第2話 愛娘と仲間たち
その日。
リタ=ブルックスは、ホルターからの三日間の汽車の旅を終えて、カンザル王国の王都ラーシスに訪れていた。
――ひゅうゥ。
黄金のサイドテールが風に揺れる。
肩にはボンサックバッグ。腰には大剣を吊るしてリタは晴天の空を見上げた。
(さて)
辻馬車から降りたリタは早速歩き出した。
汽車を降りて真っ先に向かったのは王都の一角。カーラス商会だ。
辻馬車に乗って二十分。そこからさらに一分ほど歩いて到着したのは七階建ての高層建築物だった。これがまるまるカーラス商会らしい。
「……話には聞いてたけど凄いわね」
リタの実家など比較にもならない大きさだ。
少し気後れしつつ、リタは商会に入る。
今日の訪問は三日前に電報で知らせてある。リタは受付に向かった。
名前を告げると、受付嬢が「少々お待ちください」と言って、十数秒後には「では七階へどうぞ」と通された。
三階以上の高層建築物には設置されているエレベーターに乗って七階に向かう。
――チン。
エレベーターのドアが開かれる。
降りるとその先は長い廊下だった。奥に大きな扉が見える。
リタは扉の前に進むと、ノックした。
するとすぐに扉は開けられた。
そこはソファーなどが置かれた広いリビングのようだ。
「おう。よく来たな。リタ」
そう言って、扉を開けて出迎えてくれたのはよく知る友人だった。
浅黒い肌に白い総髪。額からは二本の角が生えている。背も高く、がっしりとした体格で相も変わらない美丈夫ぶりだが、彼女はまごう事なき女性だ。なにせその胸が凄い。今は派手な柄のビキニだけなので一層その大きさが分かる。
(……ぐぬぬ)
思わずリタが内心で呻くほどに。
黒い革製のタイトパンツ。ビキニだけの上半身の上に丈の短いジャケット。
それが彼女の私服姿であり、戦士としての装備だった。
「リタちゃん!」
リタの名を呼んで駆け寄ってくるのも友人だった。
背中まであるウェーブのかかった薄い桃色の髪の少女。瞳の色も同じだ。ゆったりとした白い神官衣を着ているのだが、小柄な体に似つかわしくない大きな双丘が揺れて、これにもリタは「ぐぐ」と呻いた。
――カリン=カーラス。
リタの親友である。
「おお! 姫!」
そしてもう一人。
ブロンドの髪を持つ長身の少年がリタの元に近づいて来た。
線の細い美形の少年――ジョセフ=ボルフィーズである。
彼は白い貴族服の上に赤い外套を羽織っていた。
「このジョセフ。御身の元に」
言って、リタの前で片膝をついた。それからいつものように手の甲にキスしようとして振り払われ、リタに冷たい眼差しであしらわれる。
ジョセフは「おお、
「ありがとう。みんな。集まってくれて」
リタはまず感謝を告げた。
「まあ、いきなり電報なんか来たらな」
ライラがボリボリと頭を掻いた。
カリンも「うん」と頷き、真剣な眼差しでリタを見つめた。
「本当に唐突だったから。何かあったんじゃないかって心配してたんだよ」
「僭越ながらこのジョセフもです」
片膝をついたまま、ジョセフが言う。
「やはり何か予期せぬ事態が起こったのでしょうか?」
「……うん」
リタは沈んだ表情で頷いた。
そして、
「みんな。ごめん。だけど、皆に相談したいことがあるの」
そう告げた。
それから三十分後。
リタはソファーに座っていた。
向かい側のソファーには、カリンとジョセフ。
そのソファーの後ろに腕を組んだライラが立っている。
すでに彼らにはこれまでの経緯を語り終えていた。
カリンは口元を抑えたまま言葉がなく、ジョセフは眉をしかめて指を組んでいる。
ライラも険しい表情を見せていた。
リタは膝の上に手を置いて神妙な顔をしていた。
沈黙が続く。
そして、
「マジかよ……」
ボリボリと頭をかいてライラが口を開いた。
「よく似てるとは思っていたが、まさか学長がリタの母ちゃんとはな」
「…………」
リタは無言だった。表情もほとんど変わらない。
「リタちゃん。大丈夫? 辛くない?」
カリンが心配そうに声を掛ける。
リタは「大丈夫」と微かに笑って答えた。
「もう一生分ぐらい泣いた後だし。もうそこまで落ち込んでないよ。けど……」
一拍おいて、
「流石にあの人に……学長には会いたくないわ。というよりも、もし会ったらあたし、あの人に何をするか分からないから」
「……そう」
カリンが悲しそうに双眸を細めた。
「それにあたしもう決めたから」
リタはさらに言葉を続ける。
「パパを探しに行くの。パパが冒険者になったのなら、あたしも冒険者になって会いに行く。風評被害なんて知ったことじゃない。そんなの聞こえない場所に行くだけよ」
そう宣言する。
そして「けど」と続けてリタは三人の仲間を見つめた。
「あたし一人だけじゃとても探せない。今のあたしはソロで活動できるほど強くない。だから我儘を承知でみんなにお願いしたいの」
リタは深々と頭を下げた。
「力を貸して。あたしと一緒にパパを探す手助けをして欲しいの」
「うん。いいよ」
リタの願いに即答したのはカリンだった。
一瞬の躊躇もなくそう答えた。
あまりにあっさりだったのでリタの方が驚いたほどだ。
「え? いいの? そんな簡単に?」
「うん」カリンはニコニコと笑って頷いた。
「私も何回か近くのダンジョンに潜ったら旅に出るつもりだったの。カンザルは高ランクのダンジョン数が少ないから。それに家訓でいつかは他国に出る必要があったの」
「私もOKだ」
ライラが、親指を立てて告げる。
「私は元々カリンの専任護衛だしね。つうか国を出る時、リタをどうにか誘えないかとカリンと一緒に悩んでいたぐらいだ」
「……ぐぐぐ、君たち!」
その時、ジョセフがカリンとライラを睨みつけた。
「このジョセフを差し置いて先に答えるとはいかなることだ! 無論このジョセフも当然同行する! 姫にお力添えすること以上の誉れなどない!」
「おや? いいのかい?」
ライラがジョセフを見やる。
「あんたは一応貴族さまなんだろ? 国を出るなんて許されるのかい?」
「このジョセフは三男だ。兄上たちがおられる。何ら問題はないさ」
「はは、そうかい」
ライラが腕を組んでカラカラと笑った。
「なら決まりだね。私らはリタに力を貸すよ」
「……ありがとう。みんな」
リタは再び深々と頭を下げた。
そんなリタに、ライラがふと思い出したようにニタリと笑った。
「けど、良いこともあったじゃないか。リタ」
「……え? 良いことって?」
リタが顔を上げて小首を傾げた。
「それってどういうこと? ライラ?」
そう尋ねると、ライラは肩を竦めた。
「いや、だってあんたの親権は学長が持つことになったんだろ? あんたの父親は実は養父だったんだ。そんで今は親権もない。ってことはさ」
ライラはにんまりと笑った。
「あんたは大好きなパパと結婚できるようになったってことだろ?」
そう指摘した。
リタは「……え?」と呟き、キョトンとした顔をした。
十秒、二十秒と沈黙が続く。
そして、
――ボンッ!
リタの顔が真っ赤になった。
「うえ? ええ? ええええッ!?」
思わず立ち上がってリタは両頬を抑え込んだ。
「うそおォ! ホントだ! よく考えるとその通りだ! えええええッ!? あたしの人生最大の難題がいつの間にかクリアされてるのっ!?」
そう叫んで真っ赤な顔のまま、再びソファーに腰を落とした。
心臓が異様なほどに高鳴っていた。
ややあって、
「あ、あたし、いま初めて母親に感謝したかも……」
呆けた顔でそう呟くリタだった。
「あ、あはは、良かったね。リタちゃん」
カリンがポンと手を叩き、少しだけ強張った顔でそう告げる。
ライラは額に片手を当てて「うわあ、やっぱマジもんの末期だったかあ……」と呟きつつ、ふとジョセフの方へと目をやった。
「そういやジョセフ。あんたにとってリタのあの反応はどうなんだい? やっぱリタに惚れてるあんたとしてはきついのかい?」
「ふん。愚かな問いだな。ライラ=グラッセ」
ジョセフはライラを一瞥して言う。
「このジョセフは忠義の騎士だ。至高の姫に忠誠心と崇拝はあれども、身の程も知らないような恋慕などは微塵もない」
「へえ」
ライラは感心した様子で呟く。
「たまに冷たい眼差しを向けていただけるだけで
「……へえ」
ライラは遠い目をして呟く。
「ま、まあ、ともかく!」
カリンがポンと手を叩いた。
「これでパーティー結成だね! ねえリタちゃん!」
カリンがまだ少し呆けているリタに声を掛けた。
リタは「え?」と顔をカリンに向けた。
「パーティー名はどうするの? 学生時代の時みたいな味気のないA班とかって訳じゃないでしょう?」
カリンの言葉にライラとジョセフも興味を寄せる。
三人の視線はリタに集まっていた。
「え? あたしが決めるの?」
リタが目を瞬かせていると、
「うん。リタちゃんが決めて」
カリンがニコニコと言う。
「実質、あんたのためのパーティーだからね」
ライラもそう告げる。
「すべては姫の御心のままに」
と、ジョセフも言う。
リタは少し困った顔をするが、「……うん。分かった」と頷いた。
数十秒の沈黙。
そうしてリタは命名する。
「あたしたちのパーティーの名は『
まさしく。
この時、日は昇り始めた。
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