第19話 育成計画
先ほどから何回もスマホの着信音が鳴っているが、それを上園葵は無視し続けた。あれから一週間、夕貴からの連絡は無視するのはもちろん、学校であっても無視し続けた。
私が無視すればするほど私に
この前のいじめと同じ様に、演劇部の広瀬さんに巨乳好きの夕貴に色仕掛けで迫るように依頼したのは私だ。
さすがに演劇部で将来女優を目指しているだけのことはあって、いとも簡単に夕貴を罠にかけてくれた。
まあ、あんなに簡単に誘いに乗る夕貴もどうかと思うが、これを機に反省してくれるだろう。
あれから一週間、そろそろ夕貴も反省しただろうから、次のステップに進むことにしよう。
つぎは夕貴のカッコいいところをみせてもらおう。
スマホを取り出し、「明日の昼休み、体育館裏にきて」とだけ入力して送信した。
パソコンのモニターには、仲直りができることを期待して嬉しそうにしている夕貴の顔が映っていた。
◇ ◇ ◇
翌日の昼休み、人気のない体育館裏に行くと夕貴がポツンと立っていた。ちゃんと教えた通りに、内また気味に足を閉じて脇も閉じている姿が健気でかわいい。
「葵、ごめんよ。もう他の女子と仲良くしないから許してよ」
すでに半泣き顔の夕貴は、今にも泣き出しそうな声で言った。
「女子高なんだから、女子とは仲良くしてもいいのよ。でも、節度は守ってね」
「うん、わかった」
「許してあげておいいけど、一つだけ条件があるの」
「条件?何?何でもするよ」
「再来週の期末テスト、学年で100位以内に入って。それが条件」
それだけ言い残すと、呆然と立ちすくんでいる夕貴の返事を待つことなく教室へと戻ることにした。
中間テストでは数学以外は赤点ではなかったとはいえ、他の教科も赤点ギリギリだった夕貴にとって、300人いる2年生の中で、学年で100位に入るにはかなりの努力が必要だろう。
将来私と結婚して、上園グループを率いるなら勉強もできないとね。
本当は10位以内にしたかったが、現実的な100位にしてあげるなんて、私って優しい。
まあ、勉強できなくても私が社長になって、夕貴は私専属の秘書として雇えば問題ないけど、たまには夕貴のカッコいいところを見てみたい。
その日の夜中2時過ぎに目を覚ました私は、隠しカメラの映像で夕貴の様子をみることにした。
期末テストに向けて早速勉強を始めたようだ。
私のために懸命に努力する夕貴の姿が愛おしく感じ、しばらく画面を見続けた。
翌朝、教室に向かう途中で寝不足気味にだるそうに歩いている夕貴の姿があった。
「おはよ。夕貴。勉強頑張ってるのはわかるけど、ちゃんと背筋伸ばして歩かないと見た目悪いよ」
「ごめんなさい」
私に注意されるとすぐに背筋を伸ばした。素直なところが夕貴のいいところだ。
そして迎えたテスト本番。5日間にわたって行われる期末テストの最終科目が終わると夕貴は机の上にうつ伏した。
隠しカメラの映像ではこの5日間睡眠時間は1~2時間でほぼ徹夜状態だったので、最後の科目が終わり緊張の糸が切れたみたいだ。
机に顔をうずめよだれを垂らして寝ている様は女の子らしくないが、頑張ったご褒美に今日は許してあげよう。
疲れ切った夕貴の表情もまたかわいい。
その週明けから各科目の授業でテストの結果が返ってき始めた。
出席番号順に先生のもとへといき、点数の書かれたテスト用紙を受け取る。
「上園さんは、いつも通りね」
100点と書かれたテスト用紙を返しながら、先生が言った。
私も受け取りながら、100点であったことにホッとした。定期テストぐらいでは私が分からない問題はないとはいえ、ケアレスミスで数点落とすことはある。
100点をとっても嬉しくはないが、100点でないと悔しい。
自席にもどり、他の生徒がテスト用紙を受け取る様子を眺める。
思ったよりも良くて喜びの表情を浮かべる人、逆に悪くて落ち込む人、あえてポーカーフェイスを通す人、反応はみんなそれぞれでそれを観察するのも楽しい。
夕貴がテスト用紙を受けとったとき、小さくガッツポーズするのが見えた。
点数の部分は折りたたんで見えないようにしてあるが、嬉しそうな表情からすると予想以上に点数が取れていたようだ。
嬉しそうにしている夕貴を見ると、私も嬉しくなってくる。
それから1週間が経ち、教室の掲示板に上位者一覧が発表された。
各科目のトップ10と総合100位までの、名前が並んでいる。
みんな我先にと見に行って掲示板の前はごった返しているが、結果のわかっている私は自分の席に悠々と座っている。
「葵、すごい、全科目100点だね」
掲示板を見てきた、佐野っちが褒めてくれた。中間テストはいくつかケアレスミスがあったため、全科目100点とはならなかっただけに、無事に全科目100点とれたことはちょっとうれしい。
「ありがとう、佐野っちは?」
「87位、前回よりちょっと上がった」
佐野さんと話していると、掲示板の方から「やったー」と大きな声が上がった。
明らかに他の女子とは違う、低く太い声は夕貴に違いない。
満面の笑みを浮かべた夕貴が私の方へと駆け寄ってくる。
「葵、やったよ、99位だけど、100以内に入ったよ。これで許してくれる?」
「うん、頑張ったね」
席を立ち、両手を広げて夕貴を迎え入れた。やっぱり夕貴は、やるときはやってくれる。
「お疲れさん」
私の胸に顔をうずめながら、泣いている夕貴の後頭部を撫でてあげた。夕貴のスカートが膨らみ始めた。みんなにバレないように、腰に手を回して夕貴の体をギュッと抱きしめた。
女の子同士だとこんなにイチャついても、周りは気にしないから便利だ。夕貴を女の子にしておいて、正解だった。
そう、私はいつも間違えない。100点満点の女だ。
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