第11話 眠り姫
同時刻。
場所は変わって王都マハラ。
冒険者ギルドにある応接室にて。
「……
ティアはその名を反芻した。
その手には人相書きが握られている。
「はい。そうです」
受付嬢が頷いた。
その部屋には今、ティアとレイがソファーに座っていた。
アロは立ったままローテーブルの上に散らばられた資料を覗き込み、受付嬢は向かい側のソファーに腰を下ろしていた。
「海賊島の
受付嬢は軽く喉を鳴らした。
「A級冒険者以上。船の護衛をしていたB級冒険者が一撃で両断されたという報告も入っています。A級パーティーも遭遇したことがあるのですが、男性冒険者は全滅。女性冒険者は未だ行方知らずとなっています」
「A級パーティーを壊滅させたってこと?」
レイが眉根を寄せて問う。
受付嬢は「はい」と頷いた。
「それも生き残った目撃者の話ではゴーグ一人でだったそうです」
「……そう」
ティアが眉をひそめて嘆息した。
一方、アロが片眉を上げる。
「それだけの力があるのに海賊なのか?」
そう呟くと、レイが苦笑いを浮かべた。
「こいつはもう奪うことに慣れたんだよ」
レイが言う。
「暴力に魅せられたから海賊なの。そこには実力は関係ない」
ティアも続く。
「……そうか」
アロは小さく息を零した。
そういった人種はこの二週間で何度も見てきた。
「こいつは
レイがそう尋ねると、受付嬢は「はい」と頷いた。
「ですが、こちらは出来れば
言って、一枚の資料のローテーブルの真ん中に移動させた。
ティアたちはその資料を覗き込む。
それは二十代後半ぐらいの女性の人相書きだった。
栗色の髪の眼帯を着けた女性だ。
「幹部の一人。NO2と目されている
「うわあ。いかにもって二つ名だね」
レイが苦笑いを浮かべると、受付嬢も頬をかいて、
「そうですけど、実は彼女、本物の王族なんですよ」
「「「………え」」」
ティアたちは声を揃えて目を瞬かせた。
受付嬢は資料に手を添えて説明する。
「彼女の本名はランダルシア=ガルドム。巨大船で大陸間を移動する略奪国家。あの悪名高いガルドム国の生き残りです」
「え? あの都市伝説みたいな国家って実在してたの?」
レイが目を丸くした。
ティアも驚いていたが、アロだけはキョトンとして、
「何だ? その国は?」
「十年ほど前まで存在した国家です」
受付嬢が説明する。
「海全体が自国の領土。すなわち海洋を通る船はすべて不法入国であるって意味不明なことを言って貨物船や商船を片っ端から襲っていた最悪の国でした」
そこで小さく嘆息して、
「流石にもう放置も出来ず、複数国の大連合で潰したそうですが、その際に第一王女だけは取り逃したそうです」
「……それがこの人?」
ティアが資料を手に取って問う。
受付嬢は「その通りです」と答えた。
「それでも一国の王女ですから。出来ることならば、彼女には正式な裁判を受けさせるべきだというのがギルドの考えです」
「うわあ。メンドくさ」
と、レイが率直な意見を言う。
受付嬢は「すみません」と謝るだけだ。
「あくまで推奨ですから。彼女も手強いので出来ればで問題ありません。他にも幹部はいますが、
「……うん。分かった」
ティアは頷く。レイもアロもだ。
「この作戦。私たちも参加する。けど一つお願いがある」
「何でしょう? ギルド長に掛け合ってみますが……」
「そこまで無茶な話じゃない」
一拍おいて、ティアは言った。
「この作戦が上手く行ったら、最速の東方大陸行きのチケットを優遇して欲しい」
こうして。
冒険者ギルドの作戦が進む中――。
「……カカッ!」
当のゴーグは意気揚々と廊下を進んでいた。
目的は眠り姫の待つ部屋だ。
――眠り姫。
それは先日襲った貨物船の戦利品だった。
東方大陸からの船だった。
護衛の冒険者どもは殺した。女がいたのでそれは攫った。
他にも目ぼしい荷はすべて略奪した。
そうして他に何かないかと貨物船内を精査していた時に彼女が見つかったのだ。
貨物船の下層船室で眠り続ける彼女が。
見つけた時は、まるで野生動物のように丸くなっていた。
だが、その美貌は実に素晴らしい。
ゴーグは一目で彼女が気に入り、連れ帰った。
海賊島に連れてきても彼女は眠り続けたままだったが、眠り姫を起こすのは昔からキスと決まっている。
そのまま一線も越えてしまえば流石に目も覚ますだろう。
しかし、彼女が身に着けていた衣服はあまりに野暮ったい。
まるで田舎娘だった。実際、見た目の年齢的にはそうなのかも知れない。
これではいささか萎えてしまう。
そこで、ゴーグはランダに頼んで彼女を着替えさせたのだ。
長旅で折角の美貌も少しばかり汚れていたので入念な入浴も願った。
その準備が、ようやく整ったのである。
「ここか!」
ゴーグはドアをバンと開いた。
そこは大きな寝室だった。
水差しの置かれた机と、大きな丸いベッドだけが置かれている。
そして、そのベッドの上に彼女はいた。
年の頃は十六か、十七か。
健康的な肌に低身長。この特徴は恐らく
だからこそ、船室で眠り続けていた理由も分かる。
まあ、それはともかく。
「……おお」
ゴーグは眠り姫の姿に感嘆の声を上げた。
身に纏うのは雪のように白いドレス。わざわざ用意させた最上級のドレスである。仰向けに眠っていても、ほぼ崩れない大きな双丘が呼吸に合わせて上下していた。
とても小柄でありながら、その一点に置いてはランダに迫るほどだ。
このアンバランスさが、ゴーグが惹かれた一因でもある。
そして、言うまでもなく美貌も一級品だ。
桜色の唇に整った鼻梁。髪は輝くような翡翠色。前髪と後ろ髪は短いが、横髪だけは胸にかかるほどに長い。眉も翡翠色だった。三角形を思わせる太く短い眉である。
顔立ち一つで勝気な娘なのが窺える。
それもまたゴーグが惹かれた点だ。
こういった勝気で気丈な娘を屈服させる。それがゴーグの一番の楽しみだった。
「カカカ。どんな顔をして目を覚ますんだろな」
ゴーグはベッドの上に乗った。
最初から上半身は裸だった。
ズボンが邪魔だが、まあ、少し楽しんでからでもいいだろう。
そんなことを考えながら、眠り姫に近づいていく。
そうしていよいよ眠り姫の上へと移動した。
「じゃあ、まずはその大きな胸を堪能させてもらおうぜ」
言って、彼女の胸に手を伸ばすゴーグ。
だが、その時だった。
――むんず、と。
ゴーグの腕が掴まれたのである。
「………は?」
ゴーグが唖然とする。思わず眠り姫を見やると、
「……………」
彼女は目を覚ましていた。
髪と同じ翡翠色の勝気な眼差しでゴーグを見据えている。
「……お前は誰だ?」
可憐な声でそう問う。
「はあ? いや、俺は……」
まさかこのタイミングで目覚めるとは思っていなかった。
流石にゴーグも困惑していると、
「お前、もしかして、わっちにエッチなことをしようとしたか?」
「い、いや、まあ、直球で言うならそうだが……」
まだ困惑しているせいで正直に答えるゴーグ。
少女は「うん。そっか」と言ってニカっと笑った。
そして、
――ズンッ!
少女の膝蹴りがゴーグの股間に突き刺さった。
「――ぬお!?」
思わずゴーグも目を剥いた。
その激痛は言うまでもないが、驚くべきはゴーグの巨体が高々と打ち上げられことだ。そのまま円の軌跡を描いて、ゴーグは背中から床に叩き落とされた。
さしものゴーグも背中と急所の激痛に悶絶している。と、
「この卑怯者め!」
むくり、とベッドの上に立ち上がって彼女は言う。
「知っているぞ! 冒険者には相手を眠らせてエッチなことをする卑怯な奴らがいるんだって!
そこで両手を腰に置き、大きな胸を揺らして、
「卑怯者め!
そんなことを叫ぶのであった。
まあ、色々とズレているようだが、何はともあれ。
眠り姫。
いま目覚めの時。
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