第8話 ラスラトラス王国にて
グラフ王国の隣国であるラスラトラス王国。
そこは森の国であるグラフ王国と一転、港町が栄えた王国だった。
主な産業は漁業と海路を使った輸入と輸出。
近隣諸国の別大陸からの輸入品のほとんどは、この国を通っていると言える。
特に希少な輸入品は王都でしか手に入らないという話だ。
そのため、領地の広さ、国家の規模こそグラフ王国に劣る小国ではあるが、王都の盛況さにおいては遥かに凌いでいた。
そんな活気のあるラスラトラス王国の王都マハラ。
その地に今、一台の幌馬車が到着した。
大きな正門を通る。
辻馬車ではない。商人の馬車だ。
幌馬車は街の一角でゆっくりと停車した。
そうして三人の女性が幌馬車の荷台から降りた。
一人目は十七、八ほど。少なくとも見た目としてはだ。
うなじ辺りまでの薄く紫がかったふわりとした白銀色の髪。華奢な肢体も、その美貌も人形めいたほどに美しい。淡々とした紫色の瞳も人形を彷彿させる。
服装は緑色の大きな三角帽子。ゆったりとした袖に、足にスリットの入った同色のローブ。右手には大きな杖。左手にはトランクを持っていた。
ティア=ルナシスだった。
二人目は二十代半ばの美女。
活発さが分かる少し青みがかった黒髪と黒い眼差し。襟や裾に金糸を施した軍服のような白い服に、黒い
手にはトランク。背中には大剣を背負っている。スタイルは抜群であり、荷台から降りると、大剣のベルトでスラッシュされている大きな双丘がたゆんっと揺れた。
レイ=ブレイザーである。
三人目も美女だった。
いや、年齢は十八なので美少女か。
しかし、幼さを感じさせないほどに凛々しい顔立ちをしている。
褐色の肌に琥珀色の瞳。ライトグレーの短い
彼女の特徴としては頭部にある狼の耳。そしてふさふさの狼の尾。
彼女が
両腕は、本来ならば爪が生え、獣毛に覆われているのだが、今は人の腕だ。
衣服は白い
――そう。
新たに仲間に加わったアロである。
幌馬車の護衛者として同行していた彼女たちは、たった今、この王都マハラに到着したのである。
「ここがマハラかあ……」
レイが「う~ん……」と背伸びをした。
周囲を見やると、多くの人が行き交う活気に満ちた光景が映る。
王都自体がこの国最大の港なので特に商人が多いようだ。
「凄い数の人だね」
感嘆するようにレイが呟き、
「それでライドの匂いは追えそう? アロ?」
隣に立つアロに尋ねる。
「……むむ」
アロは少し眉根を寄せた。
「流石に厳しいな。主人がここまで来たことはどうにか分かったが、もう時間が経っているし、この街は潮の匂いが強烈だ。何より人が多すぎる」
「それは仕方がない。地道に情報収集するしかない」
と、ティアが言う。
そして、
「まずはギルドに行こう。護衛の依頼完了を報告しないといけない」
そう告げた。
レイもアロも頷いた。
ちなみにアロもすでに冒険者資格を取っていた。
ここに来る前のラガストリアという街で申請したのである。
グラフ王国では獣人族の冒険者登録などとても不可能だったろうが、ラスラトラス王国には奴隷制度も差別意識もない。申請はあっさりと通った。
しかし、ランクとしては最下級のF級からだ。アロの実力的にはすでにB級にも届くほどなのだが、こればかりは一足飛びに昇級とはいかない。
今回の護衛の依頼はアロが受け、ティアたちは同行という形になっていた。
「それから情報収集をしながら、アロの昇格をしていくのが良いと思う」
ティアがそう提案する。
「うん。そうだね」
腕を組んで、レイが首肯する。
「とりあえずC級ぐらいになってくれるといいね」
「私としては」アロは渋面を浮かべる。「身分証程度で構わないのだが……」
元々は森で暮らしていた神狼の戦巫女だ。
どうにも冒険者の自分に違和感を覚えるアロだった。
「気持ちは分かるけど」「う~ん……」
ティアとレイは苦笑を浮かべた。
「それだとボクたちと一緒に行動しにくいし」
「うん。依頼を受けると行動しやすい時もある。アロも高ランクになっていた方が動きやすいのは事実」
と、ティアが補足する。
アロは腕を組んで「むむむ」と呻いた。
「ボクたちのパーティーの見習いという扱いもあるけれど……」
レイがかぶりを振って肩を竦めた。
「一応、ボクらってS級だから、せめてC級かB級ぐらいの格がないと、ギルドはなかなか認めてくれないからね」
上級の者が下級の者を搾取しないための処置なので文句も言えなかった。
A級以上ならば優良パーティーとして見習い制度というのがあるのだが、それでも許可されるのは二~三階級差までだった。
「けど、アロならそれほど問題ないと思う」
ティアが言う。
「前の街のギルドの
輸入や輸出を主産業とするならば、当然ながら海路や陸路が必要となる。
盗賊や海賊が多くなるのは必然なのかもしれない。
「盗賊や海賊の討伐はギルドの評価がかなり高い。それらを片っ端から潰して行けばC級ぐらいにはすぐになれるはず」
「うむ。要は狩りだな」
アロは力強く頷いた。
「それなら得意だぞ」
一拍おいて、
「ところでそいつらは殺してもいいのか?」
「……それは流石に依頼の内容次第」
「あはは……」
ティアが嘆息し、レイがポリポリと頬をかいた。
アロは凛々しく理知的だが、やはり脳筋なところがあった。
「まあ、そこはともかく、アロの実力なら確かに問題ないね。けど、アロって船に乗ったことはあるの?」
「ん? いや、それはないな」
アロは小首を傾げた。
「私の住んでいた森にも川や湖ぐらいはあったが、流石に海はなかった。大きな船には乗ったことがない」
「そう。それなら経験を積んでいた方がいい」
ティアが提言する。
「海上戦は地上戦とは感覚が違うから。慣れていないと危険だと思う」
「うん。ティアの言う通りだね」
レイも頷いて同意する。
「まずは盗賊狩りをしてそれから海賊狩りかな。とにかく経験を積もう」
一拍おいて、レイは港がある方に視線を向けた。
「それに、わざわざこんな大きな港町に来たのなら、ライド、もしかしたら海に出ててる可能性もありそうだし」
「うん。その可能性は大いに有り得る」
ティアは頷きつつ、小さく嘆息した。
とんでもない無茶をしてどうにか西方大陸に戻って来たが、もしかしたらまた別大陸に旅立つことになるかも知れない。
まあ、それもライドの行き先次第ではあるが。
「長い船旅もあり得るから、やっぱりアロには経験してもらった方がいい」
改めてそう告げると、
「うむ。任せろ」
アロは、ぽよんっと自分の豊かな胸を強く打った。
「船も慣れる。すぐに昇格もする。そして早く主人を追うんだ」
熱い気持ちを込めてそう返した。
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