英雄再臨! あれ? 君達ほんとに英雄? ~召喚に応じてくれた子達の様子がおかしい件~
小野崎えいじ
第1章 僕が決意に至るまで
第1話 召喚に応じてくれた子達の様子がおかしい件
ある日、僕はユニークスキル『英雄再臨』に開眼した。
忘れ去られ、朽ち果てたはずの英雄を目の前に再臨させる……んだって。ユニークスキルが発動させた瞬間に何ができるのかを真に理解したんだ。不思議な感覚なんだけど、そういうものらしい。
ただ、鑑定の儀の時は――類例のない力があると言われても、僕が手放しで喜んでいたとは言えない。心中は複雑だった。
期待してた部分も確かにあったけど、それまで毎日が針の莚だったんだ。不安があった。
確かに、立場が良くなれば少しは扱いも変わるに違いないって、期待した部分もあったけれど。
そう。期待した……んだ。だけど……実際にスキルからお出しされたものがちょっと……いや、大分想像と違ってたんだ。
「うふふふふ……」
僕の部屋の隅の方からこっちを見て、そんな風に笑いながら頬に手を当ててニコニコしている女性がシスター・クリスティア。僕が最初に召喚した人だ。
漆黒の艶やかな長い髪を持つ聖職者。おっとりした雰囲気で上品。泣きボクロの似合う美人さんだ。……一見は。
だけどなんか普段は糸目でいつも穏やかそうに微笑んでるのに、テンションが上がると満月みたいに金色に輝く目を見開き、三日月みたいな口で笑う。それから何だか、僕を光の救い手って呼んでる。僕が信仰対象になってるわけじゃないよね? とは思うんだけど、どうなんだろう……。それから僕の事を眺めるのも好きみたいで、今もそうしている。
性格は普段は見た目通りなんだけど、必要と判断すると即断即決な人で、以前僕に絡んできた相手をごついメイスで粉砕しそうになったので慌てて止めた。ちなみにその人はクリスティアの回復魔法で事無きを得た。得た……かなぁ?
「のう主殿? 天才的な案を思いついたんじゃが聞いてくれるかの?」
そう言いながら僕の袖をちょいちょいと引っ張ってくるのは永劫の大魔術師を名乗る綺麗なストロベリーブロンド……ピンク髪でツインテールのちびっ子、マグノリア様。様付けなのは最初に会った時にそう名乗りながら崇め奉れとか言って暴れ回ってたから。
さっきまで大書庫から借りてきた本を開いて何か調べものをしていたが、その本を閉じて僕に何かを主張しに来た。嫌な予感がするが、だからこそ話は聞いておいた方がいいと僕の予感が警報を発している。
「えーと、何?」
「ちょっと実験をしたくての。単なる知的好奇心ではないぞ。これが上手く行けば主殿を取り巻く現状が一発解決テンション爆アゲってなもんじゃ」
マグノリアは時々変な言葉を使う。最先端だとか言ってた。知らないけど。
「一応聞いておくけど方法は?」
「まず主殿を疎んでるあの愚物共を密かに1人ずつとっ捕まえてきて開頭」
「はい却下」
「なんでじゃー!」
僕の即答にマグノリアはじたばたとダダをこね始めた。うん。そうなんだ。天才的な腕と技術を持った大魔術師っていうのはそうみたいなんだけど、倫理観は天災的なのか、軽いノリで人体実験とかしたがる。だから何かしようと思ったらまず僕に許可を取ってね……と言い含めてあるのだけれど。
「むううう。敵が味方に変わる平和的な案だというに。では、次善の策じゃ。主殿のDNAをわしにくれぬか?」
「でぃーえぬえー?」
「うむうむ。錬金術ではホムンクルスの材料として用いられるものじゃな。主殿のDNAならさぞかし優秀な――」
またよくわかんないものを欲しがる……とマグノリアの話を聞いていたらそこに口を挟んだのはクリスティアだ。
「うふ。うふふふ。黙って聞いていれば……! どっちもダメに決まってるでしょうマグノリア。歳を取り過ぎて頭に焼きが回りましたか?」
そういうクリスティアは先程と表情は変わらないのに心無しか、顔にかかる影の面積が増してる気がする。
「戯けめ。焼きが回っとるのは貴様じゃ。儂らの身体は新造されたようなもんじゃろが。その無駄にでかくて動きにくそうな胸と尻はもう少し機能性とバランスを考えて作り直してもらった方が良かったのではないかの?」
「っ!? ……ええ、ええ。素晴らしい御業ですとも。主のスキルは奇跡と呼んでも良い。だからこそあなたのような破綻者も貧相な身体と残念な頭そのままになったようですね?」
「貧っ……くっくっく、面白いことを言うではないか」
「お気に召したのであれば何よりです」
「くくく……」
「うふふふふ」
あー。これ止めた方がいいのかな。二人とも本気じゃないとは思うんだけどさ。
「――喧嘩は駄目。ご主人様の手を煩わせるものじゃない」
僕が声をかけようとした瞬間、女の子の声だけが聞こえて。床に黒い沁みのようなものが広がった。
そこから上に向かって影が飛び出してくる。黒い闇が薄れると、そこには銀の髪と黒の髪が半分ぐらいから分かれて混ざったような、不思議な髪色の女の子が立っていた。瞳の色も右左で違う。銀髪の方が黒い瞳で、黒髪の比率が多い方の左目が赤。
「あら。戻ったのですね、リンネ」
「ふふん。軽くじゃれとっただけじゃよ。今日の首尾は?」
「2人お客が来てた。明らかに質が落ちてきてるから、そろそろ打ち止めかも」
お客。リンネは何があったかボカしているけれど、こっちは僕にも分かる。スパイか暗殺者か。そういう人を親族の誰かが僕のところに送り込んできたみたい。それを、身辺警護といってリンネは陰から排除すると言っていた。
「大丈夫だった?」
「大丈夫。殺しはしてない。ご主人様はあんまり気分良くないだろうし」
「違うよ。僕の気分じゃなくて、リンネが大丈夫なの? って意味で、そっちの方が重要だ。だって……手加減してるってことでしょ?」
「問題ない。一度も姿を見られてないぐらいには実力差がある。それにこの状況なら、わざとそうした方が警告になる。そろそろ請け負うような奴らの中でも噂話が出回って、受ける奴自体がいなくなる。余程の馬鹿なら話は別だけど」
「そっか……。うん。ありがとう」
礼を言うとリンネはこくんと頷き、それから小首を傾げてクリスティアとマグノリアを見て言った。
「一歩リード?」
「「っ!?」」
よくわからないことをリンネが言うと、クリスティアとマグノリアの表情が固まる。まあ……それはともかくとして。僕は気になっていることを聞いた。
「ところでリンネ? その手に持っているものは?」
「あっちの方に沢山生えてた。仕事終わりの晩酌用」
それを持ち上げながら壁の向こうを指差すリンネ。その手からはチャポンと水の音がする。
「いや、ワインボトルは自生してるものじゃないよね? ワインセラーから持ち出してるよね、それ」
「じゃあ落ちてた」
何がじゃあなのかわからないけれど、リンネはコルクを抜くとラッパでも吹くかのようにおもむろ口に宛がう。
「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……」
……下町で見た飲み方だ。こういう高そうなお酒ってそういう飲み方するもんだっけ。
そう。リンネは見た目に浮世離れした神秘的な雰囲気があるのに、とにかくお酒に目がない。このぐらいじゃ酔っぱらってどうこうっていうわけじゃないんだけど。
「流石は王宮のワインセラーに落ちてた奴。よくわかんないけど美味い」
酒を造った人が見たら悲しい顔をしそうな事を言いながら、あっという間に一瓶空にしたリンネ。その空瓶をどこかにしまって、懐から中身が詰まったもう一本取り出す。
「深酒し過ぎないようにね……」
「これぐらいは大丈夫。ボトルとかの証拠も残さないから安心」
「いざとなれば愚物共に押し付けるというのも面白そうじゃな!」
「それいい」
「やめてあげてね」
止めておこう。
「ああ……。我が主は慈悲深い事です」
クリスティアは感動したように手を組んで祈りの仕草をしているし。いやあ……慈悲じゃないというか。こう……そういうの有りにしちゃうとちょっと良心が痛むし、歯止めが効かなくなるのが怖い。僕自身がそういうのを実行できるわけじゃないしね……。
まあ……そんな感じで、スキルで応じてくれた人達は、一癖二癖ある子達ばかりだったんだ。
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