第30話 それって、まさかお見合い!?(3)
当時はそれなりに仲が良かったのだが、いつの間にか疎遠になってしまっていた。
久しぶりだなと思いながら封書を開く。日付は四月の終わり。まだ、三ヶ月ほど先だ。ふうんと興味なさげに見ていると、母が口を開いた。
「その子って、確かあんたが高校生の頃に何度かうちに遊びに来た子よね?」
確認するように聞いてきた言葉に、私は曖昧な反応を返す。
「え? うん。まぁ」
確かに高校時代、何度か家に連れて来たことはある。だけど、何故今更そんなことを聞かれるのかわからなくて戸惑った。
母は何かを考えるように腕を組んで、それから、じっと私を見つめてきた。その瞳は真剣そのもので、思わず身構える。そして、意を決したように母が言った。
「あなたの歳で、もう結婚する子がいるのね」
「え? うん。そりゃ、もう二十五だしね。そろそろ結婚する子も出てくるんじゃない」
なんだか少し芝居がかった母の口調に不自然さを感じながら、軽く返す。すると、母はその言葉を逃すまいとずいっと身を乗り出してきた。
「それで? あなたは、結婚、どう思ってるの?」
「は?」
前のめりな母の言葉に私は耳を疑う。真剣な表情の母とは対照的に、私はポカンと口を開いた。
いやいやいや。何を言っているんだ、うちの母上は。結婚もなにも、そもそも私は誰とも付き合っていない。そんな相手すらいない私に、いったいなんの話をしているのだ、この人は。
そんな思いを込めて母を見ると、母は尚も食い下がってくる。
「お付き合いしてる人はいないって言ってたけど……」
そこで言葉を切って、母はじっと私を見る。その目は、探るようにこちらの反応を窺っていた。
一体何を聞きたいのだろう。全く意図がわからなかった。しかし、ここで下手に誤魔化すのは得策ではない気がしたので、面倒臭かったが正直に答える。
「だから、そんな人いないって言ってるでしょ。何なのよ。一体?」
苛立ちながら言うと、母は何故かとても嬉しそうに笑みを浮かべた。母の態度に私は首を傾げる。
(何なんだ?)
ますますわけがわからない。困惑する私に向かって、母が笑顔のまま口を開く。
「じゃあ、今度お母さんの知り合いの息子さんに会ってみない?」
「……は? 何でよ?」
母の言葉に私は目を大きく見開く。
今度とはどういうことだろうか。全く話が見えない。
母の意図が全く読めず困惑していると、母は続けた。
どうやら母の知り合いの息子というその人も、私同様に浮いた話の一つもない人らしい。
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