第26話百神夜行

「いいえ、まだよ……」


『ほう。それは神であるこのアクア・ポリシャンのおやつタイムを遮るに足る内容なのであろうな?』


 神聖なる成人の儀式に介入した吾輩や、ピーチ・グリーングリーンの振る舞いにあわあわと焦る修道女の人たちをしり目に、ピーチ・グリーングリーンは言葉を続ける。


「ミイヤー! すぐさま彼と婚約しなさい!」


「え!?」


『ほほぅ。なるほど。それは――。面白い』


 ピーチ・グリーングリーンが声を掛けたのは、彼女のメイドさんであるミイヤー・ロッテンであった。


 ミイヤー・ロッテンはロッテン男爵家の三女であり、ピーチ・グリーングリーンよりも年下に見えた。



 つまり――、彼女はまだ成人の儀式を受けてはいない。



『それは――、つまり、この男の称号を使って彼女も聖女にしてしまおうというたくらみか? 聖女ピーチ』


「えぇ、そうよ。わたくしが婚約破棄をしない限り、彼の『聖女に婚約破棄されまくりし者』の『まくられる』という複数形が成就されることはない。そうなれば照合の体面が傷つく。それを回避するため、女神さまは彼女も聖女にするしかなくて?」


『なるほど、然り――』


 女神は面白そうにピーチ・グリーングリーンを見つめる。


 にらみ合うかのような二人に吾輩の入る余地はなさそうだ。


「ふむ。そなた――名はなんといったか?」


 女神はそこで初めて、メイドのミイヤーに目を向けた。


「ロッテン男爵家の三女、ミイヤー・ロッテンです」


『なるほど、ミイヤーか……』


 女神はしげしげとミイヤーを眺めると、なにかを閃いたかのように指をならした。


 どうにも吾輩には悪い予感がする。


 女神はいかにも困った、という体を装って、しかし薄ら悪い笑みを浮かべる。


『しかしだな……、アクア・ポリシャンは一介の中位女神である。一度に何人も聖女を指名などはできないのだ――』


「そんな――」


『ならば一介でない神を呼べばいい。良いではないか――』


 そんな中、女神は指を3度ならし、カカトを二回叩いた。


システム:「イベントアニメーション、百神夜行が開始されました」


 謎のメッセージがウルトラヴァイオレットのシステムメッセージとしてポップアップする。




 リーン・リーン……




 それと同時。

 どこかでそんな鈴の音のような音が聞こえた。


 周囲の修道女たちがざわめく。


「まさか……」


「そんな……」


 そんな声の中、周囲の気配が一変した。


 それは神聖で、厳かで、しかしどこか凄惨で邪悪な感じが広がるような。


 瘴気と神聖性がまじり合い、いびつな霧のようなものが広がっていく――



 シャン・シャン――



 そんな鈴の音とともに何柱もの神々が突然現れる。


 着飾った者。


 腹黒そうなもの。


 山手線沿線で駅名のビールを飲んでいそうなもの。


 背中に小さな太鼓を背負って黒黄色縞柄のパンツに上半身全裸と言うヘンタイじみたもの。


 白黒の縦じまのユニフォームにバットを持ったもの。


 そしてまるでギリシャ神話の石膏のようなもの。


 などなど。


 その神々の種類はまさに千差万別だ。

 その数はだんだんと増えていき、約100柱にも及ぶだろうか。


 そんな中、中央から一人の女神が現れた。


 周囲の神々でさえ神々しさによって跪く。あるいは禍々しさか。

 そんな存在である。


 思わず、サピエとピーチも同じように跪いく。

 逆らえば何が起きるのか――



 そこに、朗々とした声が響き渡る。

 それは、鈿女うずめ系のまうすである大腹黒おおはらぐろ梅田守うめだかみ時貞ときさだであった。


「控え――、控えおろう! この方をどなたと心得る!

 先の最先任大邪神、主神たる女神カーキン様であらせられるぞ!

 控えるがいぃーー」

「女神カーキン様の――、おなーり――」



 今まさに、およそ100体におよぶ神々が、そして主神の女神カーキンが、この地へと降臨したのだ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る