短い夏の物語たち

齋藤輪廻

第1話 夏祭り

「おーいたかし!こっちこっちー!」

人混みの中、ゆうやが呼ぶ。

今日は夏祭りだ。

夏祭りというのはどこか懐かしく、でも切ない気持ちになる。だって今日の夏祭りは二度と来ない。だからこそ大切な思い出になる。


幼なじみのゆうやがどうしても行きたいと言うので電車に乗って、この二つ隣の夏祭りへやってきた。

「ゆうやはしゃぎすぎ」

「だって初めて来たんだぞ!!そりゃはしゃぐよ!」

金魚すくい、やきそば、ヨーヨー。当たり屋にかき氷。

どれもこれもが魅力的に見えた。

「たかしー!これかってー!」

「全く。俺だってかねないんだぞー!」

「うそつけー!俺より持ってるだろー!」

遠慮と言うものがないなぁ!

でも今日はお祭り。

財布だって緩む日だ。

美味いものを食べながら、俺たちは神輿をみた。筋骨隆々の男たちが怒声を上げて神輿を担ぐその姿。荒々しくも勇ましい姿はかっこよかった。

「俺達もいつかやってみたかったなぁー!」

「そうだなぁ、、そのためにはそのヒョロっこい体鍛えたほういいんじゃね?」

「あ!?お前も人の事いえるのかー!!そーだなーたかしにはあんなのもてねぇよなぁー!」

「そのうちムキムキなるし」

「いーや!!なんないねー!ばーか!」

「ばーかって言うやつにはなんもかってやんねー!」

「すいませんでしたたかし様、、」


なんて、馬鹿みたいな会話。

が、心地よい。

「今日来れてよかったよー!俺ずっとこのお祭り来てみたかったんだよな」

「そりゃよかった」

「すげーよ!目を閉じると、神輿の男たちの声とか焼き鳥焼く音とか、笛とか太鼓の音とか、色んな音が重なってなんか、音楽みたいだ。」

「………。そうだな。お前に似合わず、詩人みたいなこと言うのな」

「へへっ」

ゆうやは照れくさそうに笑う。

空が橙色からどんどん碧色に変わっていく。

そろそろか。

俺達ははぐれないように人混みの中を泳ぐようにかき分けて、ある所へ向かった。


そこは古びたお寺。

少し離れてるし、階段を登らなければならないけれども絶好の花火スポットだ。


「え。ここ?」

「おう。ダメなのか?」

「いやーここなら花火よくみえそうだなー!」

まもなく始まるらしい。放送アナウンスがここまで聞こえてきた。


3.2.1で。


ドォーンと、夜空に一輪の花のように花火が打ち上げられた。


ああ美しいな。


「なー。ゆうや。知ってるか?」

「んー?」

「花火って死んだ人にさ。花を届けるためなんだって!!」

「おう」

「そんなことしなくったって見えてんのに」

「…おう。」

「でも、やっとお前と来れたなー!夏まつりっ!」

「…っ。お、う。」

ゆうやは優しくわらった。

「悪かったな。あの時、お祭りいけなくて」

「別に、、いんだよ、、お前が、居てくれたら、それで。」


ゆうやが笑った。

ゆうやは、数十年前交通事故でなくなった。

俺は。毎年この祭りに来ていた。

まさかと思った。交通事故があった場所に行ったらゆうやが居た。

幻覚、かもしれない。

でも。、俺は。会いたかった。


「実はおれ。もう消えんだよね。だから、今日来れてよかった!」

「ゆうや!!!俺!!お前ともっと遊びたかった!!おれ、おれぇ、、お、れ、」

声が震えてでない。

花火が霞んで見える。

ゆうやはだまって俺の手を握った。


「俺も、、来たかったぁ、、お前ともっと遊び、たかった、、」

「いかないでくれよ!!!やっと会えたんだ、、」





「ごめんな、そして俺の事ずっと忘れないで、俺の分まで毎年夏祭りいってくれてありがとう。でも、もういいんだ。」

「ゆうやぁぁー!!いかないでよー!!」

「俺も行きたくないけど、多分もういなくなんだよね。なんとなく、そんな気がする。たかしに会えて嬉しかったからかな、、」


花火が終わりに近づいているのか、沢山打ち上がり空一面が花畑のようになる。


光でチカチカと照らされたゆうやが、すぅと消えるように透明になっていく。

「つっっ…!!ゆう、やぁぁっ、いかないでくれよ、、お前のこと大好きだから、、」

「おれ、、これからどうなるかわっかんねぇけど、お前のこと、ゆうやのことはずっと見守ってるから、だから、もし出会ったらまた、あそんでくれよなぁー!!!」

ゆうやの後ろの花火が透けて見える。


最後だろうか、大輪の美しい花火だった。

まるで、ゆうやのように。



当たりが暗くなった。

ゆうやは、もうどこにもいなかった。








あれから何年経っただろうか。

久しぶりに、この夏祭りに来た。

ゆうやに、俺の子どもができたことをつたえたくて。

「とーちゃん!!見て〜!ムキムキだぞー!!」

俺の子どもは、やんちゃに育った。まったくだれににたんだか。


人混みの中、誰かがこっちを見ていた気がした。

今日は夏祭りだ。

夏祭りというのはどこか懐かしく、でも切ない気持ちになる。だって今日の夏祭りは二度と来ない。だからこそ大切な思い出になる。

そう。美しくも儚い、大切な思い出に。

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