与太

maria159357

第1話 【奇天烈】

与太

奇天烈


     登場人物




        遊意 調 ゆいしらべ


        遊意 白波 ゆいはくあ


        遊意 星羅 ゆいせいら


        遊意 林人 ゆいりんと


        遊意 大地 ゆいだいち


































  第一章 【奇天烈】








































 人間は自由であり、つねに自分自身の選択によって行動すべきものである。


             サルトル
























 ピンポーン・・・


 「はいはーい」


 「ヒーハ―イーツです」


 「どんなイーツだ」


 とある日、いたって普通の日、そして腹ペコで仕方なかった日、彼らは外に出るのも面倒で、暑いから出なくないな、と思って宅配を頼んだ。


 クーラーの効いた部屋でごろごろしながら、地球温暖化がどうだの、海水温がどうなのと、現状と拮抗するような内容のニュースを流している。


 つい先ほど起きたばかりだというのに、雑魚寝を始めた弟たちを見て、宅配を受け取った長男が目を細める。


 「兄ちゃんがこのクソ暑いなかクーラーの効いた部屋から死に物狂いで出て行ってお前らの飯を受け取ったってのに、出迎えも無ぇとは何事だ。いらねぇってことか」


 長男の言葉に、弟たちは一斉に起き上がっててきぱきと動き出す。


 ある者は長男のために椅子を準備し、ある者は冷たい飲み物を、そしてまたある者は肩をもみ、ある者は癒しのスマイルを向ける。


 「最後のはいらねぇ」


 テーブルに置かれたそれらを開けると、誰がどれを頼んだものかと次男が配っていく。


 それぞれの前に飲み物がセットで置かれると、長男が両手を合わせて「いただきます」と言う。


 それに合わせて他兄弟も声を揃える。








 そろそろここで兄弟について紹介をしよう。


 まずは長男だが、金髪で前髪をあげたミディアムレイヤーヘアという感じだろうか。


 本人いわく、絶対的長男だという。


 「長男の遊意調です。霊が視えます。触れます。数珠で殴れます。彼女募集してます」


 本人からは以上らしい。


 そして次男は黒髪で顔周りは少し長いが後ろは短く、一見クールボーイだがただの天然らしい。


 「次男の遊意白波です。感情が視えます。食べることが好きです」


 本人からは以上だ。


 三男は茶髪で艶々した髪をしている。


 兄弟のなかで唯一美容に気をつかっており、次男の白波に対抗意識があるのか、白波に対してのみ喧嘩腰になる。


 「三男の遊意星羅です。思考が視えます。肌が敏感でボディクリームは欠かせません」


 本人からは以上だ。ちなみに、この紹介の際も白波を睨みつけていた。


 四男はボサボサした毛先があっちこっち黄土色の髪で後ろはちょこんと尻尾のように縛ってあり、基本的に明るくムードメーカーなのだが、怖がりだしよく物を壊す。


 「下から数えて次男の遊意林人です!未来が視えます!すごいでしょ!目がめっちゃいいです!マサイ族並みです!多分!マサイ族に会ったことないから知らないけどね!」


 本人からは以上だ。


 そして最後に五男は、生まれたときから白髪で、性格は非常にマイペースで淡泊、それでいて時代劇にはまっているという。


 「末っ子でみんなに可愛がられる予定の遊意大地です。動物と話せます。最近のお気に入りは通学途中にいる謎の雑種よりの柴犬です」


 本人からは以上だ。


 そんな感じの5人兄弟のもとに、一通のメールが届くのもまた、日常ではある。








 「兄貴、またなんか来てる」


 「なんかってなんだ、白波」


 「事故が多発してる場所があるって。原因がわからないみたい」


 「あれじゃないの?この前テレビの突破的な感じでやってた、錯覚とかで道が続いてるように見える、みたいな」


 「違ェ」


 「白波ムカつく」


 「星羅五月蠅い、邪魔」


 「は?何が五月蠅いわけ?俺の何が五月蠅いの?俺叫んだりした?ずっと喋り続けたりした?」


 「そういうのが面倒臭いんだよお前」


 「ああ!?」


 「はいはい、白波も星羅も静粛に」


 「「だってこいつが」」


 「兄ちゃんの言う事がきけねぇのか」


 「「・・・・・・」」


 調に叱られると、白波も星羅も大人しくなる。


 調がきていたメールの詳細を確認していると、膝の上に大地が座ってきて、調は慣れた様子で文句も言わずに頭を撫でながら確認を続ける。


 すると今度は逆の膝に林人が座ってきて、あまりにはねた髪の毛が調の視界を邪魔するも、調は首を少し傾けるだけでどかしたりはしなかった。


 「重てェ」と言ったところで、この下2人がどかないこともわかっているため、調は2人が飽きて自分の膝からいなくなるのを待つだけだ。


 「事故は一か所で起きてるわけじゃねえのか」


 調の言葉に、先程メールを見ていて内容を知っている白波が答える。


 「うん。近辺ではあるけど違う場所。それに、黒い狐を見たかもって情報もあるみたい」


 「ふーん・・・」


 「俺と兄貴で行って調べる」


 星羅がまだ不機嫌そうな顔をしながら、これまた不機嫌そうな声で言った。


 すると、白波が反論する。


 「お前より俺の方がいいと思う。俺は感情が視えるからそこに留まってる霊がいればわかるし」


 「は?こういうのは原因を探るのがいいんだよ。俺ならなんでそういうことをするのかわかるし」


 「わかるからなんだよ」


 「白波喧嘩売ってんの?」


 「よーし林人、行くぞー」


 「やったー!!!幽霊さんに会えるー!」


 白波と星羅が喧嘩している間に、調は林人を連れて玄関に向かう。


 「なんで林人?」


 星羅が眉間にシワを寄せながら、林人が靴を履くのを待っている調に聞けば、調はため息を吐きながら言った。


 「どっちか連れて行ったら喧嘩になる、どっちも連れて行っても喧嘩になる。ならどっちも置いて行くのがいいだろ。お前ら2人にすると部屋めちゃくちゃになるから、見張りとして大地を置いて行く。いいな?」


 「大地が見張り?」


 「不服か?なら林人見張りにして大地連れていってもいいんだぞ、俺は」


 「・・・・・・」


 ニコニコと笑っている林人は、すでに調の手を握っている。


 何より、白波と星羅が同時に思ったことは、林人は大地より落ち着きがなく、ちょっとでも目を離すと壁に激突したり食器を落としたりするため、大人しくしてくれるであろう大地にいてもらおう、ということだ。


 白波も星羅も納得はしなかったが、渋々了承する。


 「大地―」


 「なにー兄者」


 調が大地を呼べば、大地は白波の後ろからひょこっと顔を出した。


 「兄貴2人が喧嘩しねぇように見張り頼むぞ」


 「はーい。頼まれたー」








 「兄ちゃん!帰りにアイス買って!」


 「しょうがねえな。箱アイスならいいぞ」


 「やったー!!!ハーゲンダッツ!」


 「それ以外な」


 しっかりと林人の手を握りながら事故現場へ向かっていると、何かの視線を感じた。


 調は顔を動かして辺りを見てみるが、特に何もいない。


 そのまま幾つもあった事故現場を見て回っていると、ふいに、林人が「あ」と言った。


 「どうした?」


 「また事故が起こるよ」


 「何処でだ?」


 「あっち」


 林人に案内してもらっていくと、そこはなんともない緩やかなカーブの道だった。


 大きな交差点があるわけでもなく、自転車や車も多く通っているわけでもなく、信号機もついている、のんびりとした印象の道だ。


 そこで少し待っていると、車が一台やってきた。


 それほどスピードも出ていなく、信号が赤になって停止をしてからまた走りだしたその時、車はいきなり街路樹へと激突した。


 「おいおいおい」


 調はすぐに警察へ連絡をすると、急いで車へと向かっていき救出を試みる。


 「大丈夫ですか!?」


 「・・・うっ」


 それから数分で救急車がやってきて、運転していた男性と、同乗していた女性は病院へと運ばれていった。


 調は状況を聞かれたため簡単に説明をする。


 「またか」


 「一体どうなってるんだ」


 警察官たちはそのような会話をしていた。


 「・・・・・・」


 「兄ちゃん、何視たの?」


 「ん?」


 「アイス食べたい」


 「そうだな」


 箱アイスを買って家に帰る予定だったのだが、調はもうちょっと視たいものがあるらしく、他兄弟には内緒ということで林人は箱では無いアイスを買ってもらった。


 「歯にしみるぅ~」


 「その歳で知覚過敏か」


 林人がほっぺを摩りながらアイスを食べている姿を見て、調は小さく笑う。


 そよそよと吹く風はなんとも生温い。


 さっさと家に帰ってクーラーの効いた部屋でごろごろしたいのは山々なのだが、今の調はそうはいかなかった。


 なぜなら、いつの間にか調に気付いた霊たちが周りに集まってきていたからだ。


 「兄ちゃん、今幽霊さんたちいるの?」


 「ああ。めたくそいるぞ」


 「何て言ってる?」


 「分からねえ。俺は聖徳太子じゃねえから」


 沢山の霊たちが調に話しかけてきているため、誰が何を言っているのかまったくわからなかった。


 1人1人に聞いて行くしかないかと思っていた調だったが、アイスを食べ終えてべたべたな手を調の服でふいていた林人が再び「あ」と言った。


 「兄ちゃん、また事故が起こる」


 その場所へ向かうと、そこには黒い狐がいて、近くの公園で子供が遊んでいるのを見ると、今度は車が走ってくるのを見て微笑んでいる。


 「林人、ここで待てるか」


 「うん!」


 「よし、いい子だな」


 林人の頭をポンポンと撫でると、調はその黒い狐のもとへ向かう。


 「お前か?この辺りで事故起こさせてたのは」


 『何のことかな』


 「あ、話せるタイプか。お前、この辺にいる霊たちに事故起こす手伝いさせてんだろ。何がしてぇんだよ」


 『面白い。霊と話せるのか。でも証拠はないな』


 「証拠って、お前人間かよ。証拠ならお前に手を貸した連中が証言してくれんじゃねえの?」


 『彼らは自分達が事故に遭って亡くなったことに納得がいっておらず、自分達と同じような目に遭えばいいと思っているんだ。証言などするはずがない』


 「納得いかなくても受け入れなくちゃいけねえことってのがあんだろ。それに、他人巻きこんでいいわけねぇだろ」


 『ならどうする?』


 そう言うと、黒い狐はこちらに向かってくる車を指さした。


 『今からあの車は、飛びだしてくる子供を轢く。だが、お前の弟もピンチだ。どっちを助ける?』


 「!!」


 調が林人の方を見ると、林人は視えていないからわかっていないようだが、林人の周りにいる霊が、林人の後ろにある建物のガラスを林人に向けて落とそうとしている。


 そして車もまた、こちらに向かってくる。


 ボールがトントン、とスピードを落としながらも道路へと近づいて行き、それを追いかけている子供もまた、車との距離を縮めて行く。


 『人間は弱い生き物さ。自分が幸せなときは分けようともしないのに、不幸になると途端に自分だけがなぜと納得いかず、みんなも不幸になれと願う。ただそれだけで、この世に留まれるものなんだよ』


 「・・・・・・」


 黒い狐が話している間も、車も子供も林人も、それぞれに危機が迫る。


 「兄ちゃん!」


 林人に呼ばれ、調はそちらを見る。


 すでに後ろのガラスはカタカタと動き出しているのだが、林人はいつものように笑っていた。


 『可哀想に。弟はきっと、自分を犠牲にしてでも他の子を助けてあげてくれと言っているんだね』


 どちらを優先するのかを楽しみにしている黒い狐は、尻尾を優雅に振りながら調のことを観察している。


 尻尾で弧を描いている口元を隠しながら、目の前で起こるだろう惨劇を待つ。


 そのとき、ジャラ、と何かの音がする。


 調はポケットに入れておいた数珠を取り出すと、それを手に巻き付けて、まるでボクサーがグローブの感触を確かめるかのような仕草をする。


 「待ってろよ。兄ちゃんが助けてやるからな」








 『くく・・・はははは!やはりそうか!結局は他人より自分の身内か!そうだな!間違ってはいないだろうな』


 調が何の迷いもなく林人の方へ向かっていく姿を見て、黒い狐はコンコンと高笑いをする。


 すでに調の方には興味がなくなったのか、黒い狐は子供の方へと視線を向けると、そこに迫る車を見つめる。


 車の運転手は子供にまだ気づいておらず、子供もまた、車に気付いていない。


 ボールを必死に追いかけている子供は、すでに道路の手前まで来ていた。


 いよいよ、という時だ。


 物凄い音がしたかと思うと、子供が追いかけていたボールはなぜか子供の方まで舞い戻っており、車は何事もなく通り過ぎていった。


 『なっ・・・!?どういうことだ?!』


 黒い狐は細い目を少し見開きながら叫ぶ。


 「兄ちゃん足速い!」


 「ったぼーよ。伊達にお前ら暴れん坊の弟たちを相手にしちゃいえねぇっての」


 『お前何をした!?』


 調は林人を抱っこしており、余裕そうに黒い狐へと近づいてきた。


 そしてなぜか、林人の周りにいた霊たちが調を見てビクビクしている。


 一旦林人を下ろすと、調は道路でうつ伏せになっているとある霊の首根っこを掴んで自分の方に向かせると、今度はその胸倉を掴みあげる。


 調はにっこりと笑みを浮かべるが、霊は顔を引き攣らせている。


 「お前さぁ、俺の弟に手ぇ出そうとしてタダで済むと思ってんの?」


 『え?あの、すみません。えと、悪気はなくて・・・っていうか、自分の意思じゃなくて・・・!』


 「悪気が無くて、で弟に怪我させる心算だったってのか?悪気は無ぇけど悪意はあったのか?その前にやりたくねェことはやりたくねェって言わねえとダメだろ」


 『悪気はないけど悪意はある!うまい!』


 「ふざけてんのか」


 『すみません!!!まさかあの、人間に殴られるとは思っていなくて。いやあの!!そうじゃなくて!!吹っ飛ばされると思ってなくてですね!!?』


 「つかまずは林人に謝るのが先だよな?弁明のみってことは反省もしてねぇってことだよな?」


 『すみません!!!違うんですうううう!!!いやまじで!!!本当に、あの、あそこにいる狐に命令されただけなんで!!やべぇんですってあいつ!!』


 「そうか。わかった」


 『ありがとうございます!』


 「ひとまずお前は殴る」


 『えええええええええ!?何でええ!?』


 そう言うと、調は躊躇なく霊を殴った。


 林人は霊が視えないため、調が何かに対して1人遊びしているようにも見えるのだが。


 調が数珠を持った手で思い切り殴りつけると、調にさんざん責められていた霊は、フッと消えてしまった。


 すると、調は林人の方に歩み寄ってきて、その後ろでまだ何かしようとしている霊たちを次々に殴りつける。


 それはもう、どういうこと?って思うくらいすごいものだったが、霊は次々と消えていくだけ。


 『どういうことだ?』


 「・・・成仏させただけだ」


 『殴っただけだろ』


 「おう。思いっきりブン殴ってやった」


 調は林人をまた抱っこすると、黒い狐と一定の距離を保ったまま話続ける。


 「ま、殴る必要は正直ねぇんだけど」


 『ないのか』


 「成仏してくれよ、の気持ちが強すぎてついな。殴った方がちゃんと成仏するんだよ。多分。知らねえけど」


 『殴らなくとも成仏するだろうに』


 「いいんだよ。そもそもいつまでもこの世に留まったっていいことなんてねぇから。さっさと成仏してあっちに逝った方があいつらのためだろ」


 『その数珠か』


 「ばあちゃんから貰った数珠だ。よく知らねえけど」


 『それで私も成仏させるか』


 「いや、お前霊じゃなくね?妖怪じゃね?俺妖怪は専門外なんだわ」


 『ならばどうする?私はこの先もまた人を惑わし続けるぞ』


 「・・・・・・」


 ジャラ、と数珠を確認すると、調はぐ、と数珠を握りしめてから林人を下ろす。


 「やってみっか。成仏できっか」


 ニヤリと笑った黒い狐に、調は殴りかかろうとするが、ひょいっと身軽に避けられてしまう。


 黒い狐がちら、と林人を見たため、調は急いで林人のもとへ向かうとまた抱っこする。


 すると黒い狐は姿を消してしまっていた。


 「くそっ」


 「兄ちゃん、あっち」


 「さすが林人」


 少し調たちから距離を置いた場所まですでに逃げてきていた黒い狐は、その場で辺りを見渡し、調たちが追って来ていないことを確認する。


 ふう、とこれからの悪さを考えようとしていたとき、急に風が吹く。


 慌てて身をよじれば、振りきったはずの調がそこまで来ていた。


 『なぜだ』


 「悪いな。うちの林人、すげぇんだわ」


 ふと、黒い狐は何か自分の身体に違和感を覚え、あちこち腹の下や尻尾の中など、色々触ったりしていると、自分の額にもう1つ、見知らぬ目がついていることに気付く。


 『くそっ、千里眼か』


 「痛いいい!!!」


 「林人!」


 黒い狐はそこについていた目に砂をかけると、急に林人は自分の目を抑えて泣きだした。


 調は林人の方を見てすぐに黒い狐を見ると、もうそこに黒い狐はいなかった。


 すぐに公園に向かい、水飲み場の水で林人の目を洗い流すと、少しして林人はなんとか通常通り目を開くことが出来た。


 「兄ちゃんごめん」


 「いや、林人はよくやった。頑張ったな。目、大丈夫か?眼科行って診てもらうか?」


 「やだ!目がおかしくなる!」


 「なんでだよ」








 「で、その霊はいいとして」


 「あんまよくねぇけどな」


 「黒い狐は何だったの?」


 「さあな?ま、幻影見せて事故らせたり、霊使って事故誘発したり・・・妖怪は専門外だっつーの」


 「林くん、目まだ痛いのか?」


 「んー、星兄の顔が真っ白でオバケみたいに見える」


 「林人大丈夫だ、正常だ。こいつフェイスパックしてるだけだから」


 「それより白波、星羅、なんだこれは」


 「何が」


 「何がじゃねえよ。どう見たって部屋ん中が鳥のフンだらけじゃねえか。大地はどうした」


 「兄ちゃん、大地が大型犬に乗ってとあるもののけ姫ごっこしてる」


 「“とある”を付ける意味ねぇぞ」


 「しかも寝床で」


 「おおおおおおおいいい大地いいいいいいい!!!!!幾ら温厚でイケイケな兄ちゃんでも怒るからなああああああ!!!!!!飼い主さんが心配するから早く返してきなさいいいいい!!!!」


 「・・・そこ?」


 いつの間に何処から連れてきたのか、大地は大型犬を部屋に連れ込んでいたようだが、近所の家の犬のようで、大地と白波でちゃんとお返しにいった。


 鳥のフンに関しては、白波と星羅がまた喧嘩を始めてしまったらしく、大地は窓を開けてベランダにとまっていた雀と話をしていた。


 すると雀が部屋に入ってきてしまい、近くに巣でもあったのか、もう1羽入ってきて、その2匹がフンを落としながら白波と星羅の喧嘩を止めてくれたのだという。


 「・・・いや、なんか綺麗にまとめようとしてっけど、結局人ん家に好き勝手フンして帰って行っただけだよな?」


 「でもそのお陰で次男白波も三男星羅も呆然として言い争いを止めたんだよ、兄者」


 「雀があいつらの間に仲裁でも入ったか?違うよな?ただフン落としただけだよな?」


 「仲裁に入ってた。見た」


 「見た、じゃねえよ。大地、お前が動物と話せんのは知ってっけど、嘘は吐くなよ。仲裁には入ってねぇよな?フン落としただけだよな?そこに意味はねぇよな?怒らねぇから言ってみ?」


 「うん。嘘だよ。仲裁に入ったどころか煽りに来てた。『もっとやれ』『喧嘩すんならもっと派手にやれ』とか『フン落とし放題だぜ』『いつもこの白髪のガキ俺たちのこと見下してやがるから嫌がらせしてやろうぜ』とか言ってた」


 「性格悪っ。鳥に喧嘩煽られるって何?つか何?大地はいつも雀を見下してたわけ?」


 「違うよ。見下してないもん。『大人になってもいつまでも可愛い可愛い言われて良い御身分ですね』って言っただけだもん」


 「だもんじゃねえな。喧嘩売ったな。お前が売ったな。まじかよ。報復されてんじゃねえか。逆襲だよこれ」


 はあ、とため息を吐いた調は、とにかく部屋を掃除しようと箒、ちりとり、雑巾などを用意して全員に持たせる。


 「さっさと片付けるぞ」


 「白波邪魔」


 「星羅邪魔」


 「兄ちゃん!こっちには犬のフンがあるよ!」


 「疲れた。眠いよ」


 「お前ら掃除が終わらなかったらフンだらけの部屋で寝ることを忘れるな」


 「兄ちゃん!フン!見て!でけー!」


 「白波!!俺の方にフン寄こすんじゃねえよ!!!」


 「ああ?お前がんなとこにいんのが悪いんだろ」


 「あ、そうだ。アイス残ってた気がする」


 わーわーと騒いでいる弟たちに、調はまたしてもため息を吐く。








 「はいはい。兄ちゃんの言う事をちゃんと聞きなさい」






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