ん? あいつ、見るからに怪しい格好だな

「誘拐犯から助けてくれたという話でしたが、その誘拐犯はどこに行ったのでしょうか」


 やっべー。考えてなかった。

 え、マジでどうしよう。


「これは、どういうことだ?」


 そう考えた瞬間、急に、後ろから、黒いフードで顔を隠した男に声を掛けられた。

 ……まぁ、急にって言うのは、ヒロイン視点で、俺は気がついてたんだけどな。……完全に忘れてたけど。

 あ、てか待てよ。あいつ、見るからに怪しい格好だよな。


「あいつです。あいつが、あなた達を誘拐していました」

「ちょっと! あんたが誘拐犯を倒して、私達を助けてくれたんじゃなかったの!?」

「おい、お前、何を言っている。まさか、裏ーー」


 取り敢えず赤髪ヒロインの言葉は無視して、余計なことを言おうとしている誘拐犯……にしようとしている悪いやつに、後ろに回ることしか出来ない初見殺しスキルで、後ろに回って、これまた初見殺しスキルで誘拐犯……にしようとしてるやつを気絶させた。


「「……凄い」」


 すると、ヒロイン二人のそんな呟くような言葉が聞こえてきた。

 ……美少女に褒められて嬉しくならない男なんて居ないと思うけど、今回は、ちょっとな……記憶を思い出す前とはいえ、誘拐したの俺だし。

 

「……誘拐犯も捕まえたし、適当に衛兵に渡して、君達も家まで送って行きますよ。家、どこですか?」


 もちろんこのヒロイン達の家が何処かなんて、当然知ってるけど、俺が知ってたらおかしいし、家の場所を聞いた。


「公爵領の近くです。そこまで送っていただければ、当然お礼を致しますので」

「……お礼とかはいいですが、そこまで、送って行きますね」


 マジで要らん。お礼とか、本当に要らん。

 もしそこで、ボロを出しちまって、俺が本当の誘拐犯だってバレたらどうするんだよ!?

 うん。絶対着いたら逃げよう。

 

 そう思いながら、俺は誘拐犯に仕立て上げた奴を、ヒロイン達を縛っていた縄で縛って、拘束した。

 まぁ、こんな美少女達を縛ってた縄で縛られてるんだから、むしろご褒美なんじゃないか? ……俺だったら絶対嫌だけど。


「こいつ、公爵領まで、持っていけないの?」

「ちょ、ちょっと、公爵ーーわ、私達を誘拐した人なんですよ? そんな人を、公爵領までなんて、いくらなんでも、無理ですよ」

「別に、いいですよ」


 だって、もう起きないと思うし。少なくとも、俺が起こそうとしない限りは。

 ヒロイン二人だって、俺が起こそうとしない限り、俺が主人公に殺されるしか、ヒロイン二人が起きる方法なんてなかったんだから。


「ほ、ほんとに、大丈夫、なんですか?」


 すると、白髪の方のヒロインは、心配そうに、そう言ってきた。

 まぁ、起きないし。


「大丈夫ですよ」


 だから、改めて、そう言った。

 さっさとヒロイン達を公爵領に送って、俺は適当に生きたいんだよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る