第34話



 ――八月三十一日 23:01――


「兄ちゃん、部活お疲れ様でした。帰ったら連絡してね」

「ただいま虎太郎。帰ったぞ」

「兄ちゃんお帰り。部活お疲れ様でした。どうだった?」

「ああ、ありがとう。やっぱり最後は寂しいな」

「泣いた?」

「はは、泣くつもりはなかったんだけど、みんなが泣くとつい、な」

「そうだよね。僕も今の部活が終わると思うと泣きそうになるもん」

「お前はまだ早いだろ。まだ一年生だぞ」

「だから、兄ちゃんの気持ちもわかるって言いたかったんだよ」

「そうか? でもまあ、これからは生徒会で忙しくなるからな。一応受験もあるし」

「えっ、兄ちゃん特待生じゃないの?」

「特待生っていうかスポーツ推薦な。いくつか推薦してもらってるけど受験はあるから」

「そうなんだ」

「だからいつも言ってただろ。勉強もやらなきゃって」

「わかってるよ」

「ひとつ教えておくけど、バスケだって頭使うんだからな。バスケだけじゃない。スポーツも他の競技なんかも全部だ」

「どういうこと?」

「相手がどうでるか何をしようとしているか、頭で考えてから動くんだ。そして自分がこう動いたら相手はどう動くか。常に先を読まなきゃいけない」

「そうなの?」

「ああ、やっぱり虎太郎はまだわかっていなかったか」

「わかんないよ」

「だからすぐにボールを取られるんだぞ」

「あ! もしかして兄ちゃん、母さんに何か聞いた?」

「ははっ。聞いたさ。虎太郎が練習試合に出たけどすぐボールは取られるわシュートも打たせてもらえないわって落ち込んでたって言ってたぞ」

「あれは、相手のディフェンスが強すぎたんだよ」

「虎太郎、人のせいにするなよ。相手が強いのは当たり前だ。だったらその相手のディフェンスをどう抜けていくかを考えればいいだけだぞ」

「そんなのわかんないよ」

「だから頭を使えって言ってるだろ。俺はそいつを見てないからなんとも言えないけど、一緒に戦ったなら何かわかるだろ? それもわからないのか?」

「わからない」

「試合をする時は相手のこともよく見ろ。相手が何が得意なのかどこにすきがあるのか、練習試合っていうのはそういうことを知ることができるから大事なんだぞ」

「わかったよ」

「その言い方はわかってないな。まあ、ずっと続けていればそのうちわかるようになるよ」

「なるかな」

「兄ちゃんを信じろ」

「うん」

「じゃあ、そろそろ兄ちゃん風呂入ってくるわ」

「うん。お休み兄ちゃん」

「お休み」





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