第6話勇者は船を得る
「この度は娘をモンスターから助けていただきありがとうございました」
商人の男が勇者キリッカート・パインツリーに感謝をしている。
その背後には商人の娘だろうか。豪商の娘らしい可愛らしい服を身にまとった細身の少女が控えていた。
少女は、憧れの勇者に助けてもらったことに、頬を赤く染めて勇者を見つめていた。
その心は物語に登場する姫になったかのように。
普通、勇者とは絵本に出てくるような主役なのだから、それに助けられたともなれば当然か。
「あぁ、そんな程度で……」
勇者キリッカート・パインツリーは答える。
確かに勇者キリッカート・パインツリーにとってはその程度の認識だろう。
最近のモンスターが活性化している状況の中、勇者は大いにレベルを上げた。
モンスターの活性化している要因。それはパラチオン王国東側を迂回してきたモンスターたちが、大陸中央の魔の森から溢れ出始めてきたことによる。
勇者が現れる最近まで王国の東側は平和を実現できていた。
以前、「豚やろう将軍」と呼ばれるぶさいくな顔の将軍が魔王軍の侵攻を都市ごと火計を掛けることによって食い止めたのだ。
その豚やろう将軍は都市を失ったことで国王の娘であるコリンエステラーゼ・チオフォスフェイト王女との婚約を破棄され失脚したが、皮肉にも喪った都市がアンデットの巣窟となり双方の侵入を許さぬマジノ線と化しており、今もなお王国東側を平和に導いていたのだ。
火計を受けた都市はいまや人やモンスターのアンデットが満ち溢れる廃虚となっている。
それはモンスターも人も住めぬ完璧な防壁である。
魔王軍はそのため王国東からの進行は諦めた、――かに見えた。
これが勇者が現れる前の情勢だ。
しかし実際には大陸の中央、つまりパラチオン王国の北西の魔の森を通って魔王軍はゆっくりと侵攻していたのである。
そんな中で勇者パーティーはレベル上げをしていたところ、モンスターに襲われている商隊をみかけた。
そりゃあ助けるだろう。
実際には既に手遅れで少女一人しか助からなかったのだが、その少女こそ、大商会の会頭の一人娘であり、その後彼女を会頭に会わせることによって、冒頭の商人のシーンとなったわけだ。
そんな大商会の会頭は勇者にキリッカート・パインツリー言う。
「娘を助けていただいたお礼に、海船などはいかがでしょうか?
なんでも勇者様は魔王の討伐が最終目標だとのこと。
海船があれば大陸を大きく迂回でき、魔王の住むといわれる土地まで一息に行くことができます――」
勇者は二つ返事で海船をもらった。
そう、勇者は勇者クラスを神から与えられた瞬間から、前世の知識を思い出していたのだ。
その勇者の前世の知識によれば、この異世界の昔よく遊んだMMORPGでJRPGな世界観によく似ていた。
そのゲームでは勇者はヒノキの棒を与えられ、タンスからは金品を奪い、そしてたとえ死しても神殿に死に戻ってパーティごと生き返っていたのだ。
船についても知識があった。
これは――JRPGでよくある移動パターンを増やすための手段なのだろうなと。
勇者は考える。
魔王に会うためには船は必須なのだろうと。
だから船を使うのに嫌も応もなかったのだ。
一方で商人は皮算用する。
海船は使えれば莫大な利益を生むであろうが、モンスターが跋扈するこの住む世界では乗り手が少ない。
しかしそんな中、勇者が海船にあればどうだろう。船員募集は余裕で満員だ。勇者は市民の憧れなのだから。
そして海船となれば逃げ場がない。
船内に勇者がいれば体のいい戦闘要員としてこき使えるはずだ――――
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