私のこころの綴り方

ミズキ

プロローグ

書けなかった手紙

 私はしっかり削った鉛筆をにぎると、一枚の紙に向き合った。


 時計の針の音が、やけに大きく聞こえる。

 鉛筆を持つ手が震えて、力が入らない。

 『私は』

 まずは二文字、ゆっくりと書く。

 かろうじて最初の一歩を踏み出すけれど、それ以上前に進むことができない。


 呼吸が、くるしい。

 胸の奥に閉じ込めた気持ちが黒い渦となって私を襲う。

 書かなきゃ、書かなきゃだめ。


 手ににじんだ汗を、ひざにこすりつけて拭いた。

 

 どうして、出てこないんだろう。

 言葉が、心のすみっこに隠れてしまったみたい。


 どうして、書けないの。

 私って、おかしいのだろうか。


 涙がじわりと目じりに浮かぶ。

 お腹の中に蛇がいるみたいで、気持ち悪い。

 おでこに、汗が垂れた。


 時計の針は、待ってくれない。

 だれか、助けて。


 私はあれ以来、手紙が書けない。

 

 

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