探偵はいつ死ねるか
工藤佐々木
死にたがり探偵
空には真っ黒で今にも降りそうな雲が地平線まで続いている。
もう直ぐ昼食なのか浮き足だっているサラリーマン、空を見上げてもう直ぐ来る雨から逃れるために駆け足な学生。
自分が今いるこのビルの屋上、柵さえない無機質な場所。ここからは、様々な人の生活をのぞくことができる。
その一人一人が社会の歯車として悩み、考えながら生き社会に貢献しているのだろう。
自分がやっている探偵業の意味はなんなんだろうと、最近あった事件について思考を巡らそうとしたとき。
「ほら
首筋の冷たい感覚、ビクッと体が反応する。何事かと思えば、作浦刑事がアイスココアを右手に自分の後ろ立っている。
それでも、基本的に人当たりがよく、誰にでも敬意を持って接っせる、よくできた人だ。
しかし、この人も自分のことは仕事だから仕方なく頼っているだけにすぎないんだろう。心のなかでは暗い接しづらいとか思われているのだろう。
そう考える自分が嫌になる、なんでこんな事を考えてしまうのだろう。そう思い、自分をまた責める。
一度でも悪い方向に物事を考えてしまうと、嫌な考えが掘りだした芋のように繋がっていて、次々に思い浮かぶ。そのことを振り払うように話を切り出す。
「刑事さん、なんですか。また事件でもありましたか。」
「事件はないんだが、お前のことが心配でよ。お前は、頭はいいだが自己肯定感が低くて自分を執拗に責める癖がある。それに、最近、お前に解いてもらった事件は復讐関連が多い。だから、頑張って解決しても報われないことばかりで、お前は疲れてんじゃねーかと思ったんだ。」
刑事の自分を見透かしたような言葉に心臓が鷲掴みされているように感じに、汗が頬の上をつたい滴り落ちる。
「じゃ、あばよ。」刑事は、言いたいことをいいだけ言い、この場を立ち去った。
屋上の上から刑事がパトカーに乗り、去るのを確認し、一歩前に進む。視線を落とせば、そこには山積みに積まれたゴミとその上に居座る猫が小さく見える。
ここから下までら大体30mはあるだろうか、もし落ちたら確実に死ねるだろう。
雨がポツポツと降り始め、次第に強く、強くなっていく。
――昨日のことを思い出す。
格式のある和室の中、強面のお爺さん、悟と向きあっていた。外では雨が降り始め、バケツが吹き飛ぶような風が激しくふいている。それにより、戸や障子がカタカタと揺れている。
「なんで、あんな男を守ったんだよ。私の娘の優佳が復讐するのは当然の権利だろうが。」耳をつんざくような怒りの声が家中響き渡る。
風もその怒声に共鳴するかのように、さらに風は勢いを増す。
男とは軌範、最近会った事件の被害者であるが、それとともに悟さんの孫、優佳さんの娘である譜歌を殺した殺人鬼でもある。
規範は事件があった次の日に脱獄をした。そこで復讐のチャンスと思った優佳さんは規範を殺そうとしたが、私がそれを阻止してしまった。
私がその事件を阻止をして幸せになったのは規範ぐらいで、優佳さんの涙をポロポロ流しながら絶望している顔は今でも頭にへばりついている。
なので、自分は何も言うことはできない。ただただ怒りがおちつくのを待つだけ。謝罪の言葉でさえ意味をなさない。悟の言葉はボロボロの自分の心にとどめを刺すのには十分すぎるほどだった。ふと、横を見ると蝉が地面で死んでいる。
――あの時の蝉のように自分は動かなくなって何も考えられなくなる、そのことにはほとんど恐怖も後悔はない。けど、これから死んだ後に自分の遺体の処理しなければいけない人たちには申し訳ないなとは思う。
何もない空間に一歩足を進める。その瞬間何もない空間にとてつもない力で全身を引っ張られる。
これから死ぬんだと強く思わされる。
近くで、全力で地面を蹴り全力で走る足音が耳にはいる。ゆっくりと誰かがこっちに向かって走ってきているようだ。いや、向かってきている人がゆっくりというよりこの世界がスローモションになっている。
心は諦めてそのままにして欲しいなと思うのに、体はまだ生きようと意地汚く手を伸ばす。
その手がガッチリと手が痛くなるほどに強く掴まれる。
掴まれたまま空を見ると先程まで降っていた雨は止んでいた。
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