拝啓クズ勇者様。今から報復に向かいます

第12話 復讐の代行

「喋れない体だと......？　どうやってその男を助けたか知らんが、お前みたいな"お嬢様"に出来るわけねぇだろ？　その女みたいなツラを今すぐ挽肉にしてやる」

　ガイルは腰に差した二振りの斧の内一本を引き抜く━━。

「おいおい、そんな棒を引っ張り出して太鼓でも叩くのかい？　お遊戯会の練習なら日曜に教会でやるんだな」

「テメェ......！　俺を本気で怒らせるとどうなるかわかってんのか！？」

「知らないよ、なんせアンタと俺は初対面なんだ。もしかして......怒るとミニスカート履いてチークダンスでも始めるのか？」

「表出ろクソガキッ！　ここだと集会所を壊しかねないからなぁ......タップリ嬲ってから殺すか闇市に売り飛ばしてやるよ」

　俺はガイルと共に外へ出ると、ヤツは二本目の斧を引き抜き憤怒の表情で俺を睨むが俺は特に何も感じる事なく準備体操を始める。

　その光景を見ていた街の連中は一緒に表に出てヒソヒソと話を始める━━。

『やべぇ......あのガキ確実に殺されるぞ！　ガイルはこの街で3本の指に入る強者だ。低レベルのひ弱なガキなんてそれこそ━━』

　3本の指ね......確かにあのデカい口じゃ余裕で指3本入りそうだな。

『俺の兄貴も因縁つけられてアイツに殺されたんだ！　王都の騎士団に入ってた兄貴が』

『僕の妹はガイルに連れ去られて......ううっ......』

『ガイルには誰も手出し出来ねぇ......もし万が一アイツに怪我でも負わせたら━━』

　なるほど、みんなガイルに迷惑かけられてたのね。

　人間は力を持つと行き着くところは結局同じだ......傲慢強欲になって何をしても許されると思うようになる━━。

「逃げずに嬲られる覚悟がある事だけは褒めてやるクソガキ。何か言い残すことはあるか？」

　目を瞑り俺はルキとの会話を思い出す━━。

『お前は最早人間の強さでは測れない。最初に戦う奴は優しく撫でるように力の加減をしろ。全力を出すのはそれから━━』

「発情期の子豚は優しく撫でてやらなきゃな」

「舐めやがって......死ねぇぇぇっ！」

　ガイルは全速力で俺に向かって突進してきたが

どうやら大きい図体の割に多少足は速いようだ。

　そして二振りの大斧をまるで軽石を持つようにブンブンと振り回している━━。

「俺はこの力で全てを手にしてきた！　女も金も地位も！　弱い奴は俺に搾取されるのさ！　世の中の理不尽を噛み締めて俺の高速の斧で死になクソガキぃぃ！」

　は？　いやいや何じゃこれ？　遅すぎてハナシにならないな。

　ルキの試練で対峙してたあの動きに比べたらナメクジレベルだ。

　言われた通り手加減する事だけを考えよう━━。

「おいおい、逃げてばっかりじゃ俺から生き残れないぜ？　それともお子ちゃまは戦い方を知らねーってか？　　ははははっ！」

「ふぅ......」

「どうした？　俺の動きが速すぎて音を上げそうか？　今楽にしてやるよ！　はぁぁぁぁっ！」

　渾身の力で振り下された斧をフワリと避け、そガイルの口元に優しく手を触れた━━。

「戦い方を知らねーかって？」

　ク゛シ　ャ　ッ━━！

「く゛ぁ゛っ......！」

「アンタよりは知ってるよ━━」

　ガイルの身体を形成していた骨と肉が引きちぎれる音が響く━━。

「さぁ力加減も大体分かったし戦いはこれからだっ！　やろうぜっ！」

「お......へ゛......な゛を゛......」

　ガイルが意味不明な言葉を呟いて血を吹き出しながらその場に倒れる━━。

　人間ってこんなに脆かったっけ......？

『そ、そんな.....ありえねぇ......！』

『あ、アイツの手......ガイルの......』

　野次馬は床に倒れたガイルよりも俺の手に釘付けになっていることに少し疑問を持つが、ふと下を見るとその意味が分かった━━。

「あーあ、こりゃ当分食事はコーンスープだけになるだろうね」

　俺の手にはガイルから引きちぎった下顎が握られていた━━。

「汚ねっ！」

　俺は持っていた残骸を反射的に捨て、倒れているガイルの元にしゃがみ込みニコニコと笑顔を振る舞う━━。

「ガイルさん、アンタがさっき言った世の中の理不尽......噛み締めてね。もう顎ないけど━━」

「ヤ゛......ヤ゛エ゛ォ゛ォ゛ォ゛......！」

　悲鳴を無視してガイルの股間から大事なものを引きちぎる━━。

「%°#+〒々〆#@○＊×〜！」

　俺の手は真っ赤に染まりガイルは何言ってるかわからない断末魔を上げる━━。

「強制去勢なんつって。さてあとは......」

　肉屋が行う解体処理のように四肢を一つ......。

　ク゛シ　ャ　ッ.......！

「%°#+〒々〆#@○〜！」

　また一つ......。

　ス゛シ゛ャ　ッ━━！

「〒々〆#@○＊〆〒×〜！」

　また一つ割いていく━━。

　これなら今後誰にも暴力を振るう事は出来ないだろう。

　しかしいちいちうるさいな、たかが四肢をちぎられただけだろ......？

「コレで仕上げ......零━━」

　ガイルから流れていた血は一瞬で無くなり傷も消えたが、四肢や股間、下顎は敢えて元に戻さない。

　それは今後の見せしめするためだ━━。

「さて、お兄さんの傷を消さないと」

　処理が終わったので立ち上がって振り返ると周りは最悪の空気だった━━。

「アイツイカれてやがる......普通の人間がやる事じゃねぇ......！」

「そこまでやるのか......」

「うぉぇぇぇっ......！」

　変わり果てたガイルの姿に口を抑えて嘔吐する野次馬に俺は親切心で自分の服の裾をちぎって渡す━━。

「大丈夫ですか？　よかったらこれ使ってください」

「あり.....うっ......ヴォェェェッ！！」

　その布には解体したガイルの血と肉がべっとり付いていた所為か余計に吐かれた。

　気を使ったのにひどい......まぁとりあえず力を使って服の血を無くそう。

　零━━。

「誰か回復術師を呼べ！　ガイルが死ねばこの街は魔物に襲われても対抗出来ないぞ！」

　誰かが叫ぶと術師と思われる女が野次馬を押し除けガイルの元へ走る。

　すぐにガイルに向けて必死に詠唱を唱えるが━━、

「なんで......なんで元に戻らないの！」

　欠損した部位は俺の力によって存在自体が無くなったので回復魔法を唱えても元に戻ることは無かった。

「お、おい兄ちゃん！　こりゃマズいぞ......！」

　野次馬の1人が俺に震えた声で話しかける━━。

「え？　そりゃまたどうして？」

「ガイルはあの"勇兵団"に所属してるんだぞっ！　知らないのか！？」

「勇兵団？」

「知らないのか！？　一年前勇者様がお創りになられた兵団のことを━━」

　一年前...俺があの空間に行った直後に作られた兵団か？

「彼らは勇者直属の配下で街を襲う魔物を倒す自警団的存在なんだ。勇者様は我々人間のためにいろいろ考えて下さるありがたいお方だよ」

　要は自分がいちいち魔物退治に赴く頻度が減る事に加え、自分の世間の評判を上げるために作ったってわけか。

　いかにもあのクズが考えそうな事だ━━。

「でもガイルみたいな奴がアンタたちに損害を与えても勇者"様"は何もしてくれないんでしょ？」

「そ、それは勇者様は魔神を倒すために色々お忙しいからであって......。とにかく団の戦力を削る損害があったら部隊の隊長もしくは最悪の場合勇者一行の誰かが駆けつけてアンタはその場で処刑されるぞ！」

　ふっ......あんな奴が横暴を繰り返してもお咎め無しなんて世も末だな。

「なるほど、そりゃ好都合だ」

　勇者に味方する奴は文字通り血祭りにあげてやるさ━━。