キャラメル

三夏ふみ

キャラメル

 お盆といえば、母の実家が思い出される。


 人見知りだった私にとっては、沢山の親戚が集まるお盆の行事は苦手だったが、楽しみもあった。

 一つは、画家志望だった祖父が生前使っていた、離れのアトリエで好きなだけ絵が描けたことだ。

 自分の家にはない色とりどりの絵の具や色鉛筆は、それだけで私の心を踊らせた。

 もう一つの楽しみは、仏壇のお供え物の中からひとつだけ、好きなものを自由に取って食べてもよいことだった。

 私は決まって一つだけ置いてある、おまけ付きのキャラメルを選んだ。

 口の中に広がる甘さと鼻に抜ける微かな香ばしい香りがお気に入りで、大切に一粒づつ口の中で溶かしながら、時間が経つのも忘れて絵を描いて過ごした。


 ある年の夏、いつものようにキャラメルを仏壇から取り庭のアトリエに向かう途中で、孫達の中で最年少のあっちゃんが、私の持っているキャラメルを目ざとく見つけ、

「あれがいい!」

と、駄々をこねだした。

 早いもの勝ちという暗黙のルールがあったが、延々と泣き続ける姿を見るに見かねて母が、年上という理由だけでキャラメルを譲る様に促してきた。

 はじめは拒んだものの、激しさを増す泣き声と、それを聞きつけ集まってきた他の孫達の視線に居たたまれなくなり、しぶしぶキャラメルを渡すと重い足取りで仏間に戻った。

 特に食べたいものはなかったが、お供え物の山からあれこれ手にとって見比べているとその中に、一つしかなかったはずのキャラメルを見つけた。

 不思議に思いそのことを母に話すと、傍らで聞いていた祖母が、

「正くんは、じいちゃんのお気に入りだったからなぁ」

と、くしゃくしゃと笑った。


 その時出た飛行機や車の小さな玩具は、今でも私の宝物である。

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キャラメル 三夏ふみ @BUNZI

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