第2話「あの……ティアさん、いる?」
「はい、います。入って大丈夫ですよ」
「失礼します……」
「タオルを持ってくるのでそこで座って待っていて下さい」
「あ、もしかして忙しかった?」
「いえ、仮に用事があってもリーダーとの会話を何より最優先するのは当然ですので」
「い、いや、そこまでしなくていいんだけど……」
「それで、何ですか? 宿でも気安く話しかけないでほしいと言いましたよね。それでも来てくれた事が尚更嬉しいのですが」
「う……そ、そうなんだけど…………考えたんだ! 俺たちはパーティなんだから、これからの事をもっとしっかり話し合った方がいいって!」
「それで私の事情は無視するんですか。そういう強引なところもカッコいいです」
「あ……ご、ごめん……そんなつもりじゃ……」
「いえ、私も言い方が悪かったですね。この宿には知り合いも居ますし、腰をガクガク震わせながら下半身を土砂降りにする無様な姿を見られたくなかっただけですから」
「そ、それ大丈夫……? 何かの呪いとかじゃない……?」
「平気ですのでそんな顔をしないでください。庇護欲を掻き立てられて一生養いたくなるので」
「あ、う、うん。気を使わせちゃってごめん、ありがとね」
「いえ。それで、私達のこれからの事でしたか。そうですね、子供は3人欲しいです」
「え? こ、子供っ!?」
「あっ当然子供が出来ても二人の時間は大切にしますし、記念日には思い出の場所を二人きりでデートしてその日は甘い夜を過ごします。子供が3人と言うのも絶対という訳でなく―――」
「えっと…………あっ、もしかして子供って新しいパーティーメンバーのこと?」
「…………はっ?」
「確かに2人だけだと今より高ランクの依頼は難しいのかも……なるほど、それなら新メンバーの勧誘も視野に……」
「ダメです」
「えっ……でも、さっき」
「ダメです」
「あの……」
「ダメです」
「わ、分かった。取り敢えず新メンバーの話は保留で」
「そうですね。2人でも戦力的に問題ないと思います」
「でもティアさんは魔法使いだし……前衛が俺一人だけだと、どうしても敵が抜けてしまう時が……」
「見縊らないでほしいです。肉弾戦も得意ですので一々私の心配をしないでください。大事に扱われるとその度に勘違いしそうになるので」
「いや、勘違いなんかじゃないよ。大事に決まってるじゃないか」
「…………」
「当たり前だよ。だって、ティアさんは俺の……その……」
「仲間なんだから、ですよね」
「えっ?あ、う、うん」
「ありがとうございます。その言葉でも十分嬉しいので、今はまだ仲間で大丈夫です」
「え……い、今はまだ……? や、やっぱりティアさん、このパーティじゃ不満だった……? もう、抜ける予定とかが……」
「はい? どうしてそうなるんですか? そんな訳ないじゃないですか。リーダーはいつも早計ですね。決断力の高さが誇らしいです」
「う……ご、ごめん」
「確かにパーティの仲間ではなくなりたいですが、それは抜けるというより……そうですね、言うなれば……そう、ランクアップしたいですね」
「ら、ランクアップ……!? そ、それはどういう……」
「より絆を深めるというか……もっと直接的に言えば、合体したいって感じです」
「が、合体……? よく分からないけど……もっと仲良くなりたいってこと……?」
「まあ概ねその通りです。はぁ、表現の仕方まで愛おしいですね」
「そ、そっかぁ、良かったぁ……!」
「あの、そんな純粋な笑顔を馴れ馴れしくこちらに向けないでください。私の手で滅茶苦茶に汚したくなるので」
「あ、うん、ごめん…………でも、本当に良かった。俺も出来ればその…………ティアさんともっと仲良く……その、関係をランクアップさせたかったから……」
「…………」
「……な、なんちゃって。……は、はは……ご、ごめん!何言ってだろ俺!し、食堂行ってくる!」
そう言うと一方的に会話を断ち切り、軽装備に身を包んだ男が慌てて扉を開いて飛び出していく。
ティアはその一挙一投足を目に焼き付けるように眺める。見えなくなった後もリーダーの男の姿を思い出し、胸の奥が苦しくなる。
「ん”……お…………やっべ、タオルを敷いておいて正解だったわ。下着も替えないと……」
若干痙攣が治らない腰をあげると座る前に敷いていたタオルには大きなシミが出来ていた。
「お腹も空いた。食堂は……今行くのは流石にまずいか。……はあ、リーダー……んん……合体……」
ティアはぶつぶつと呟きながら先程まで男が座っていた所に顔を寄せて横になった。
その日の夜、リーダーの男はベッドで横になり今日の出来事を振り返っていた。
依頼は順当に完遂し、報告も問題なかった。しかし帰り道での会話、そして何より宿での失言を思い出す。
「はあ……なに言ってんだ俺……ティアさん引いちゃってたじゃん…………それに」
ふっと会話の一部が脳裏を過ぎる。
『だって、ティアさんは俺の……』
宿では口にできなかったその続きが頭の中で紡がれた。
『好きな人だから』
ぼふんっと顔を赤く染め、ベッドから飛び起きる。
「う、うわああああ!」
その後、大きな音を出さないように宿を出た男は、人通りの少ない夜の街を陽が登るまで走り回った。
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