亡霊の棲む館

ラッキー平山

第1話 良子

 ○○新人小説大賞のサイトからメールが来ました。ずっとライトノベルの賞に送ってきたので、今回のような文学系雑誌への応募は初めてで、変に緊張します。


 ここもラノベの賞と同じく、一次、二次、三次の選考を経て数本の最終候補作が選ばれ、そこから受賞作が決まります。ラノベのときは男性同士の恋愛を描くボーイズラブと言われるジャンルが専門で、ネットで発表するとわりと受けましたが、雑誌への投稿の結果は、良くて一次通過の二次止まりでした。


 今回は男女の恋愛もので、クリスマスイブを迎えての心のすれ違いを描いた大人っぽいものです。キャラや内容がマンガっぽくなく、紙面もセリフが少なく地の文で埋まっていて、わりと一般向けかなと思ったので、一般の賞に応募したわけです。



 この○○新人小説大賞では、一次選考通過者全員に丁寧な選評が送られてきます。またも二次落ちでしたが、たんに自分の新境地を開く力試しというかチャレンジだったので、そう落ち込んだりしませんでした。


 ところが、出版社のサイトから送られてきたメールを読んで、私は一気に固まりました。酷評だったわけではありません。いえ酷評には違いなかったのですが、その中身があまりにも不可解だったからです。

 ちょっと、そのメールの中身をここにさらしておきます。



「作品の題名『新人賞の選評』

 評価 C

 選評 新人作家志望の女性を主人公にするパターンはあまりないので評価できる。が、作品を書いている描写が延々と続くだけの内容は全体に冗長で、それを補うための描写力も弱い。そして、ラストが唐突すぎて説得力が薄い」



 まず、新人作家志望の女性など、主人公にした覚えはありません。前述したように、私が書いたのは男女の恋愛もので、女性は作家志望ではありません。また「作品を書いている描写が延々と続く」とありますが、これも述べたようにクリスマスイブを舞台にイチャイチャとケンカを交互に繰り返す展開で、いくら文学系の雑誌に送るからといって、そんな純文的な地味な話にはしていません。だいいち、そんな単調な内容で読ませるほどの描写力は、私にはありません。メールでは、その部分は向こうも分かっているようですが。

 しかし、それだけならまだいいのです。

 問題は、この「唐突なラスト」という奴です。このメールでは、私の送ったその「新人賞の選評」という作品(これも全然、題名が違います)のラストは、なんとこうでした。



「……ラストが唐突すぎて説得力が薄い。主人公が、いきなり殺人鬼に刺殺されるというのに、そのことにはなんの脈絡もなく、しかもなんの説明もないままで、ぶつっと終わってしまう。読者に対して、たいへん不親切である」



 主人公が殺人鬼に刺殺されるなんて、そんなホラーみたいな話を書いた覚えはありません。これは、明らかにあっちが作品を間違えたのです。別の誰かの作品に対する論評を私に送ってしまった、としか思えません。

 しかし、作品には名前も住所もしっかり書かれているので、作品と作者とは絶対一致するはずです。それを間違う、なんてあるんでしょうか。もしかしたら、誰かの手の込んだいたずらでしょうか。


 メールを読んで、一気に不愉快になって落ち込みました。こんなことが起きるような出版社では、もう関わるのはやめたほうがよさそうです。


 さらに嫌な感じがしたのは、ラストの殺される場面の状況なんです。続きにはこうあります。




「……読者に対してたいへん不親切である。主人公が自分の部屋で書きものをしていたら、知らない間に家に侵入して潜んでいた殺人鬼に、いきなり後ろから刺殺される。このようなオチにする必要があったかどうか、もう一度、よく考えてみてください」



 このメールの内容で嫌なのは、この「新人賞の選評」なる作品の主人公の境遇が、かなり今の私と重なっているところです。「新人作家志望の女性」とは、まさに私のことですし、今もメールどおりに「自分の部屋で書きものを」しています。もちろん、自分のブログにアップするためです。ブログやっててこんなことが起きたら、ネタにしないほうがどうかしてます。


 しかし、なにか気持ち悪いです。アパートの一人暮らしだし、鍵はかけてるから誰も入ってこないとは思いますが、それでも、凄く気になります。

 バカバカしい、なんでこんな気持ちにならなければならないのか。

 だんだんムカついてきました。

 悪いのは全部向こうなのに。


 これを書いたら、彼に会おうと思います。たとえ夜中でも、こんなときには絶対来てくれる人です。

 今、後ろでカタッと音がして、びくっとしました。もういや、一刻も早く会いたい。彼の声が聞きたい。なんでもないに決まってるけど、確認したら、ソッコー彼に電話しよう。

 ちょっと待っててね、すぐ戻るから。

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