第8話 飴と鞭と鞭


 初めての試練を受けてから一年が経過したある日━━。


「どうじゃ? 昔より確かな力を感じるじゃろ?」



 ベッドの上で横になっているルキさんが言った通り、初日の時より力が湧いてくるのを実感していた━━。



「それにしてもお前は試練には弱いくせに、コッチはなかなかじゃな......」


「え......? 神より上の人が一体何を言ってるんですか」


「う......うるさいぞ......! しかし人間はこんなことをして愛を確かめるのか、神も変なモノを作ったもんじゃ」


「僕も変な感覚です......こんなにいいものなんて」


「そうであろう? なんせ我は全知全能を超える存在じゃからな! お前に合うようにいろいろ創ってみたんじゃ。自分に快感の信号も創ってみたがなかなか悪くないな......ただ力を分け与えるだけなのに癖になりそうじゃ」



 甘えた猫のようにベッドでうねうね動くルキさんに思わず可愛いと思ってしまう。

 そしてこんな可愛い人とさっきまであんなことしてたと思うと途端に恥ずかしくなる━━。



「る、ルキさんでもそう感じるんですか.......。とりあえず今日の試練もお願いします」


 僕はベッドから降り服を着て拷問に備える。

 するとルキさんもさっきの雰囲気とはガラリと変わる━━。



「そうじゃな......ではまた死んでもらうぞ。出来るだけ長く生き延びろ」



 ルキさんは瞬間移動をして僕の前に現れ指を銃のように僕に構える━━。



「今までは出血する試練が多かったからな、今度はコレじゃ━━」



 まるで太陽のような燃え盛る炎の球体をゼロ距離の僕に向けて放つ。

 もちろん僕に逃げる暇などなく、あっという間に炎に包まれてしまった━━。



「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア! ア゛ツ゛イ゛!」



 服は焼け皮膚が一瞬で爛れてバーベキューでもしているのかと思うほどに肉が焼ける匂いが鼻に通り、激痛と共に自分が焦げていくのを感じる━━。



「そのままでいいのか? 少しは我の力を分けてやったんじゃ! そのままやられてないで使うてみい!」


 使う━━、無の力を?


 確かに少しずつ力をもらってきたけど果たして僕に使えるのか?



「イメージするんじゃ! 炎が消えて全てが零になるのを━━!」


 零になるイメージ......意識を集中させ完全に脳が焼かれる前にやるしかない━━!



『零━━!』



 僕が呟くとあれだけ熱く僕を焼いていた炎は黒いオーラに包まれマッチにつけられた火のように小さくなった━━。


「消え......た?」


 炎が小さくなった安堵感でその場に倒れ込んだ━━。



「まだ無には出来ぬか......まあ最初はこんなもんじゃろ。だが.......何を勝手に寝ておるっ! まだ終わらぬぞ! さあ立て!」



 僕を無理やり立ち上がらせると火傷した皮膚に硫酸のようなものを容赦無くぶっかけた。



「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア ! シ゛ヌ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ッ!」


 皮膚瞬く間に爛れ下から骨が覗く 


「そうだ、もっと苦しめ! その痛み苦しみの全てはお前が憎む奴らのせいと思え! 痛みの分我がお前を癒してやるから乗り越えてみせるんじゃ!」


 そうだ......この痛みを乗り越えればまた強くなれる━━!

 


「ウ゛オ゛オ゛ア゛ア゛! セ゛ロ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ !」



 僕の全身を黒いオーラが包み込み、身体を溶かしていた硫酸は跡形もなく消えた。



「よしよし上出来じゃな。今日はこの辺にしとこう」



 全身の火傷に加え皮膚が溶かされ骨が剥き出しになった僕は激痛に耐えられず意識を失いそうになる。

 しかしルキさんが身体を治してくれたおかげでかろうじて意識を保つことができた━━。



「今日も気絶せずによく耐えたな、肉体も以前より試練に耐えられるようになっておる。試練によって削られる精神力は無の力と判断力を強化し、我と交わる事により創造の力と肉体強化を行いお前は無限に強くなる」


「ありがとうございます......」


「ほれベッドに寝ろ。昨日の続きをしようではないか......♡」


 ルキさんは妖艶な出立ちで僕をベッドへ誘惑する。

 先程受けた壮絶な痛み苦しみを全て忘れるように僕は今日も彼女を貪った━━。



*      *      *



「今日も激しかったな。そんなに我とまぐわいたかったのか?」


「はい......ベッドでのルキさんは可愛くて綺麗だから抗えなったです」


「......あんまり我を揶揄うでないぞ......」



 顔を熟した果実のように真っ赤にしている神の上の存在のギャップに思わずイジりたくなる━━。



「本心ですよルキトマト・・・さん」


「我を馬鹿にしておるな? トマトのように真っ赤と言いたいんじゃろ!」


「えへへ......どんな時でもジョークを忘れるなってある人に教えられたので思わず。じゃあおやすみなさい」



 昔のことを少し思い出した僕は目を瞑り明日が来るのを待った━━。

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