ペルセウス座流星群

リド。

第1章 優しい傷跡

【2013年編】ただ、生きていた①

 ※本作品は、筆者の体験を基に改編し創作した作品となっております。作品中の事象、固有名等は実在のものとは異なりますので、予めご了承ください。


 -ペルセウス座流星群(ペルセウスざりゅうせいぐん、学名 Perseids)はペルセウス座γ星付近を放射点として出現する流星群である。ペルセウス座γ流星群(ペルセウスざガンマ流星群)とも呼ばれる。7月20日頃から8月20日頃にかけて出現し、8月13日前後に極大を迎える。しぶんぎ座流星群、ふたご座流星群と並んで、年間三大流星群の1つ。

 -Wikipediaより引用


 -------------------


 2013年5月。


 10年以上も前に別れたかつての恋人からの突然の連絡に、嬉しくもあったが驚きを隠せなかった。


 その年の12月に、私自身結婚を控えており、この先の人生が自分だけのものでは無くなると腹を括ったばかりの頃だった。

 だからこそ、彼女からの連絡は私の感情を大きく揺るがし、隠し続けていたを蘇らせるには充分だった。


 彼女とは、大学に入学し直ぐに出会った。一目見たときから恋に落ちていたと思う。

 その頃の私は何年間も片思いし続け、やっとの思いで恋人となった女性から、高校生活最後のクリスマスを目前に「元彼が忘れられない」と告げられ別れを選択し、女々しくも引きったまま春を迎えていた。


 今思えば、次への恋に気持ちが向かうには早く感じる。それ程までに彼女との出会いは衝撃的だった。


 10代の頃の恋愛は、何もかも新鮮で、自分の事を何一つ理解していないまま、そして感情の赴くまま突っ走っていた。

 我ながら無謀とも可愛らしくとも思ってしまう。


 大学を卒業し彼女とは一度も連絡も取っていなかった。いや、別れてから一度も。取りたくても取れなかったと言うべきか。


 私の浅はかな行動で彼女を傷付けた事は明らかだったのだが、具体的な別れの理由はままだった。

 それからは学内で顔を合わすことがあっても、お互い気不味く言葉はおろか目も合わす事無く4年間を過ごしていた。


 素直になってさえいれば、恋人として復縁はなくとも、せめて「友達」として学生生活を過ごせていたのかもしれない。

 そんな事を思っていても、過ぎた10年は取り戻せる訳じゃないのだが。


 久しぶりに聞いた彼女の声は、10年以上もの間、空白だった関係性を埋め尽くすには充分だった。

 それは古くからの友人を懐かしむかの様な柔らかな口調で、過去の思い出を蘇らせる。


「久しぶり----。トキってまだ地元に住んでるの?」


 正直、拍子抜けした。私も彼女も、別れた後も携帯番号を変えておらず、連絡の取りようはいくらでもあった。

 だが、自分は彼女に憎まれている---。自分の存在は彼女のトラウマになっているのでは無いか。そう思っていたのだ。


「あぁ、うん。久しぶり。地元からは少し離れたけど、県内にはいるよ。チカは県外だっけ?」


 何年か前に、大学時代の有志を募り県内残留組で同窓会を開いていた。その時に彼女の職場が関東だか関西だか---。

 簡単に会うことが出来ない街に住んでいる。そして、私の知らない誰かと付き合っている、そろそろ結婚するだろうというような話を聞いていた。


 しばらく、お互いの近況や他愛ない話をし、不意に彼女が切り出してきた。


「ねぇ、覚えてる?私達が付き合ってたの、ちょうど今ぐらいの時期だよ。もう10年以上も前---。」


 そうだ---。大学に入学したのにも関わらず、私の初登校は入学式から2週間近くも過ぎていた。大学に行く理由も見い出せずにいたのだ。

 とりあえず、就職に有利かも。という具合で何となく受験し入学したという、今思えば入学前から既に堕落した学生だったと思う。


 その初登校時の電車内、既に何日も通っていた私以外のは地元が近いと言う理由で、一緒に通う者同士のグループがいくつも出来上がっているように思えた。


 偶然、同じ高校出身者が同じ乗車駅にいることに気付き、彼もまだ「仲間」が居なかったのだろう。それまで親しくは無かったのだが、一緒に登校することとなった。

 電車が駅を進んで行く度、同じ大学へ通う学生の乗車が増えていく。


 --何駅か進んだ先で、彼女がいた。


 乗車した彼女はごく自然に、私の「友人」へと挨拶し、隣に座ってきた。

 聞くと、先週同曜日にたまたま車内で隣に座り、1限目のゼミに出席したところ、同じゼミの学生だったことから親しくなったとの事だった。


 彼女自身、同じ高校出身者がおらず、自ら友達を作るための行動を起こす程の度胸は持ち合わせていなかったのだ。


 それから、週に何度か彼女と同じ時間の電車だと分かり、一緒に登校することが増えていった。


 登校中、休み時間、同じ授業。彼女と話す機会が増える度に、私は彼女を知り、その魅力に惹かれていくこととなった。

 他愛ないことでよく笑い、ちょっとした事で拗ねたりと、自分の感情に正直な彼女を大好きになっていた。


「付き合って欲しい」


 そう切り出したのは、私の方だった。知り合って1週間か、はたまたそれ以上経っていたのかは定かではないが、彼女への気持ちが抑えられなくなるまでに、さほど時間を要することは無かった。


 だが、その恋は始まって1ヶ月程で儚くも終わっていた---。


「そっか。そんな経つんやな。」


 私は敢えて平静を装っていた。内心、彼女の口から次は何を告げられるのかとびびっていたと思う。


「あのね、トキに聞きたいんだ。---あの時、何で私たち別れることになったの?」


 質問の意味が分からなかった。


 あれは、私が振られた。君から別れを告げた。それが理由じゃなかったのか?


 いや、根本的な理由の予想は出来ていた。ただ、明確な理由は分からず終いだったため、次の恋愛に対し臆病になった。


 だから内心虚勢を張って、人が寄り付きにくい人物像を作っていた。それが、下級生には魅力的に見えたのか、男女問わず取り巻きが増えてはいた。


「私ね、本当にトキが好きだった---。別れた後も、学内で見掛けたら『やっぱりカッコイイなぁ』って。今まで出会った男の子の中でも、あの頃のトキが一番好きだった---。」


「いや、意味わからんのやけど?だって、あの時、俺が振られてさ。振られた理由もその時は全く分からなかったから---。だから人と親密になることが苦手になってた。」


「うん。知ってる。だってトキ、私と別れた後、周りに取り巻きみたいな女の子も沢山居たのに、全然楽しそうじゃなかったし。でもその中に特定の彼女がいるなんて聞かなかったし---。チャンスがあれば話しかけたかったけど、あの時のトキ、何か怖かった。だから、視界に入らないようにしてた。」


 ---逆だよ。俺が、君の視界に入らないように生きていた。言葉に詰まったのを察してか、彼女はゆっくりと続けた。


「私ね、結婚したのね。」


「あぁ、知ってる。誰かがSNSに上げてたから。」


「---あの時の本当のこと、知らないままだったら多分、私は幸せになれない。今、話してるだけで色んなこと聞きたいって思ってしまうくらい、トキの事が引っかかってるから---。」


 ---なんだよ。俺もずっと引っかかってたよ。でも、俺もやっと踏ん切り付けて、年末に結婚を控えてるんだ。今更、何を考えてるんだよ---。


 口に出せない感情が、頭の中を掻き乱した。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る