第6話 復讐のワケ

小さな村、リヴィエールを離れたウィリアム達だったが1つだけ違う事があった。

それは旅の仲間としてソフィアが加わったという事だった。実はこのまま2人だけで旅を進めるのはクリスティアの状態を見て芳しくないと判断した事から彼女が同行するのを条件で旅を進める事になったのだ。


「ちょっと待てよ…。」



「どうかした?クリスティア。」


森林地帯を歩いているとクリスティアがウィリアムを呼び止める。それに合わせてソフィアも立ち止まった。


「…何でアイツが居るんだよ!?あたし聞いてねぇぞ!?」



「だ、だって…僕らが心配だって言うから…その…気迫に負けちゃって…。」



「余計なお世話だっつーの!!ったく…!」


振り返るとソフィアの方を見て彼女は睨んだ。

確かにあの時に協力はしたが一時的な物だとクリスティアは思っていたのだが、どうやら違うらしい。

クリスティアの視線に気付いたソフィアが彼女の方を見て首を傾げていた。

この日は湖の近くで野宿する事にしウィリアムが枝を拾い集めて来るとそれを1箇所へ固めて置く。

そこへソフィアが赤い小さなマナストーンを投げ込むと火が起こり、パチパチと木を燃やし始めた。


「…明け方までならコレで問題無い。火を絶やさない様に枝を入れて燃やし続ける事だ。」



「ありがとう…助かるよ。」


ウィリアムがソフィアへ声を掛けると彼女は頷く。

するとソフィアはクリスティアの元へ近寄ると彼女へ話し掛けた。


「…何の為にあの街へ向かう?」



「あ?何でもかんでも一々お前に話す必要が有るのかよ?親じゃ有るまい……。」



「…聞かせろ、彼を巻き込む理由も含めて。」



「嫌だと言ったら?」



「…お前を敵と看做して此処で仕留める。彼は私が国まで連れて帰ろう。蛮族に襲われ掛けたと言えば納得はする筈だ。」


ソフィアの目付きは変化し、右腰のナイフを引き抜こうとする。昨晩の事も有り、下手に争う気は無い事からクリスティアは溜め息をついて話し出した。


「…全てはあたしの復讐の為だ。」



「復讐…?」



「…マリアンヌ。ディオール王都に居る女王だ。気高く…華やかでお淑やか…そんなのは見掛けだけ。」


クリスティアはギリっと歯を食い縛って呟いた。

そして話を更に続けていく。


「その正体はイカれたクソ女…気に掛けた女を片っ端から連れ込んではセックス三昧、そして何よりアイツが好むのは女の泣き叫ぶ声と悲鳴と許しを乞う声…。大抵目に掛けられた奴は可愛がられた末に死ぬ。そんなある日…アイツはあたしを見つけたのさ。何をされても死なないあたしをな。」



「お前は…不老不死なのか?そうには見えないが…。」



「刃物で切られ、刺されても…燃やされても…急所を射抜かれても…あたしは死なない。傷が直ぐに塞がっちまうのさ…この右腕のせいでな。でも痛みは感じるし何なら血だって出る。だからマリアンヌはあたしを四六時中…玩具と同じ様に嬲り続けた。剣で腹を突き刺し…普通の人間に使えば死ぬ程の快楽を齎す媚薬を投薬してあたしを狂わせる位に犯したり…鞭で何度も引っぱたいたりと…沢山だ。」



「ッ…それがマリアンヌの正体…か…。」



「アイツには言うなよ。…世間知らずの坊ちゃんには世間知らずのままで居て貰った方があたしも都合が良いんでな。それにアイツからすればあたしは同世代のガキに見えるらしいが…実際はお前らより長く生きている。」



「クリスティア…お前は一体何者なんだ?」



「魔法…それの大元を生み出したヤツから産まれた一種の不死身のバケモノ……それがあたしだ。だから魔法を消す術を探している…この世から無くなれば多少はマトモに暮らせるだろうさ。」


背を向けると彼女はそう呟いた。

赤いメッシュの入った黒髪が風で靡くと同時に羽織っていたボロ布の赤い上着も風に揺れる。

その背中は何かとても重たいモノを背負っている様にも見えた。


「…解った、ウィリアムには伝えない。私とお前だけの秘密にしよう。力なら貸してやれるが…どうする?」



「……傭兵があたしの復讐に加担すんのか?それに復讐相手はマリアンヌ以外にも何人か居るんだぞ?」



「…吐き捨てる程、人間の醜態さは見て来ている。それに私もある意味お前と似ている。」



「は?…どういう意味だ?」


彼女が振り返ると首を傾げる。

そしてソフィアはクリスティアへと話し出した。


「親を、住んでいた故郷を…魔法で焼かれた。領土拡大という名目の大規模な戦争で。嘗て故郷だった地には今はもう何も残っていない……魔法を戦争で使えばどうなるか…解るだろう?」



「…植物も水も全てが汚染される…その際に巻き起こった赤い瘴気によって。」



「そうなれば街も死んだも同然…だから私も恨んでいる…故郷を奪い…魔法を己の私利私欲の実現の為に扱う者達を。」


そう話したソフィアの目はクリスティアを見つめる。クリスティアは目を閉じて小さく頷いた。


「ふん…好きにしろ。決行はアイツの街への凱旋時を狙う。3日後にそれが行われる……。」



「なら私は先に街へ潜り込む…情報収集は必要だろう?」



「ああ…その方が手っ取り早く済むからな。次いでにコレも流してやれ……。」


クリスティアはソフィアへ近寄ると耳打ちする。

それに対し彼女は解ったと頷き、背を向けて走り出すと闇夜に消えた。


「漸く…アイツをこの手で殺せる……。」


右手を握り締めると彼女は不気味に笑いながら小さく呟いた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

今から何十年か前。

1人の少女の運命が変わった…そう、同時に呪われた日でもある。1人の白衣を着た男が刃物を持ってゆっくりと少女…クリスティアへ差し迫る。


「…悪く思うな。次に目が覚めた時、お前は力を手に入れている…何人足りとも手に入れられぬ唯一無二の力を……!!」



「ひッ!?嫌だッ、来るなッ、来ないでッッ…あぁああッッッーーー!!!?」


クリスティアの悲鳴と共に彼女の右腕の肘から下がどさりと落ちた。

五本の指の指先が未だ微かに動いている。


「あぁッ…私の…腕…私の…腕が…ッ…!?」


半泣きで自分の右腕を見ると有る筈の肘から先が無くなっている。ついさっきまで付いていた自分の腕が無くなっており、代わりに赤い血が傷口を染めていた。

焼ける様な痛みを感じていると腕を切った男が彼女の前へ来る。裸の彼女を研究員が起こすと彼は試験管に入った紫色の何かを彼女の無くした右腕の辺りへその中身を掛けた。


「これがお前の力だ…001。緋の魔導書…万物の命を喰らい、取り込んで己の力とする事が可能な遺物……そして魔法の元の1つ。」


そう囁かれた途端にその紫色の何かは白い包帯を纏った右腕へと変化する。傷口から指の先まで全て包帯に覆われていた。それからだ…彼女の様子が変化し身体も変化してしまったのは。

それから数日後、クリスティアは1人の少女と対面する。可愛らしい水色のドレスを着た金髪の少女…彼女こそがマリアンヌだった。

父親は国王であり彼女はその娘。

魔法というモノを知る為に父と共に此処へ来ていたのだ。

マリアンヌはクリスティアの居る隔離部屋へ入ると彼女を見据える。


「…貴女が001?又の名をクリスティア…で良いのかしら?」



「…だったら何?」



「私はマリアンヌ…貴女のお友達になりたくて此処へ来たの。」



「友達…?悪いけど興味なんて無い…。」



「そんな悲しい事言わないで?貴女も女の子じゃない…仲良くしましょう?1人で寂しくないの?」



「…寂しいって何?悲しいって…何?もう何も覚えてない…それに友達って…貴族と私が友達なんて無理に決まってる。解ったならさっさと帰って…!」


するとマリアンヌは無言でクリスティアの頬を突然平手打ちしたのだ。殴られた彼女は頬を抑えて見つめている。


「…誰に向かって口を聞いてるの?被検体の分際で…偉そうに!」



「ッッ…!!」



「貴女はヒトじゃない…モノなのよ?自分の立場を弁えて喋りなさいッ!!」


近寄ってしゃがむと今度は首を片手で締め上げて顔を近付ける。そして返事をしろと言われ、クリスティアは小さく頷いた。彼女は笑顔に戻ると再び立ち上がった。


「…そうだ。貴女には私に忠誠を誓って貰おうかしら?」



「忠誠…?」


すると突然彼女はドレスを捲り上げ、黒いガーターベルトの付いた同色の下着を目の前で見せ付ける。そしてこう続けた。


「今日から貴女は私のモノ…その証として此処へ口付けなさい?出来なければ…私に粗相したって報告して貴女を酷い目に合わせてあげる。どうなっちゃうのかしらね?…さぁ、どうする?クリスティア。」


クリスティアは唇を噛み締めつつ、ゆっくりと彼女の股下へ近寄る。何をされるか解らないという恐怖だけが彼女を支配していた。

そしてマリアンヌの秘部へと口付けを交わすと微かだが彼女の秘部からは甘い匂いがした。


「んッ…まさか本当にするなんて…ふふふッ、良いわ…沢山可愛がってあげる…!」


そして地獄が幕を開けた。

マリアンヌにより買われたクリスティアは彼女専用の部屋へ押し込まれる事になる。

その初日、雌という事を徹底的に教え込まれ、胸や秘部をマリアンヌにより弄られては数十回以上絶頂させられた。彼女の悲鳴と撒き散らされる蜜液と尿…それが床を汚しても辞める事は無く終いには朝までさせられた。2日目は馬用の鞭を用いた鞭打ちによる痛ぶりが続き、身体中に鞭の痕が付いてしまった。3日目は彼女が死なない身体である事に気付いたマリアンヌは槍や剣で彼女を刺したり斬り裂いたりと無茶苦茶をやってのける。だがクリスティアの身体に刻まれた傷痕は直ぐに再生してしまう。

それを彼女は面白がっていた。

4日目は彼女が街から連れて来た性玩具として利用されている少女、ヴィオラと共に奉仕…そして擬似性交により1晩中寝る事を許されずに快楽の沼へ沈められた。処女だったクリスティアはそれを無惨に玩具により散らされ、更には後ろの排泄穴すらもマリアンヌにより弄ばれ…終いにはヴィオラとの同性同士の行為も強要された。

5日目…そして6日目…とクリスティアへ向けられた恥虐と陵辱の数々はエスカレートしていく。

慰労という勝手な名目で兵士らの慰め物にされた事もあれば…再生する処女を何度も突き破られた事も有る。酷い時はそこへ異物を入れたままの時も有った。

クリスティアが逃げ出せたのは運が良かったからで偶然、マリアンヌが居ない時に窓を右腕の力を無意識に発動させて逃走したのだ…何も着ずに闇雲に走る。いつかマリアンヌを必ず殺す…そう胸に誓った彼女は闇夜に姿を眩ませたのである。

無論…マリアンヌが来る前にも自分は散々な目に合わされた…これが初めてでは無かった。

だから奴等も纏めて殺す…彼女がそう強く決心したのはその時であった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

パチパチと火が起こる中、その近くでウィリアムは横になったままクリスティアへと話し掛ける。

彼女は何度か枝を焚き火の中へと、くべていた。


「…クリスティアは寝ないの?」



「寝たいなら勝手に寝てろ。あたしは枝拾って来る…それと…!」



「それと…何?」



「……いや、何でも無い。何か有ったら直ぐに逃げろ…あたしに構うな。」


クリスティアは立ち上がると彼の元を離れて歩いて行く。そして立ち止まると背負っていたファルクスを下ろすと右手へ握り締めた。


「おい…いい加減出て来たらどうだ?昼間からずっと人様の跡付けて来やがって…バレてるんだよ。血生臭ぇ匂いプンプンさせやがって…!」


そう呟くと目の前の木の影から1人の女性が姿を現す。彼女の左手には光る固形物の入った入れ物を持っていた。


「…貴様が[[rb:魔法 > マギア]]を持つ者か?」



「あ?…生憎、そんなモン持ってねぇよ。残念だったな…解ったら大人しく…ッッ!!?」


目の前に居た少女は突然、クリスティアへ襲い掛かって来る。その右手には剣を握り締めており、クリスティアの持つファルクスの柄と鍔迫り合いとなった。


「てめぇッ…どういうつもりだ!?」



「貴様が国に居れば魔法は使える…そうだな?」



「はッ…人にモノを尋ねる態度かよ、それがッ!!」


振り払うとクリスティアはファルクスを、少女は剣をそれぞれ握り締めたまま左へゆっくりと移動する。


「我が国にも…魔法を…魔法を授けろと言っているのだッ!!」



「何の事かさっぱりだって言ってんだろうがッ!! 」


再び走り出すとお互いに真正面からぶつかり、剣と鎌による攻撃で火花が飛沫するもそれすらお構い無しに何度もお互いにぶつかり合った。


「魔導書と女神、それさえ有れば魔法が使える…ヴィルヘルムではそうだと聞いたッ!!なら他国でも似た事をすれば魔法は使えるのか!?」



「…悪ぃが答える義理は無いね!!あんなモノ振り回してどうすんだ、てめぇはぁッ!!」


少女の繰り出した連続突きを巧みに躱すとクリスティアは飛び上がって彼女の頭上から鎌を振り上げて斬り裂こうとしたが少女はそれを飛び退いて躱した。


「決まっている…更なる侵攻と領土拡大の為だッッ!!」



「ッッ…!!?」



「その為に魔法を使う…忘れはしない……ヴィルヘルムが領土拡大の為に見知らぬ力を用いて我が国、ダラムヘ何度も侵略戦争を持ち掛けた事もだ!!我が国、ダラムはヴィルヘルムを侵略し…そしてその力で他国も全て制圧する!!圧倒的な力…それこそがダラムの全てなのだからッ!! 」



「あぁ…そうかい……あの時から何も変わらず…何も学ばず…どいつもこいつも…やれ力だの…何だのと…そうやってずっと…バカみたいに戦争を続けやがって…ッッ!!」


ギリっとクリスティアが歯を食い縛ると右手に握っていたファルクスへ力を込める。そして目の前の少女を睨み付けた。


「強き者が弱い者を虐げるのは当然…ッ!力こそこの世の全て…力が無ければ無意味だッ!! 」



「てめぇの理屈でベラベラ喋ってんじゃねぇぞ…クソ野郎がぁあああッッ!!! 」


クリスティアは無意識に緋の魔導書を起動させると彼女の右目を覆っていた髪が風で捲れ、赤い瞳が姿を現す。そしてファルクスには黒く紫色の光が纏わり付いていた。少女はあまりの気迫に左手に持っていた光源を手放してしまうとそれが落下しクリスティアを照らし出した。


「なッッ…!?何なんだお前は…!?」



「あたしか…?あたしは…あたしだぁあッッ!!」


地面を蹴ったかと思えば、クリスティアが少女の目の前へ現れると思い切り蹴り飛ばす。横転し吹き飛んだ少女に対し更に追い討ちを掛ける様にファルクスを真上から振り翳して斬り裂こうとしたがそれは避けられてしまった。体勢を立て直すと少女は足元へ血を吐き捨てる。


「くそッ…これも…魔法の力なのか…!?」



「…余所見してんじゃねぇッッ!!」


クリスティアがファルクスを薙ぎ払う様に振り翳すと少女へとその刃が差し迫る。このまま行けば間違い無く彼女の身体は胴体と切り離され真っ二つだ。

だが禍々しく紫色の光を放つファルクスの刃は少女の直ぐ真横で差し迫っていた。



(続く)

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