【2023年編】彼女の回顧録。-後編-
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3年になると、彼は一人でいる事が増えていた。
タバコを吸いながらいつも同じ場所に居て、イヤホンで音楽を聴いている。まるで、人を寄せつけないかのように。
たまにマイや、バンド仲間らしき友達と話している姿は見かけていた。
彼等と話す時のトキは、昔のように穏やかな笑顔。
きっと彼の心にはもう、私は居ない。
直感で、そう感じていた。
それからほどなく、見たことの無い女の子を彼が学校に連れて来ていた。
その子を見た、私の周りはザワついていた。
チカに似ている。
アイツ、結局チカのことを引き摺ってるんじゃん。
私にはどうでも良かった。
彼が過去を忘れて前に進んでいるんだから。
もう、古傷を掘り起こすようなことは辞めて。
それからしばらくして、ユキちゃんからトキ達のバンドのCDを聴かせてもらった。
飲み会の席で、思わず泣いてしまった。
あの曲が、あの彼女へ向けたものだと直ぐに分かった。
トキは忘れているだろうけど、付き合って直ぐの頃、私達は約束していたんだ。
--夏になったら流星を見に行きたい。今年はたくさん流れるんだって。
あぁ、その頃には俺も免許取れてるから連れて行くよ---。
---うん、絶対だよ!約束だからね!
あの日の約束は結局守られなかった。
代わりに次の年、彼女と出会った。
流れる星の下、彼は彼女に恋をした。
--良かったね、トキ。
自然にそう思うことが出来ていた。
私には彼との思い出は一番の宝物。
だからもう少しだけ、その思い出に浸っていよう。
---あの時選んできた事が今の私たちを導いていたんだって、今だから思えるんだ。
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チカの独白を聞きながら、ナオは号泣していた。
「---うぅ。悔しい。そんなにトキを思っていたなんて--。」
「ふふ--。トキはもう何も覚えてないよ。ナオちゃんと出会った頃から、表情も柔らかくなってたし---。それまでのトキ、本当に能面みたいで怖かったもの--。もし、あのまま付き合ってても私には繋ぎ止められていなかったと思う。」
チカは穏やかな口調で話していた。
「--あぁ、あの頃はかなりモテたからな。俺。」
少し意地悪く言ってみた。
「はは、確かに---。嫉妬で持たなかったよ。多分。」
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大学を卒業して、何年経っていたかな。
私は関西の企業へと就職していた。
高校時代から、ずっとアプローチしてくれていた彼から転勤で近くに来ると連絡があった。
健気な彼の態度に私も幸せになっても良いよね、と自問自答していた。
彼は尽くしてくれた。そんな一生懸命な彼に次第に惹かれていった。
結婚生活は幸せだった。
彼は転勤族で数年毎の引越しはあるけれど、二人きりの生活は引越しの度に新鮮だった。
ただ、なかなか子宝に恵まれず、彼の両親からは懐妊を待ちわびる、悪意のないプレッシャーが重かった。その事を両親へ叱責する旦那との板挟みで辛かった。
今でこそ、子供が出来たから良かったけど、子供が出来たら出来たで、義実家で温かく迎えられるのは旦那と孫だけで。
私は孤立していた。
だから、ごめんね。
私はトキとの思い出に--綺麗な頃の記憶に
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いたたまれない。
チカの言葉は痛いほどに、いたたまれない気持ちになっていた。
私たちに何が出来るだろう。
チカに何と言葉をかけるべきだろう。
言葉が空虚を漂っては消えていった。
「--じゃあさ」
不意にナオが話し出す。
「--ずっと友達でいようよ。私たち。」
「え?」
チカが虚をつかれたかのような声を出す。
「家族--とか、ご主人とか、ママ友とか、学生時代からの友達とか、私たち関係ないじゃない。でも、同じ人に惹かれて--今、知り合って気持ちを共有してさ。なんか、他じゃ言えない事を言える仲ってのも良いと思う。」
ナオはずびずびと鼻をかみ、黒くなった目の周りをティッシュで拭きながら話していた。
「いいの--かな?」
チカは私に訊ねるように聞いていた。
「いいんじゃない?10年前も話したけどさ。俺たち元々、こうして話せる友人に戻りたかった---。そうだろ?」
タイミングが遅くなっただけである。
私たちは、別れの時からお互いに憎んだフリをし、内心ではいつもお互いの存在が残っていた。
ただ、その気持ちをどう昇華して良いものか、幼かったあの頃には分からなかったのだ。
いや、もし私がナオと一緒になってなければ。
もし、彼女がまだ未婚のままだったら。
もし、あの時復縁していたら---。
この三人の今の関係は無くなって居ただろう。
--あの時選んできた事が今の私たちを導いていたんだって、今だから思えるんだ。--
彼女のその言葉に思いを馳せていた。
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