第39話
「悪かったな虎太郎」
自粛していた部活動もちらほら再開され始めている中、長谷川と虎太郎、それに城ヶ崎は綺麗に掃除されテーブルと椅子だけになった新聞部の部室に座っていた。
「もしかしたら俺は最初からおっさんのことを疑っていたのかもしれない。でもあの時ばかりは自分の勘を信じようとしなかった。いや、信じたくなかったのかもな」
城ヶ崎と虎太郎はそう言って哀しそうな顔をする長谷川をただ見つめていた。
「結局伊吹さんの死の真相もわからないままだ。悪い」
「謝らないでください部長」
「その刑事の話しから推測すると伊吹さんは何かを見たんだろうな」
城ヶ崎は何かを考えているようだった。
「おそらくな。それで学校に侵入した」
「やはり自殺ではなかった。何かを見て何かをしようとして落ちた。事故と考えるのがよさそうだ」
「何があったんだろうな」
「部長も城ヶ崎さんも、もう充分です。本当にありがとうございました」
虎太郎は座ったまま二人に頭を下げていた。
「自殺じゃないとわかっただけでも満足していますから。僕も両親も」
「そうか。ならいいんだが、俺としても気になるんだよなぁ」
長谷川は背もたれにもたれ掛かって何かを考えようとする姿勢をとろうとしていた。
「そう言えば長谷川、校長はどうしてその刑事の言いなりになっていたんだ?」
「ん? ああ、校長な。やっと自白しだしたよ。校長は昔からおっさんにいろいろと助けられてたんだよ。からかわれていたのを助けてもらったりして気が弱かった校長はいつもかばってもらってたんだ。そんな校長は大人になってからもおっさんにたくさん借りを作った。一人息子が手におえなかったらしい。やんちゃして警察に捕まった時も口添えしてもらったり就職の時にそのやんちゃを揉み消してもらったりってね。いつの間にか校長はおっさんの言うことをきかざるを得なくなってたんだろう。犯罪を犯すくらいにな」
「そうか、あの校長が一人で考えてやったとは思えなかったからな」
「そうそう、校長がギャンブルでいろいろ揉めた時もおっさんが助けてたみたいだな。気は弱いけどギャンブルとなるとすぐに頭に血がのぼるらしいぞ」
「やはり金は人を豹変させてしまうのか」
「ああ。そしておっさんも金に困っていた。奥さんのおやじさんが入院しててな。けっこう金が必要だったらしい。その上今度は自分の母親の介護が必要になったが施設に入れる金もなかった。それで校長のいる若葉に目を付けたわけだ」
「なるほど。お前が言っていた呪いの意味がわかったよ。確かに校長とその刑事の関係は小さい頃からずっと続いている呪縛みたいなものだな」
「あの……」
二人の会話を聞いていた虎太郎がそっと口を挟んだ。
「ん、どうした虎太郎」
「すみませんでした」
虎太郎は突然頭を下げていた。
「なんだよ虎太郎」
「何を謝っているんだ?」
虎太郎は顔を上げて二人を見た。
「僕が兄のことを知りたかったせいでお二人を巻き込んでしまったこともそうです。僕のせいで部長にも辛い思いをさせてしまってすみませんでした」
「おいおい虎太郎くん。俺たちは虎太郎くんに感謝しているんだ。生徒会長という立場から言わせてもらうと若葉高校にある膿を出せて綺麗になってほっとしているよ。そりゃあ今は世間からは冷たい目で見られるけどそのうちすぐに忘れられるさ。忘れさせるくらいこれから挽回していけばいい」
「そうだぞ虎太郎。おかげで俺も勉強になったよ。いろいろと推理するのも楽しかったしな。おっさんについてはまあ、哀しくないと言えば嘘になるが。とにかく虎太郎は何も気にするな。それよりもお前はこれからのことを考えろ。もう俺はこの新聞部は引退する。お前が新聞部の部長として好きにやってもいいし、なんだったら、新聞部は廃部にして違うことをやってもいい。よく考えて虎太郎の好きにしろ」
「……はい」
「長谷川、お前はやっぱりあれか? 警察官になるのか?」
「ああ、ずっと迷ってたんだけどな。今回のことで確信したよ。俺は警察官に向いてるってな。ははっ」
「確かに向いてるよ」
「今から受験勉強に専念しなきゃな」
「まあ、お前なら大丈夫だろう」
「俺もそう思う」
「何だよ、少しは謙遜しろよな。なんか腹立つだろ」
「ははっ、お前こそ余裕ぶっこいてるじゃねえか」
「俺は日頃からちゃんとやってるからな。それに俺には生徒会長という肩書きがあるんだ。強い味方がな」
「あ、ずるいぞお前、俺にも何か肩書き分けてくれよ」
「バカか。分けれるわけないだろう」
「生徒会長補佐とかさ、何かねえの?」
「お前は新聞部の部長で充分だ」
「えー、何かダサくねえ?」
「ふふ……」
「あ? 何だよ虎太郎、笑ったな? 今新聞部はダサいって思っただろ?」
「ははっ、いえ、とんでもないです」
「くそっ、二人で俺のことをバカにしやがって」
「ははは、別にバカにはしてないぞ?」
「してませんよ、部長」
「あん? 証拠を見せろ、証拠を」
「証拠はないな」
「ないですね」
「はあ?」
「ふふ」
「はははっ」
三人の笑い声はしばらく続いていた。
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