大増殖天使のキス [ホラー]

天使が大増殖していた。


そこら中天使だらけだ。

車のボンネットにも、自転車のカゴにも、道端のドブにも天使が溢れかえっていた。


どこからともなく作業服を着た男たちが現れて、虫取り網で捕獲に挑んだが、増殖の勢い凄まじくまるで追いついていなかった。


俺は丘の上の公園のベンチに座ってその光景を眺めていた。

実に滑稽だった。


下界の見物に夢中になっていて、俺は一羽の天使が近くにいるのに気が付かなかった。


気がついた時には遅かった。


天使は美しい少女の姿であーんと口を開け近寄って来ると、俺の唇へとかぶりついてきた。


大増殖した天使は人の顔を喰う。

それも唇から食べ始めるために、この行為は通称「大増殖天使のキス」と言われていた。


天使はバリバリと俺の顔を喰った。


不思議なことに痛みは全くなかった。

その代わりにこの世のものとは思えない多幸感と快感が俺の全身を駆け抜けていった。


それと同時に世界が真っ白になり俺は全ての感覚を失った。


遠くから声がした。


「先生、被験者の意識が戻りました」


「よし、エンジェルNo.8を再投入」

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