39.狼の隠れ里 -12
「『彼女の処遇を決めよ』。それが俺から貴方がたへの問いだ」
アビーク公爵の精兵、
狼の隠れ里に隣接する『蒼のさいはて』へと独断で踏み込み、その大義名分として里を滅ぼそうとしたパーティの一員である。三人の仲間はダンジョン内で死亡しており、生き残ったのは彼女だけだ。
「決まっている! 厳罰に処するべきだ!」
黒髪の若い
「あれは領主の兵士だぞ。そんなことをすれば戦争になってしまう。ここは里の自治権と彼女の身柄を引き換えにしてはどうか」
あくまで賢く冷静に対処すべきとする意見に頷く者もいる。それに「いやいや」と反論したのは中年の女。
「領主がそんな約束を守るもんかい。それより今は一人でも働き手が欲しい。あたしらの下で労役にあたらせるほうが得だろうさ」
確実な利を取ろうと考える者だ。彼女は里の女衆の頭らしく、女性の多くが同意の声を上げる。
それぞれを意見を述べながら、その全員がどこか俺を意識している。各々が『マージ=シウの求める回答』を探りながら、自分の中にある感情やわだかまりを吐き出す。そんな場と化しつつある。
「…………。」
長たるアサギは、黙ったまま議論にじっと耳を傾ける。
彼も分かっているのだろう。これは正解のある問題じゃない。何かを得るには何かを捨てねばならず、それを如何に選ぶかで共に歩めるかが決まる。
議論も紛糾しだした頃、一番後ろから若い女が大きく叫んだ。
「殺せ!!」
全員が一斉に振り向きそのまま口を閉ざした。
彼女の腕に、動かない赤子が抱かれていたから。俺が到着した時にはもう犠牲になった後だったという。
「だってこの子は、この子を……! なんでこの女が生きてるのに、この子だけが! 返してよ! ねえ!!」
その姿に、檻の中のメロは目を伏せることしかできない。
「私には、どうにも……」
小さく呟いた一言。おそらく気づいたのは俺だけの、何の力もない一言。
だがそれが何かの機となると見て、俺はメロにだけ聞こえるよう声をかけた。
「何かできるなら、やるのか」
「え、声? ど、どこから?」
「【空間跳躍】で周りの空気ごと声を飛ばしているだけだ。それより、やるのか」
野営の際、
「……はい。でも、私にできることなんて」
「【熾天使の恩恵】を貸す。死後まもなくであれば蘇生が可能な治癒スキルだ」
ティーナが有していた頃の【天使の白翼】でも他のスキルで補助すれば可能だった。進化した今なら成功率はさらに高いだろう。
ただし実践した例は今までに一度もない。
「そんなスキルまで……!?」
「これを貸せば君は二つのものを失う。ひとつはスキルだ」
進化した【熾天使の恩恵】は莫大なスキルポイントから成り立つ。一割の利息でも他のスキルを食い潰す可能性が高い。
「もうひとつは、なんでしょうか」
「寿命だ。蘇生は使用者の寿命を削る」
「ッ!?」
メロの呼吸がぐっと詰まるのがはっきりと見て取れた。
「何ヶ月なのか何年なのか、それは分からない。検証のしようがなかった」
ティーナが使わなかった、そして俺も軽々に使えずにいる理由がそれだ。
スキルは習得時におおまかな効果は自覚できる。だが詳細までは実際に使ってみないと分からず、特に希少な
このスキルでどの程度の寿命が減るのか。それは死ぬまで分からない。
「表立って尋ねれば里人たちの手前、君に拒否権はなかっただろう」
「……はい」
「それにこれは、いわば盗人が盗んだものを返すだけの行為。罪を償うのとは全く別の話で、蘇生した後で君の死刑が決まることだってありうる」
「はい」
「あくまで君自身の意思で決めさせるためにこうして密かに聞いている。もし君にその気がないなら――」
俺が全て言い終わる前に、メロの返事が届いた。
「やります」
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