君を撮りたい
ねむり凌
萩原旭
「ひまぁ~」
俺と向かい合わせで座る
六月も中旬、梅雨真っ只中の休み時間はこれといってすることが無かった。俺達が中学生であれば体育館開放を上手く利用して身体を動かすこともあっただろうが、もう高校生だ。ジャージに着替えるのも面倒だとかなんとかと適当に理由をつけて教室から動こうとしなかった。
「てか、
「あいつは……、わかんねぇ。いつもどこかふらーってしてるからなぁ。まあでも授業前には戻ってくるよ、多分」
机に向かって俺の質問に間延びした声で答えた山本は、俺が質問した彼――
俺と山本と萩原は出席番号が近い。そのため席も近いことからよく一緒にお弁当を食べる仲になった。今日もその予定で三人分の机をくっつけ、購買に昼ご飯を買いに行った山本と萩原を待っていたのだが、どういうわけか帰ってきたのは山本だけだったのだ。
その理由は山本にも分からないらしく、もたもたしていると昼休みも終わってしまうから先にご飯を食べておこうという事になったのだが、そのご飯を食べ終わってなお萩原は帰ってこない。
「ふーん。まあ面倒じゃなくていいけど」
俺の感じる煩わしさ故に吐き捨てた言葉に、山本はケラケラと笑って顔を上げた。
「ツッキー、旭に好かれてるもんな。ウザいくらいに」
「毎日盗撮されまくりだよ。あーもう……」
萩原はハッキリ言って“変わってる”奴だ。それもストーカー気質を持つ、ちょっとどころではない狂気性のある変わり者。俺は彼から何度も、なんなら現在進行形で、盗撮の被害を受けている。
そもそも初対面が最悪であった。
高校生になって二日目、俺が普段通り学校へ登校している時の事。パシャリとシャッターを切る音がしたと思い振り返ると、そこには俺と同じ制服を身に纏い、顔を隠すようにスマホをこちらに向ける男が一人。
周りには自分しかいないので俺の事を撮ったのだろうと、彼に近寄りその腕を掴み上げると、スマホに隠れていた顔が露わになる。
「お前、後ろの席の……」
入学式で隣に並んだ覚えのある男、それが萩原旭だった。この時、俺はなかなかな力で腕を引っ張っていたのだが、彼は苦い顔ではなく、とても驚いたような顔をしていたのを強く覚えている。
今思い返しても散々な出会いだったと思う。
その日は彼に写真の削除を求め、そのまま消してもらえたので良かったが、問題はその日以降だ。日中は学校の決まりでスマホは回収されるため、盗撮されることは無い。しかし、放課後や朝は別だ。俺が登校して一枚、下校姿を一枚。これは今ではお決まりになっている。
初めの頃はしっかり注意し、繰り返して写真を消すように訴えたが、今はそれも面倒になって言わなくなった。萩原はどうも私用でその写真を集めているらしく、よく分からないままだが、SNSに載せない、配らないのならいいとだけ言って放置している。今のところ問題は起きていないのでグレーゾーンと言ったところだろうか。
今、俺が問題にしていることと言えば、そのパシャパシャ鳴るカメラの音がうるさいといったところだけだ。
面白いことに、ストーカー気味の盗撮以外、萩原はどこにでもいる、くだらない話で盛り上がれる高校生なのだ。そのため俺もこうやってお昼を共にするのも嫌とは思っていなかった。
「撮り癖だけ直せばもっと人が寄ってくる性格してるのにな、旭って」
「それはそう」
山本の分析に頷きながら椅子にもたれかかる。はぁ、とため息をついて天井を仰いだ。まだ午後の授業まで時間があった。
「そうだ、面白い話してやるよ」
「なにそれ」
「いいから黙って聞いとけって」
山本がふいに体を起こし、いかにもな雰囲気で両肘を机に置いた。それには俺も興味が湧き、きちんと椅子に座り直す。
山本は「これは去年の事なんだけど……」と話を始めた。
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