第21話 欲望との葛藤

 ゲームを楽しんでいると、あっという間に時間が過ぎ夕ご飯の時間となった。

 葵の持ってきてくれたお弁当があるから、あと一品ぐらいあればいいだろう。

 冷蔵庫から豚肉を取り出し、生姜焼きの準備を始めた。


 ショウガと砂糖醤油で作ったたれに豚肉と薄切りにした玉ねぎを入れて軽くもむ。

 漬け込んでいる間に、付け合わせのキャベツを千切りにしておく。


「男子なのに、料理上手いのね。料理教室とか行ってるの?」

「まさか、料理教室に行くような余裕はないよ。お母さんの料理手伝っているうちに自然に覚えただけだよ」


 温まってきたフライパンに漬け込んだ肉を入れると、ジュ―っという音とともに湯気が立ち上る。


「いい匂いしてきた」

「もうすぐできるから、お皿とってもらっていい」


 葵が持ってきたお皿に、キャベツを載せその上から生姜焼きを載せた。


「ほら、できたよ、食べよ」

「生姜焼きってこれなの?」

「どんなの想像してたの?」

「もっとお肉が分厚いやつ」

「そんなお肉うちでは無理だよ。豚小間しか買わないから。まあ、食べてみて嫌なら私が全部食べるから」


 そういうと、葵は生姜焼きを口に運んだ。


「まあ、悪くはないわね」


 そう言いながらも、二口目、三口目と口に運んでいるところを見ると、美味しいく思ってくれているようだ。


「庶民はこんな味が好きなのね。参考になったわ」


 結局、葵は生姜焼きのタレがしみたキャベツまで食べきっていた。


「お風呂、先に葵が入りなよ。お風呂といっても、この時期だからシャワーだけど」


 夕ご飯を食べ終わりまったりしている葵に声をかけた。

 夕ご飯の片づけをしている間に、先に葵にお風呂に入ってもらうようにした。何かしていないと、葵のシャワータイムを覗きに行かない自信がない。


「片づけ、ありがとう」


 葵がお風呂から上がってきた。パジャマではなく、Tシャツにハーフパンツとラフな格好だ。

 いつもきっちりとしている葵の姿しかみていないので、ラフな感じの葵が新鮮に感じる。

 でも、何か変だ。服のスタイルが違うとはいえ、葵の体形が変わったような違和感がある。


「葵、なにかいつもと違うね。細くなったというか、とくに胸のあたりが小さくなった気がするけど」

「私、着太りするタイプなの。ほら、夕貴もお風呂に入ってきなよ」


 葵は何かをごまかすように、僕をお風呂場へと向けて背中を押し始めた。

 お風呂から上がると、葵がドライヤーで髪の毛を乾かしていた。


「ドライヤー持ってきたんだ。私の家にもあったのに」

「あるって言っても、どうせ安物でしょ」

「ドライヤーってどれも同じだろ」

「違うわよ。ほら、座って。私が乾かしてあげる」


 葵の前に座ると、ドライヤーの風が髪の毛に当たり始めた。たしかに、家にあるのよりもパワーが違う。

 あっという間に乾きはじめて、髪のパサつきも少ない気がする。


「ドライヤーは良いのを使わないと、髪の毛が痛むよ」

「うちにそんな余裕はないよ」

「じゃ、このドライヤー置いていくから使って」

「ありがとう。いいの?」

「気にしないで、最近これの最新機種が発売されて、家にもサンプルで届いているから。ちょうど、捨てようと思っていたところなの」


 たしかにドライヤーには「UEZONO」と書かれてあり、上園グループの製品のようだ。


「さて、風呂も入ったし、もう寝ようか?葵は僕の部屋のベッドを使って。僕は和室に寝るから」

「いいじゃない、女の子同士だから一緒の部屋に寝ようよ。それで、寝落ちするまでお喋りしようよ」


 和室に向かい始めた僕の袖を引っ張った。


「わかったよ、布団運んでくるから」


 葵と一緒の部屋に寝る。嬉しいけど男扱いされていない証拠でもあり、ちょっと悲しい。


「このスカートかわいくない?」


 ベッドの隣に布団を敷いた布団に、二人寝転びながらファッション誌を二人で見ている。

 無邪気に楽しそうにしている葵の横顔がかわいい。肩も触れ合う距離なので、このまま抱き着いてしまいたい衝動に襲われるが、理性で必死に抑え込んでいる。


「どうしたの?」


 葵が僕の視線に気づいたようだ。正直に葵がかわいいから、ずっと見てたなんて言えない。


「いや、葵の髪いい匂いするって思って」

「そう、この匂い気に入ったなら、シャンプーセット一式置いていくから使って。ノンシリコンでオーガニックのシャンプーで、髪にも頭皮にも優しいんだよ」

「何か高そうだけど、それっていくらなの?」


 葵が口にした金額は、僕の使っているシャンプーとは文字通り桁が違った。


「いいの?そんなに高いのに?」

「いいのよ。夕貴にはもっとかわいくなってもらいたいから。シャンプーなくなったら、言ってね。持ってくるから」


 男として見られておらず、このままだと妹のようだ。妹だったとしても、葵のそばにいられるならそれでもいいかとも思えてきた。


「さっ、そろそろ寝ようか?」


 時計の針も12時を回ったところで、寝ることにした。

 電気を消して寝たふりをしながらじっと、その時が来るのを待った。

 

 葵の規則的な寝息が聞こえてきた。僕自身も何度も睡魔に襲われそうになったが、何とか耐えた。


 寝ている葵に近づく。ブラジャーもショーツも着ているけど、僕も男だ。好きな女の子が隣で寝ているのに、何もしないなんて我慢できない。

 下の息子も元気になってショーツからはみ出してしまいそうだ。


 とはいえ、親のことを考えると襲う勇気はなく、キスするのもはばかられる。悩んだ末結局、指一本をそっと伸ばして葵の胸に近づける。


 女性の胸ってもう少し盛り上がっていると思ったけど、創造よりもあんまり膨らんでいない葵の胸に指が触れる。

 柔らかいけど押し返される、風船のような感覚が指先に伝わる。


「ウヒョー」


 葵が起きないように小声で雄たけびをあげた。もう、これで十分だ。葵に触れた指先を見つめながら眠りについた。


「わっ!」


 朝起きると、葵の顔が目の前にあった。寝起きで状況を理解しきれていない僕は思わず声を上げてしまった。


「夕貴、おはよ。寝顔かわいかったよ。思わずのぞき込んじゃった。トイレ借りるわね」


 葵は僕のそばを離れ、トイレに行くため部屋を出て行った。


 

 

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