第44話 騙し合いの果て


 勇者は邪魔者を実質奴隷にした喜びを噛み締めて自分の部屋のドアを開けた━━。



「ただいまエレナ」


「お帰りなさい......って2人とも酷い傷! すぐに手当します!」


「うん......少しやられたけどこの通りヤツから大事な女を奪ってきたよ」



 勇者は自慢する様にパトラをエレナに紹介する。



「いらっしゃいパトラちゃん。これから勇者様や私たちと一緒に幸せな毎日を送りましょう。では治療しますね《セレスティアヒール》」



 勇者とリーゼは全身に緑色の光を浴びるとみるみる傷が治っていく。

 勇者の欠損した一部は全て元に戻りリーゼの腫れた顔面も修復された━━。



「ありがとう。エレナのヒールがなかったら結構危なかったよ」


「いえいえ......それにしてもジュノという男許せません! 2人をこんなに傷つけて!」


「私も許せない! アイツに今度会ったら一方的にギッタンギッタンにしてやる! この子がいる限り私たちには逆らえないし」


「まあ良いさ、リーゼの言う通りパトラという大きなプレゼントをもらったからね。僕は少しパトラにお話があるから寝室に行くよ」


「ふふ......勇者様も好きだねぇ」



 勇者はパトラの手を引き寝室のベッドに寝転びパトラはそれを見下ろす体勢になった。



「では早速始めようか━━」


「はい......勇者サマ。貴方を昇天させて......あげマス......」



 パトラが悪魔のような笑顔で勇者の顔に近づいた━━。



「ああ......あ?」


 



 


 スキル......《大淫婦ノ性技床・上・手》!



「なっ......うあああああああっ━━━!」



*      *      *



 同時刻パトラの部屋にて━━。



「ふっ......」
















「もう出てきていいよパトラ━━」



「全く......どんだけ部屋に閉じ込めておく気よ」



 寝室から出てきたのは本物のパトラ。

 彼女は薄手のネグリジェをパタパタさせながら汗で服を湿らせていた━━。



「そういうなよ。泡スキルに閉じ込められてた時嬉しそうだったじゃん」


「そんなわけないでしょ? まあ子供の時の夢が叶ってちょっとだけワクワクしたけど......」



 パトラの気配と姿は俺のスキル 掩蔽えんぺいで完全に消した上で寝室に待機させており、勇者が悠々と連れて行ったパトラは変装させた俺の分身だった━━。



「空調も何もつけずに隠れてたから汗かいちゃった......服もベタベタ」


「悪いな、こうでもしないとアイツの本音を聞けないと思ってさ。それにしても笑えたよな! アイツが一生懸命魅了掛けて口説いてたのはこの"俺"なんだぜ? マジウケる!」


「うーわ......ジュノって敵になるととことん陰湿だよね......」


「ありがとう、それが俺の長所なんだ。『早くパトラをメスにして下さい...』だってよ俺......おえぇぇぇぇっ!!」



「ちょっと自分で言っといて吐かないでよ! 私も気持ち悪いんだから! それに私は自分のこと"パトラ"なんて言わないもん......」


「それはみんなが知ってるさ。大人になっても一人称を名前で言うのは自分を可愛いと思ってるヤツしか居ないからな。でもアイツはそれが好きそうオーラが滲み出てたからアドリブで言わせてみたら見事に引っかかった」


「ホントイヤらしいほどよく見てるよね人の事」


「勇者の周りにはいろんなタイプの女が居たからな。今回は年下で見た目キリッと中は甘々なタイプの人妻が欲しいんじゃないかと思って演じさせてみた」


「ふーん......それとさ、リーゼって人は顔ボコボコになってたけどあれジュノがやったの?」


「もちろん、パトラを巻き込もうとしたからその罰だよ。ケジメはきっちりつけさせるって約束してたし......まだ始まったばかりだけどな」


「そっか。ありがとう......」


「それよりアレ録れてるかな?」



 俺は予め仕組んであった魔石を部屋の死角から何個か取り出す━━。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



『......村の人を使い実験を繰り返して戦力にしようとしていた分際で何を━━』


『あそこは魅了を解除して記憶が残った女を都合よく処分出来るようエレナとリーゼに作らせたんだ━━』


『お前が主導であの村で悲惨な事をしたのは間違いないんだな!?』


『何度も聞くな、そう言ってるだろ━━』



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「バッチリだ。これで勇者ゆすって魔神を倒すまで俺らは楽してアイツらはボロボロの状態で最前線に立ってもらうとするか?」


「いやいやそこは素直に国王様に報告でしょ? それにしてもよく分かったね、勇者一行が泊まるって」


「ああ......王宮に戻った時メイドさん達がしきりに各部屋を綺麗に掃除してたから気になって聞いてみたんだ。そしたら勇者は大掃除で今日ホテルに泊まることになってるって聞いてもしかしてと思ってね」


「なるほど......でもそんな回りくどいことしないで単純に拷問すれば良かったんじゃない?」


「結構おっかない事言うね。ただな、短絡的に拷問しても勇者の様にその場をやり過ごす嘘をつかれる事があるんだよ。だが弱い相手だと思い込んだヤツには何を言っても抵抗出来ないと油断してベラベラ喋り出す。一回ボコボコにされた相手が実は自分より作戦で劣っていて優位に立てたなんてギャップがあれば尚更だ......人質も取ってるしな。まあ俺が勇者の頭に指突っ込めば解決したけどパトラには事前準備してもらってたし、こっちの方が分身の正体を知った落差が大きい分精神的ダメージ与えられると思ってさ」


「そっか......やっぱジュノって陰湿だね」


「うん、実は俺の正体はちょっと性欲が強いナメクジなんだ。でも許してくれ......分身の感覚は一部共有してるからアイツにキスされて俺は吐きそうなったんだ。思わず共有を一時遮断したよ......」


「だ、代償が大きいね。確かジュノが私の部屋に来るまでの10分くらいかな、アイツずっっと私の姿のジュノに夢中でキスしてるの見てて私も本当無理だったよ......」


「それは......変なモノ見せてごめん」


「本当だよ......」


 俺たちの間に少し沈黙が走る━━。


 その空気に俺は申し訳なくなって少し下を向いたがパトラはそれを分かっていたのか覗くように上目遣いで見つめる。



「許して欲しければさ......本当のキス......私にしてよ......」





「......それ本気?」





「うん......。だって私ジュノの奥さん......なんでしょ......? ならしても良いじゃん......」



 パトラは顔を赤めて少し恥ずかしそうに言葉を紡ぐ仕草がとても可愛く見えてなかなか言葉が出てこない━━。



「あれは......言葉のあやで......その......」


「ふふ......珍しい、恥ずかしいんだ......? ちょっと可愛い......んっ......!」



 目を閉じた彼女の想いに応えるように俺も瞼を閉じて彼女の吐息にくすぐったさを感じながら唇に触れる━━。

 



 ちゅっ......。




「んっ......ジュノの柔らかい......。ねぇもう一回して......さっきの嫌な記憶消したいの......」



 いつもの少し気が強そうな性格とは真逆のギャップがとても愛おしく、彼女を強く抱きしめ再び口付けを交わした━━。




 天啓......守護女神の刻印━━。



「なに!?」



 俺達が良いムードに浸っている中、突如パトラの胸から光が放たれ一瞬にして消えた。



「なんだ! パトラ大丈夫か!?」


「うん、なんともない......何今の......!?」


「わからない......念の為ちょっとレントゲンさせてくれ」



 創......真実の瞳━━。



「なんだこれ......」


「どうしたの?」


「パトラの心臓とそれを覆う肋骨の一部にに何か文字が彫ってある」


「何それ......すごい怖いんだけど......」


「読めないしどんな効果があるかわからない......少し様子をみよう」


「うん。じゃあさ......ちょっとだけさっきの続き......しよ......?」



「ふっ......全く呑気な奴だよ。敵が同じホテルに居るっていうのに」


「だって......ジュノは私を守ってくれるんでしょ? だから安心できる。それにジュノの唇が優しくて......」


「やめろよ恥ずかしいだろ。それより後でアイツらの部屋に突撃して全員に一気に畳み掛けて報復を終わらせる、今は前哨戦としてアイツらは俺の分身と楽しいことしてるからね」


「そっか......じゃあジュノとそれまでの間どうしよっか......?」


「それは......もうパトラを例え偽物でも誰にも奪われたくない......!」



 お互い吐息が肌に触れるくらいの距離で想いを確かめるように見つめ合った━━。




「うん......私も同じ気持ち......大好き━━」














「はぁ......。僕の出番......まだかな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る