君は煙草をすぐ切らす
鈴木魚(幌宵さかな)
君は煙草をすぐ切らす
「ねぇ、タバコ1本ちょうだい」
バイトの休憩中に君は少し申し訳なさそうに僕にそう言った。
「いいけど、強いと思うよ」
僕はそう言って、タバコを渡す。
午前3時過ぎの居酒屋のバックヤード。足のがたつく机の上に、銀色の灰皿がおかれ、そこが喫煙スペース担っていた。
蛍光灯の光が灰皿に鈍く反射し、繁華街の 雑踏が開けられて窓から聞こえてくる。
「ありがとー」
君は俺が渡したタバコを嬉しそうに受け取って火をつけた。
そして、深く煙草を吸って、案の定むせた。
「うわぁーいつものように吸うとダメだー」
涙目になってゴホゴホと咳を繰り返す君を見て、僕は笑った。
「ねぇ、タバコ1本ちょうだい」
バイトの休憩時間が被った君は今日も懲りずにタバコをねだってきた。
「昨日咳してたのに、また吸うのかよ」
「今度は注意して吸うから大丈夫」
僕は箱からタバコを取り出して渡した。
君は嬉しそうにタバコを受け取ろうとして、
「あれ?これ私と同じ銘柄じゃない?」
そういって、煙草の匂いをくんくんと嗅いだ。微かにメンソールに香りがする。
「飽きたから変えてみたんだよ」
僕はそう言いて、昨日よりも吸い心地が軽いタバコに火をつけた。
君は、僕の顔をじっと見つめていた
「優しいね」
「偶然だよ」
僕は彼女の顔を見ずにそう答えて、白い煙を吐き出す。
「ありがとう」
彼女は、昨日よりも嬉しそうにタバコに受け取り、火をつけた。
急に僕は恥ずかしくなって、窓から見える街灯の明かりを見続けた。
君は煙草をすぐ切らす 鈴木魚(幌宵さかな) @horoyoisakana
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