願い叶う病
@you1945
第1話 神様になる
「ぼくは神様なんだから君はぼくの言うとおりにするしかない」
目の前には苦渋の表情を浮かべる夕奈が立っていた。
夕奈はツインテールがよく似合うかわいい女の子だった。
それでいて誰にでも優しく、友人も性別問わず多くいて所謂クラスの人気者だった。
また、とてもきれいなこげ茶がかった大きく潤んだ瞳を持っていた。
その瞳は夕奈の持つ優しさやかわいらしさを引き立ててていた。
「ぼくに選ばれるなんて光栄なんだよ?ぼくはこれからもっともっと大きなことを成し遂げるんだ。だからその隣にいられるなんて幸せ者だと思わない?」
同意の表情を浮かべない夕奈に対し、彼は明らかに苛立っていた。
「仕方がないなぁ。じゃあわからせてあげるしかないか」
そう言うとゆっくりと夕闇に染まる教室の中、制服姿の夕奈に近づき、両肩を思いっきり掴んで床に押し倒した。
「や、やめて。。お願い。。。」
夕奈は必至に体をよじらせ抗ったが彼の両腕はがっしりと夕奈の肩を掴み離さない。そしてそのまま夕奈の叫びは夕闇の中でかき消されていった。
彼は強い頭痛を覚えたがどうせいつもの事だと気にしなかった。
それよりも夕奈を自分のものにしたい。
その欲望が頭の中を全て埋め尽くし、内から湧き上がる衝動に対して従順な下僕になっていた。
◆◆
がたんごとん。
電車に揺られながら楓の日常は始まっていた。
これから学校だと思うと少し気か滅入る。
空はきれいに晴れていたが、まだ少し夏の日差しが残っていて、半袖姿の人々が電車内で暑そうに汗を拭いていた。
オレも勿論、登下校用のリュックに汗拭きシートを忍ばせているが、これはマナーの一種みたいなもんだよな。ってSNS友達も言ってた。
ふと目をやると電車の座席で大股を開いて座っている中年サラリーマンがいる。
電車内にはいかにも足の悪そうなおばあさんが不安げに立っていて、
揺られながら、必死に倒れまいとつり革を握りしめていた。
(サラリーマン席譲ればいいのに。。。)
楓はふとそんなことを考えていた。
しかし、「おじさん、席譲ってあげなよ」と声をかける勇気はない。
「最近の若者は。。。」等という中年以降のおじさんおばさんの方が
マナーが悪いと思うし、中高生は意外と相手の事を慮る能力に長けているのではないか?と日ごろから思っていたところでこの出来事だ。
(おじさんなんて電車の揺れで座席から転げ落ちればいいのに)
とその時「う、うぅぅ」とうめき声とともに、急におじさんが座席から前につんのめったかと思うと、受け身も取らず右肩から床に倒れこんだ。
(え。。。)
電車内が一時騒然となる。
しかしおじさんは「あ、ごめんなさい。すみませんすみません」と言いながらよろよろと立ち上がるとつり革を握って立ち始めた。
「仮眠してしまっいたかなぁ」等と独り言をごにょごにょ言いながら、でも案外元気そうで車内も平静を取り戻しつつあった。
(なんだよかった。しかし驚いたなぁ。。。でも少しせいせいしたかも。
神様からの天罰だろうなきっと)
そう楓が考えた瞬間、頭にズキっとした痛みが走った。
まだ少しだけの痛みだった。
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