2.「言葉をひとりぼっちにしてるみたい」
「手紙じゃなくたって、色々方法はあるじゃん」
私の質問にサナはふるふると首をふる。
「有馬くんって、スマホ持ってるけどあんまり見ないんだって。紙の手触りが好きみたい。本を読んだりお話しを書いたりするみたいだから、メッセージとかじゃなくて、手書きの方がしっくりくる気がしたんだよね」
彼を好きなだけあって、確かに的を得ている。
サナは物を大事に扱ったりこだわりを持っている人に惹かれるのかもしれない。変なスイッチだと思っていたけれど、私の推測はちょっと失礼だったなと反省。
それに、とサナは続けた。
「有馬くんって、彼女はいないらしいんだけど、じゃあ恋愛に興味あるかっていうと、それもよくわからないんだよね。もしかしたら振られるかもしれないし。手紙は渡しちゃったら、捨てようがとっておこうがその人の自由じゃん」
サナはそこまで一気に話して、ポテトをつまんだ。
私もポテトをつまんで、コーラの炭酸で口の中の油っぽさを流した。
「まあ、そうだね」
「てかさ、スマホだったら振られたあたしのメッセージがいつまでも残ってるんだよ? それってなんか言葉をひとりぼっちにしてるみたいでかわいそう。だったらビリ~ってひと思いにやって! みたいな」
「なんで振られる前提なのさ。いつもは前向きなのに」
「う~ん」
サナはすこしだけ悲しそうに笑った。
私はそこでおや、と思った。今回は少しいつもと本気度が違うかもしれない。
そしてサナと会話しながら私は驚いていた。言葉を置き去りにしていくなんて。サナのあたたかさみたいなものを感じた。
「わかった」
私は心を決めていた。
「ありがとっ。おしず、字めっちゃ綺麗じゃん。おしずの字であたしの気持ちを書いてくれたら、ちゃんと届きそうな気がする」
サナは私に抱き着くと、ほおずりを繰り出してきた。
「そんなに上手かな」
コーラは氷がとけて、炭酸も抜けていた。でも、喉をここちよく流れていった。
サナのマシュマロほっぺを引きはがそうとすると、すぐ近くで目が合った。嘘偽りがない、澄んだ瞳。
「なんかね、心にすーって入っていくような、真っすぐで気持ちが良い字だよ。みんなが口をそろえて好きって言いそうな」
私は思わず顔をそらす。あまりにもまぶしくて。
「サナの字もかわいくて好きだよ。小さい雪だるまがころころ転がってるイメージ」
「ねえそれバカにしてるよね絶対」
「褒めてる、褒めてる」
それからはまたサナの弾丸ノロケトークが始まって、私までも有馬くんの知り合いになったような気分だった。
次は一緒にレターセットを選びにいく約束をした。なんだかんだ言って、私はサナの恋路を応援しているし、見守るのはこちらまでドキドキが伝染するようで好きだ。
帰り道、駅でサナが私の耳元でささやく。
「おしずも書いたら? こいぶみ」
「だれに」
ぶっきらぼうに答えると、腕をつつかれた。
くりっとした丸い瞳が、今は三日月に細められている。漫画のキャラみたいなわかりやすさ。
「決まってんじゃん~。そりゃ、ね」
「いや、ないって」
思わずさえぎるようになってしまう。
きっと、今二人の頭の中に描かれている人物は一緒だ。でも、彼には手紙を渡せない。
そもそも、私は手紙なんか書けない。自分の気持ちを文章にするのが苦手なのだ。心の底にある見たくないものを、つきつけられる気がして。
それにあっちも、手紙なんて絶対に見てくれない。
そんな薄暗い思いを打ち消すように、帰りの電車でサナに似合いそうなデザインを探して送った。すぐに顔文字とスタンプがたくさんついたメッセージが返ってくる。
ほら、手紙なんてなくたって、こうやって思いは交換できる。
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