第50話 ありふれた日常


 王都の裏広場で行われた世界最大の戦いは勇者でも魔神でもなく1人の少年が命を賭けた活躍によって静かに幕を下ろした。


 その後勇者の悪行については魔石に残った音声証拠を手始めに数々の隠蔽された行いが白日の元に晒され勇兵団は完全に解体された。

 残っていた数少ないメンバーもガイルの様に全員悪事に手を染めていた事が発覚し民衆の前に晒され見せしめとして拷問を受けた後に処刑された。

 そしてその象徴である勇者は歴史に残る極悪人として永遠に刻まれる事となる。


 また彼に魅了されていた人は奇跡的にリーゼ以外居らず、過去に魅了されていた人たちは全員王都の手厚い治療を受け心身の回復に向けて動き出している。


 国王については国民から大きな支持を得ていたが今回の事態が余りにも大きいため責任を取って退位し、その後国民によって選ばれた別の者が新たに国を治める事となった。



*      *      *


 

「よく来てくれたパトラ、そこに座ってくれ」


 私は案内された椅子に腰掛けた。

 あの日以来の王宮に私は少しソワソワしていた


「失礼します国王様。その後のモロンさんの様子はどうですか?」


「よせ...私はもう国王じゃ無いただのオジサンさ。モロンは傷やアザも回復して落ち着いているよ。私が気付けなかったばかりにあれ程まで酷いことをされていたんだ...。これから誠心誠意サポートしていくよ...」


 心なしか国王は威厳のあった風格は影をひそめ柔らかな表情になっていた


「あれ...それってもしかして?」


「バカを言うな、私が愛しているのは亡くなった妻1人だけだよ。そもそも娘と同い年の子を好きなるわけない」


「そうですか...国王様結構渋いからイケると思いますけどね」


「なにを...オジサンをあんまり揶揄うと長文でイタい手紙を送りつけられるぞ」


「ふふ...ではモロンさんの様子見てから私は帰りますね」


「ああ...またいつでも遊びに来てくれその時は━━━」


「分かってます。では...」



*      *      *



 王宮にある病室の扉をベッドの上でモロンさんが座っていた。

 シャツから覗く腕には以前の様なアザは無くなり、透き通る白い肌へと戻っていた



「パトラ...来てくれたんだね」


「うん、元気かなと思って様子を見にね」


「傷は治ったし夜に変な夢を見ることも減ったよ。あとは然るべき罪を償うだけ...」


「そっか...この後裁判に掛けられても情状酌量で刑は軽くなると思うよ」


「いや良いんだ...僕はちゃんと刑期を全うするよ。それが彼や他の人の為でもある気がするんだ...」


「そっか...分かった。刑期を終えたら何処か一緒に旅でもしようよ、私それまで待ってるから...」


 そう言うとモロンさんは優しく微笑んだ


「うん、楽しみにしてる。じゃあそろそろ検診があるからまた...」


「うん...またね」


 私は病室を出て王宮を後にした。



「明日はソフィアさんと領主様の元に挨拶に行かないとなぁ」

 

 馬車で私が生まれ育った村 《テュシア》に戻る途中いろいろな事を思い返していた。

 母を殺され復讐を誓ったあの日から...彼と出会い共に過ごした日々。

 そして魔物や勇者...魔神と戦い失った多くの命━━━



 ふと気がつくと夕刻を迎え空は綺麗なオレンジ色に染まっていた。

 そして夕日の影に佇む家の前で私は少し立ち止まり、誰も迎えてくれない玄関の扉を開けた━━━


































「...ただいま......遅かったかな......?」




「...遅いよ......おかえりなさい......!」



 涙を溢す私を優しく包み込むその腕に刻まれた刻印が一瞬煌いて見えた━━━

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