第3話 楽しみな月曜日

 土曜日の夕方、日は早くも落ち始めていた。

 買い物やデートなど週末を楽しんでいる人達の姿が車の窓から見える。


 下野マテリアルズを出た葵は、お付の黒沢が運転する車で帰宅しながら、ゆっくりと先ほどのことを回想して余韻を楽しんでいた。


「葵お嬢様、嬉しそうですね」


 運転している黒沢から声を掛けられ、はっと我に返った。


 5年ぶりに会った夕貴は、カッコよくなっていた。定期的に興信所を使って、写真は隠し撮りしてきてもらっていたが、やっぱり生でみると感動が違う。

 あの反抗的な態度も相変わらずだった。最初は反抗的なぐらいの方が、調教しがいがある。


 夕貴との出会ったのは小学校3年の時だった。

 小学校ぐらい庶民と交流したほうがいいという教育方針の下、地元の公立小学校に通っていた。

 女子の同級生はとくに問題なく、雑誌の付録やシールを大事にする庶民感覚を学ぶ上では勉強になった。

 問題は男子だ。長い棒をみつけるとすぐに振り回し始めたり、「う〇こ」「ち〇こ」を連発したりする男子にはうんざりしていた。


 もうそろそろ私立小にいきたいと思っていた小学校4年の時、夕貴との運命の出会いがあった。

 将来結ばれる人とは赤い糸でつながっているとか、会った瞬間にビビビときてわかるとかいうが、まさにそんな感じがした。


 いくら好きでも自分の方から「好き」というのはプライドが許さなかった。夕貴の方から「好きです。付き合ってください」と言われるのを待っていた。


 それでも夕貴の体を触りたくてボディタッチ多めにしていたら、「痛い」と言われ逃げるように距離を取られるようになった。


 距離をとられてボディタッチができなくなると、朝早く学校に行って夕貴の上靴を匂ってみたり、リコーダーをペロペロ舐めたりして、夕貴とのつながりを感じた。

 もちろんそんな姿を他人に見られるわけには行かないので、誰かの気配を感じると上靴やリコーダーを投げ捨てた。


 それをみた夕貴が「上園さんが僕の上靴やリコーダーを隠している」と担任に泣きついたが、父と母からの贈り物によって私の味方になっていた担任の先生は、「上園さんがそんなことをするわけないでしょ」と問題とすることはなかった。


 ある日の給食の時間、隣の席の夕貴がプリンを半分食べたところで、前の席の男子とアニメの話で盛り上がり始めた彼は食べるのやめ、プリンを机の上に置いた。


 今、あれを奪えば間接キスができる。そう思うと、我慢しきれずに夕貴のプリンを奪い取って口に入れた。

 プリンの味自体はどうってことのない平凡な味だが、夕貴の食べかけと思うと今まで食べたプリンの中で一番おいしい味がした。


「上園、僕のプリンとったな!」

「いらないかなと思って食べてあげたのよ、文句ある?」


 奪い取った疚しさからつい強気に返事したら、思いもよらない反撃をくらった夕貴は泣き出してしまった。

 その泣き顔を見た瞬間、私の背筋に電流のように痺れる刺激が走った。


 大好きな夕貴が嫌がったり、泣いたりする顔が見ると快感を覚える。それが私の性癖であることに気付いた瞬間だった。


 中学からは中高一貫の桜ノ宮女学院に入ったため夕貴とは別れてしまったが、それでも私の気持ちは変わらなかった。

 

 ある日、夕貴が別の女子から告白されたと興信所から連絡が入った。

 すぐさまその女子には夕貴を諦めるように裏から手を回したが、夕貴は私の手元に置いておかないとまたほかの女子が狙ってこないか不安になってしまう。


 でも、どうしたらいい?必死に考えて出した結論は、夕貴を女の子にして転校させることだった。

 

 夕貴にスカートを履かせて女子高に通わせる。さぞかし、夕貴は嫌がるだろう。その屈辱でゆがんだ顔を想像するだけで、ゾクゾクしてくる。

 女子だらけの女子高に通わせても、スカート履いて女子高に通う男子なんてクラスのみんなは面白がるかもしれないが、恋愛対象にみる女子は私以外にはいないだろう。

 まさしく一石二鳥だ。月曜日が待ち同しくてたまらない。

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