天使達の覚醒

久保アーツ

第1話 活動開始


細長く伸びた階段を延々と登り続けている。

スタート地点はもう見えない。上もただ階段が続いているだけ。

そもそも目的地は何処だったのか。

何故周りには誰もいないのだろう。

 

 気がつくとエレベーターがすぐ横をすごいスピードで上下していた。

中にいる奴らが私を薄ら笑いを浮かべながら見下ろしている。

 私は何をしているのだろう。

確かなのは、上まで行こうとしている事。

こんな長い階段をわざわざ登る奴には特別な理由があるはずだけど。

こんな歩きにくい、かかとの高い靴・・・・を履いて・・・・。


 ここは何駅、いや駅ではないのかも・・。

地下街か何か・・・・何もわからない。

だけど、ただただ登る。

上に着けば何かがわかる。


どれくらいの時間が過ぎていったのか、上から光が差してくる。

今は昼なのか。

やっと上に着いた。

私は無意識に手首を触った。

何かが弾け飛んだ。

数珠のようなブレスレットが切れて小さな石が階段を落ちていく。

私はそれを見ながら不思議な達成感を感じていた。


 地上に出てもここが何処なのか、わからない。

私は自然に人の行き来が激しい方に向かった。

小さい店が立ち並ぶ中、私は中の良さそうな男女に近づいた。

店に並んだカバンを見て何か話している。

私は男の方を叩いた。そして私の左の薬指から指輪を外して、

彼の手にねじ込んだ。


 驚きを隠せない彼らを後にして、私は小走りで街を駆け抜けた、

途中で大きな鏡に映る私を見た。

小柄でショートヘア、鋭い目つきで怒りに満ちているような少女だった。

 私は今、何をしたのだろう。これから・・・・・・。


 誰かが私の足を触っている。

「一人なの?一緒にあっちで飲まない?」

夜のプール。私は黄色いビキニを着ている。

どうやらホテルのプールらしいが。

男は向こうで騒いでいるグループの一人らしい。

「遠慮するわ。大勢で騒ぐの苦手だし。」

「じゃ二人きりでどう。別のテーブルを用意するからさ。」

男はもう私の虜になり始めている。態度や目つきでわかる。

私はメスとしては、かなり魅力的らしい。

通る男たちの視線が暑苦しい。

この露出度の高い黄色い水着のせい?


「俺キース、君は?」

「ビビ」

「ニックネーム?」

「本名よ。嫌い?」

「素敵だよ。」

私はビビって言うんだ、と思った。

キースはあれこれ質問を繰り返して私を理解しようとした。

勝手に口から出てくるこの情報は、何処からくるのか。

誕生日、出身地、学歴、職歴、両親の情報、様々な嗜好。

「そろそろ失礼しなくちゃ。」

キースは気の毒なくらいに慌てた。

「もう少しいいだろ。急ぐなら送って行くよ。」

「キスしたい?」

驚いているキースの顔を両手で固定させて軽くキスをした。

「それじゃね、バイバイ。」

「待って、また会えるよね。」

「あなたが会いたければね。」

「明日は?」

「いいわよ。」

「何処で?」

「ここに来るわ。」

「何時に?迎えは?」

「夕方4時には来てると思うわ。」

「絶対?」

「絶対。」


 キースは確実に私に恋をした。

だから何?私は着替えるために何処へ行けばいいのか?

シャワーを浴びて出てくると、ホテルの女が鍵を持ってきた。

私はここに泊まっているらしい。

 部屋には派手に飾りの着いた大きな鏡があった。

そこに写っているのは自信に満ち溢れた気品のある女。

しばらく見ていたが、親しみはわかなかった。


 毎日熱いデートを繰り返して、深い中になった私たちは、

わずか2ヶ月で結婚した。

甘い甘い新婚生活の中、私は列車に飛び込み、死んだ。



 空港のアナウンスが鳴り響く。遅れる便、なくなる便・・・。

周りを見ては不安そうにしている大きな中年男がいた。

私は彼に近づきながら、声をかけた。

「よろしかったらお手伝いしますけど。」

「係の人?」

「そうです。空港の案内係みたいなものです。」

彼は私にチケットを見せた。

私は丁寧に場所を教えて、時間のスケジュールを説明しながら、

チケットをすり替えた。

彼は全く逆の方向に向かって早足で歩き始めた。


 私は念のために搭乗口に行って彼が遅れるのを確認した。

ギリギリ間に合ってもあのチケットではどうしようもない。

飛行機が離陸するのを横目で見ながら私はその場を離れた。


 ふと自分の胸の名札を見ると、そこにはマリアと書かれていた。

待合室の鏡に人の良さそうな小太りの中年女性が映っていた。

ふと私は吹き出しそうになった。トイレで普段着に着替えて、

バスに乗った。


 30分ほどの住宅地で降りた。

次は何をするのだろう。どうやら公園に向かっているようだ。

ベビーシッターが複数の子供を面倒見ている。

いや見れていない。ベビシッター同士がおしゃべりに夢中で、

全然子供に注意を向けていない。

私は活発に走り回っている3歳くらいの子に声をかけた。

女の子は何の疑いもなく私に着いてきた。

私は素早く女の子を連れ去った。

1時間ほど一緒に過ごしてから、家に帰した。

女の子の家は歩いて15分くらいの一軒家だった。

私は彼女に別れを告げて、逃げるように立ち去った。


 警察の車が走り回っている。何か異常が起こったらしい。

もしかして私が原因?私、何してるの?

いつも時間に追われている感じ。

何か考えようとすると、一旦終了する。

ん?終了するって何が?

あっ、終了する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る