第46話 覆水盆に返らず

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 俺の告白に勇者とリーゼは動揺を隠しきれていなかった。

 そんな表情を無視して俺はヤツらが動けないように手足を縄で縛りつける


「お前がフェルか! よくもサーシャを...!」


「嘘よ...だってフェルは死んだはず...それにアナタ顔も違うし髪も銀色じゃない!」


「銀髪になるほど苦労したんだよ。お前にあの日展望台から突き落とされてからな━━━」


「そんな.......」


「このバケモノが...あの日死んでればこんなことには...!」

 


「バケモノか...お前には負けるよクソ勇者。俺から何もかも奪いやがって...今から報復を始める」



 ━━━創...報復のナイフ



 俺が創ったのは何の変哲もないただのバターナイフ。

 それを見ると勇者は鼻で笑い俺を挑発した



「何を生み出すかと思えばただのバターナイフじゃないか。僕を追い詰めた人間だからどんなもんかと思えば大したことないな」


「ふっ...やっぱりお前の頭の中はマシュマロだな。切れ味の鋭いナイフで斬られるのと切れ味0のバターナイフで抉られるのではどっちが痛いか理解してないな?」


 俺は分身によって皮を抉られた勇者の腹に向かってゆっくりとナイフを当てる


「そんな...やめろ...!」


「大した事ないナイフでお前を俺の力で回復させながら殺さないギリギリで痛めつけてやるよ。まだ後ろに待ちの順番が控えているしな」



 グシャッ...!



 俺は剥き出しになった腸にバターナイフを突き刺すと銀色のバターナイフに赤黒い血液がこびり付く



「ウ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッ!」



「おいおいまだ始まったばかりだぞ? ただ少し抉っただけじゃないかデカい声出すなよ。勇兵団所属のガイルさんですらまだ耐えてたよ」


 俺は次々と腸に突き刺して分断していくとその度に俺の手は真っ赤に染まり勇者は尋常じゃない悲鳴を上げる



「キ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッ!」


「腹筋が千切られてるのによくそんな声出せるな、やっぱ勇者はすごいよ。さて次は肺だ...文字通り抉り出してやる」


「や...やめ...て...くれ...」


「やめないさ、俺はお前に復讐するためここまで生きてきたんだ。生きがいをくれてありがとうな」



 満身創痍の顔をしている勇者に俺は何も感じる事はなかった。

 俺は右の胸にゆっくりとバターナイフを突きつける



「うっ...うあ...ヤ゛メ゛テ゛ク゛レ゛ェ゛ェ゛!」



 ザシュッ...!



「イ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ッ!」



 バターナイフが無理やり皮を突き破り肋骨を貫通し肺に到達する。

 内臓がえぐれる感触が俺の手に伝わり、ヤツの生命力が吐く息を通して弱くなっているのを感じる。



 グシャッ...!



 俺はまるでフォークに刺したステーキの切り身のように肺を肋骨ごと抉り出した



「ウ゛ォ゛エ゛エ゛ッ!」


「肺は綺麗だな。心が薄汚れてるから内臓も薄汚れてると思ったよ」



 ━━━零



 勇者の傷口は塞がり出血を抑えた。

 しかし俺は内臓の状態をそのままで身体を満足に動かせる状態にはしなかった



「何故...傷を塞いだ...」


「さっきも言ったろ? 俺の後ろに順番待ってる奴がいるって。さて...リーゼの魅了を解除しろ」


「い...嫌だ...」


「そうか...じゃあ次は右目だ。抉り出してお前を隻眼の元勇者という通り名にしてやるよ」


 俺がナイフを目に近づけると奴の瞳孔が開き瞳が左右に痙攣している様子が見えた


「やめ...やめてくれ!」


「じゃあ5秒以内...5...4...」


「分かった...やるよ! 《魅了チャーム》解除...」



「うっ...」



 リーゼは魅了を解除されて意識を失い頭をガクリと下げた



 グチョッ...



「...キ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!」


 


「あーごめんごめん目を逸らしたら手元狂っちゃった。でもまあ目は肺と一緒で二つあるんだ、心臓殺られるよりマシだろ?」


「う...うぅっ...リーゼ...」


 まだ元気な片目から涙を流す勇者に背を向けてパトラとモロンさんの方へ振り向く


「2人とも今から場所を移動するから後は2人で思う存分やってくれていいよ」



 パリーンッ...!



 俺はガラスを割ってリーゼとエレナを背負い勇者は引きずりホテル裏の広場に飛び降りる準備を整えた



 ━━━創...泡沫の風



「うわ...何コレ! シャボン玉?」


「ジュノの技だよ。さっきコレで恐ろしい事してたけどね...」



 俺は泡に包んだ2人をふわりと宙に浮かせてホテルから裏の広場に降ろす



「ここなら暴れ放題だ。だけど周りに見えないようにしないと━━━」


 ━━━創...阿鼻地獄の障壁


 俺は広場にバリアを張り周囲から見聞出来ないようにした


「さて、勇者の傷は俺が塞いで死なないようにするから手加減無しで存分にやって良いよ」


「うん...」


「分かった...」


 パトラは刀を鞘から引き抜き勇者に突きつけモロンさんは詠唱を唱え始めた



「やめろ...なぁ...頼む2人とウ゛ォ゛ェ゛ッ!」



「黙れ、お前のせいでママは死んだ! ルシア姉もあんな姿にさせられた! そして私が愛するジュノにも酷いことを...人の人生をめちゃくちゃにしたことを私は絶対に許さない...!」


「ちがう...あの村は...!」


「僕も許さないよ。勇者は昔言ってたもんね...やられる方が悪いって。強者になれない雑魚は搾取されるだけの存在なんだって...次は君の番だよ」


「お...おい...悪かった...モロン...頼...ッ...キ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛!」


 パトラやモロンさんによる折檻で勇者の断末魔が響く中、魅了の解除によって意識を失っていたリーゼが頭を上げて目を覚ました


「あ...あれ...私...」


「2人の音に目を覚ましたか...おはよう」


「フ...フェル...い...イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」


 精神状況が元に戻ったリーゼは現実を取り戻し発狂錯乱した。

 恐らく魅了を解除して全ての思考が正常に戻ったことによる副作用だろう...その後奇声は収まったがガタガタと震えて涙をボロボロ流し始めた


「落ち着けリーゼ。お前に現実逃避してる暇はない」


「イヤ...イヤ...! 私...勇者と一緒に酷い事を......私がフェルを突き落として...挙句に魅了で奴隷にしようと...他にもいろんな事を...ううっ...そんな...私が...うわぁぁぁぁん...」


「泣いちゃダメだよ」


「ううっ...私は...フェルのこと本当に昔から大好きだったの。でも勇者にキスをされてそこからあんな事を...その後もヤツにずっと奉仕をしてたなんて...」


「知ってるよ辛かったろうな。魅了されて勇者の妻になってさ」


「うん...でも本当に辛かった所はそこじゃない。フェルからのプロポーズを断るだけじゃなくてフェルの全てを否定して勇者のためだと思ってこの手でアナタを殺した...。そしてそのせいでアナタを復讐の鬼に変えてしまった...それが一番の後悔」


「そうか」


 俺はリーゼの肩に触れる。

 リーゼは再び涙を目に溜めて肩を震わせる


「ううっ...本当にごめんなさい...どんな償いでもするからまた私はフェルの側にいたい。お願い...私フェルが今でも大好きなの! フェルのことしか考えられない...でもフェルにはパトラさんが...ううっ...」


「それなんだけどパトラは俺のまだ配偶者じゃない」


「え...そうだったんだ...てっきり私は...」


「あれは勇者を誘き出すための作戦だったんだよ」


「そうなんだ...フェルは嘘が上手いね...口調も少し...冷たくなった気がするし...」


「この1年で上手くなったよ、お前らに死んだと思わせるくらいにな。そんな事より聞かせろ、あの村の実験はお前とエレナが主に関わっていたのは本当なんだよな?」


 リーゼは少し俯きながらポロポロと話し始めた


「実験...うん...私は一年前から色んな女性を勇者に捧げさせてた。モロンにも無理やり命令して...勇者からは戦力増強と僕達の能力アップのためだと言われて喜びながら...」


「魅了されていたからな」


「でも私はそんな言葉を信じてしまっていた...私の弓術は彼によって強化された事もあって魔神を倒すためなら村の実験は仕方ない事だと思いこむように...。でもそんなのダメだったんだ...例え魅了されてても人の命を弄んで良いわけがない...!」


「そこは魅了されていようが関係ないから当然だろう。まあ国王に魅了されていたと報告すれば多少罪は軽くなるかもしれないが...それと勇兵団のミイラの件も関わっているんだろ?」


「ミイラ...その事は私もわからない...ごめんなさい」


「そうか」




 俺たちの間に少しの間沈黙が走る━━━




「...おこがましいのは承知なんだけど...フェルに私の想いを伝えても良い...?」


「何?」


「私は家族思いで優しくて私を一番に考えてくれるフェルの事が大好き...。この一年で失ったものをどうしても取り戻したい...そして変わってしまった貴方を少しずつでも元に戻してまた昔見たいに甘い日々を過ごしたい!」


「確かに俺はさっきまでリーゼにとんでもない暴力してたもんな。俺が異常なのは間違い無いよ」


「だからお願いします...私と一緒にいてください。罪を償ったらフェルと改めて結婚したいです...」



 リーゼは起き上がり縛られた手足を動かして土下座の態勢で俺に逆プロポーズしてきた。

 俺はこの言葉を昔は待ってたんだよな...答えは決まっている━━━

























「お前と一緒にはいられないし結婚なんて冗談じゃないよ気持ち悪い」




「え......」




 俺は唖然とするリーゼの肩から手を離し、服でその手を拭いた━━━

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