愛の歌を君に!
まこちー
第1話
〜北地区 ファミレス〜
「だが、全然諦められないんだよ……!」
机を叩いて立ち上がる。ウェーブががった黒髪をポニーテールにしている、褐色肌の男だ。ドミーことドミニオである。
「ドミー、あんたでかいんだからそんなことしたら周りがビビっちまうだろう?」
向かいに座ってウィンクするのは黒い長髪で片目を隠したスーツの男、トナことアントナ。ウィンクは隠れている方の目でしたので伝わらなかったが。
「トナ兄の言う通りだ。ドミー兄、とりあえず落ち着いて話してくれ」
スーツ姿の男の隣に座って冷静に言う。こちらも黒髪の男。昼間の店内だというのにアイマスクを着用している。ジスラことジスランである。
「う……分かったー。はあ……」
〜2ヶ月前 北地区〜
「カット!いやあ素晴らしいですね!ケイトさんの演技は!」
「ありがと。難しい場面だったけど、上手くいって良かったわ」
ショートカットの茶髪の女性、ケイト。女性が憧れる無駄のないスレンダーな体型とサバサバとした性格、美しく強い女優として名を馳せる有名人だ。
「今回のドラマの主題歌!あの新鋭ドミニオらしいぜ!ほら、ストッターでバズったドミニオ!」
「新鋭?知らねえなあ。テレビには出てるのか?」
「いやいや、テレビにはまだだ。ただのストリートミュージシャンさ。まだまだ若い男でな。サングラスでかっこつけているが、22歳になったばかりらしい」
「ふーん?そんなヤツがケイトさん主演のドラマの主題歌を……。釣り合うのかねえ」
「大スターのケイトさんと、ネットで1回バズっただけの無名のミュージシャン……どうなるんだろうな」
「あんまり期待してやるなよ。可哀想だ」
(……散々な言われようだなー)
スタジオに着いたのは良いが、自分の居場所はないようだ。
(まあ当然か。テレビに俺の歌が乗るのはこれが初めてだもんなー)
ドミーが頭を下げて挨拶をする。
「ドミニオ・エル・レアンドロです。よろしくお願いします」
「おお!君が!動画観たよ!良い歌声だなあ」
「ありがとうございます……」
サングラスを外しているとドミニオだと気づかれないことが多い。おかげで変装の手間は省けるが、少し複雑な気分だ。
「あなたがドミニオくんね」
「……!」
テレビで見ない日は無いほどの有名人、ケイト。その人が近づいてくる。
「私はケイト。あなたの歌を楽しみにしていたわ」
「……俺の歌を?」
「もちろん。ドラマにおいて歌は重要ですもの。今人気の歌手が歌っているというだけで視聴率が上がるわ」
(うおー、サバサバしてるなー)
ドミーは苦笑する。
「……あらっ、あなた。もしかして南の方の出身?」
「あ、えっ、何で分かるんです?」
「そんな深々とお辞儀する癖に握手の手を間違えるなんて、こちらじゃ考えられないもの」
「……えっ、あっ!」
しまった。地域的なズレである。ドミーは南の方の出身であり、こちらの文化には慣れていない。
「うわー、すみません……」
「いいのよ。これから覚えていけば」
ケイトの言葉は優しかったが、トーンにあたたかさはなかった。
(やっぱ厳しいよなー、芸能界)
ドミーの父親は芸能人である。奇抜なファッションセンスが評価され、テレビに出たのだが……彼はファッションだけではなく性格も特異であった。どんな場所でもどんな相手でも物怖じせずに明るく話すその姿は25年前の大災害後の人々に元気を与えた。今は歳の影響で落ち着いて来たためたまにテレビに顔を出す程度になっているが、全盛期は今のケイトのようにテレビで顔を見ない日はないほどの有名人であった。
(俺は父さんほど奇抜な人間じゃない。だから歌声で勝負する。そう決めたんだ)
主題歌の打ち合わせが終わる。丁度同じタイミングでケイトたちの撮影も終わったようだ。
「お疲れ様でーす、ケイトさん。今日も素晴らしい演技でしたね!一杯どうすか?」
「はいはい。悪いけどこの後予定があるの」
「えっ、誰とですか?」
「内緒。マネージャー、車出して」
「はいっ」
そんなやり取りを横目で見ながらリュックを背負う。
(タイトなスケジュールだなー。スターは違うぜ)
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